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047.「」


「あっ、そういえばアル。昨日のあれって結局、何だったの?」


「え?」


「ほら、なんか騎士団……? みたいな人たちが来て呼び出されてたじゃない?」


 ふいにスーランからそんなことを聞かれた。

 あー、と目を泳がせる。


 本当のことを話すなら……。

 連れていかれたのはギルド地下にある修練場みたいなところだ。


(どこに連れてかれるんだろ……? ちょっとイヤな予感はするけど……ま、何とかなるでしょ!)


 なんてお気楽に考えていたら残念。

 そこに待ち構えていたのは銀剣と名高い、ジルクリフ・ガレイアだった。



 これは後で分かったことだが――。

 どうやら彼と、その兄であるライナルトは少しまえからレドックスとアルメリアの密会関係に気づいていたらしい。


 というのも。

 最近とても忙しかったのだ、アルメリアは。

 ただのポーション造りでさえ、手が回らなくなってきている。


(もうてんてこ舞いなのに……)


 そこに毒蟲たちが現れて、さらに忙しくなった。


 だからレドックスにお願いしたのだ。


『お願いレド、悪いんだけど……。たぶん森の奥に毒蟲たちの巣穴とかがあるんだと思うの。これじゃあキリないから、先にそっちを見つけて叩いてきてくれない?』


『やなこった』


 秒で断られた。


『飽きた。たしかに最初は物珍しかったけどナァ、飽きた。もれぇ、アイツら。すぐぶっ壊れやがる。ブンブン飛び回って、数ばっかじゃねーかよ。ギチギチ、ギチギチ。ウゼェ、ウッセェ、ツマンネェ、しょーもねぇ。チマチマやってれるか。ハエ、ミミズ、カマキリ、クモ、ムカデ、ナメクジ、ダンゴムシ』 


『あれ、思ったよりだいぶレパートリーが……』


『んだこりゃあ、夏休みの宿題か? 楽しい楽しい観察絵日記か!? 俺はいつから虫捕り少年になったんだよオイ、あァッ!??』


 口先を尖らせ、反抗期の子どもみたいにブツクサ不満を並べ立てながらズイと迫られる。


『いいか、ピィスケ。俺がブチ斬りてぇのは……肉だ。裂いたらちゃんと噴き出て、真っ赤な血の飛び散るアレだ。俺にもオメェにもちゃんとドクドク通ってるヤツだろーが』


『あ、あの……ごめんねレド。そこは本当に申し訳ないと思ってるんだけど』


『青とか緑とか、そんな腐った色合いのエキスじゃねぇんだよぉお……ッ!』


 だいぶストレスが溜まっているみたいだ。

 無理もないのかもしれない。

 この頃はこんなお願いばかりしてしまっているから。


『俺はやらねぇ。ガイチュー駆除なんざその辺のギョーシャに頼めや』


 さすがにそれも無理難題だろう。

 ドウドウの構えは取りつつ、アルメリアも営業スマイルを取り繕う。


 なんとかご機嫌をうかがおうとして。


『でもこのまま放っておいたら……たぶんそのうち、さらに厄介な毒蟲も出てくると思うのよね。正直、心当たりもあって』


『心当たりィ?』


『なんていうか、まえにちょっとね。まぁそのときは追い払ったからいいんだけど……とにかく、お願い! こないだの件もあって、最近なんか妙に評判になっちゃってるのよ。私のポーション……。これ以上、目立ちたくないっていうか……』


『ハッ、んだそりゃあ。自意識カジョーか?』


『そうじゃないけど……。このままじゃレドのお兄さんたちにもバレちゃうかなって。面識だってあるわけだし。とくにジルクリフさんだっけ? 次男の人』


『アホグリフだ。つってもよ、たかが2、3回ツラ突き合わせただけだろーが。いちいち覚えてねーだろ』


『実際にはもう少し多いし、そうでなくともフツー覚えてるわよ。ただでさえ魔女扱いされてるし、キライな相手なら尚さらでしょ』


『……まァ、ひょっとしたらあるかもな。昔っから根に持つタチだからよ、アイツは。女々しいったらねぇぜ』


『じゃあ聞くけど、そういうあなたは何日目に覚えたのよ。私の顔』


『んなモン、初日に決まってんだろーが。転がされてから秒だ』


『正直なのは大変よろしいですけど……。とにかくほら、このままじゃマズイでしょ? だからお願いっ!』


 そんなやり取りを介しつつ、不承不承ながらなんとか取り付ける。


『じゃあ、そういうことだから。悪いけどしばらくのあいだお願いね、虫捕り』


『あぁ、その言い回しぁムカつくぜ。わざわざガキっぽく直してんじゃねぇぞ。ボケナスビ……!』


 行ってらっしゃーいと送り出したのだった。


 たぶんそれが――。


(見られてたんだろうなぁ……)


 今となってはそう思う。

 もっと言うとそれからも時々、たまに顔は合わせていたのだ。


 人狼体質のおかげでレドックスにはあまり毒も効かないみたいだけど、念のため解毒ポーションも持たせていた。


『要らねぇよ、前のがまだ余ってる』


『ダメよ。ポーションって作ってから日が経つと、だんだん品質が落ちていくのよ。だからはい、これ新しいの。今朝作ったヤツだから、それと交換して』


『……チッ。息子にベントー持たせるカァちゃんか、オメェ』


『あなたがいつまでも思春期息子みたいなことをグチグチ言ってるからでしょ。なんでもいいから、はい』


 たまにそうやって交換もしていたから。

 たぶんどこかで、その一部始終とかを目撃されて。


『いったい何を考えてるんだ、あのバカは! 正気か……!? なぜ、いつの間に奴とつるんで……!? しかもポーション屋だと……!?』


 いろいろとバレてしまう。

 すぐに事態が悪化しなかったのは、ライナルトが上手いこと口利きしてくれていたものと推測するが。


 でもそんな悠長なことを言っていられなくなってしまったのが先日、ムシウル襲撃によりライナルトが負傷したときだ。


 解毒のためには、どうしてもマンドラゴラが必要だった。

 だからジルクリフは、あんな――。


(今度こそ私を倒して、力づくでもマンドラゴラの在処ありかを吐かせようとした。そういうことなんだろうなぁ……)


 いろいろと行き違いもあったし。


(レドの乱入で余計、ややこしくもなっちゃったけど……)


 それが昨日、わりとドンチャンしていた騒動の全容である。




 さておき。

 それをそのまま不思議そうな顔をしているスーランや。


「アルメリアさん?」


 ギルダに話せるわけもなく。


「あ、ううん。何でもないっていうか、そう! 昨日のあれは、ええっと……つまり……」


 どもる。


「いつも頑張ってくれてありがとう、みたいな?」


「……それだけ?」


「それだけ」


「ほかに何か恩賞は……慰労品の1つもございませんでしたの……?」


「なかったかな」


 沈黙。


「ひっどーい! アル、こんなに頑張ってるのに!」


「アルメリアさんがこれほど貢献なさっているというのに……! まったくもって正当な評価とは言えませんわ! 抗議すべきです!」


 やいのやいのと始まる。


 ライナルトが入院中だったことも相まって、呼び出したのはジルクリフとも認めざるを得ない。


(事実ではあるけど……)


 まったく予期せず、2人のなかで彼がケチな人認定されてしまった。

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