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042.「」


 目を覚ますと、アルメリアの視界にあったのは見慣れた天井だ。

 ずいぶん長く眠っていたような気がするが。


(あ、れ……?)


 直前までの記憶と、うまく繋がらない。

 自分はあのあと……。


(そうだ、レドックスと……)


 対戦に臨んだはずだ。

 でも予想はしていたが、一晩が明けても症状はほとんど緩和していなくて。


 体は重く、起き上がることさえしんどかった。

 むしろ悪化してるようにさえ思う。


(それでも、行かなきゃ……)


 ベッドから降り、ヨロヨロと起き出したのだ。

 そうしなければ、こちらが弱っていると知らせるようなものだから。

 あくまで平静を装い、いつも通りにレドックスと対峙して。


 でも結局、長くはもたなかった。

 息はみるみる上がり、立っているのもやっと。

 すぐに限界を迎え、今にも倒れてしまいそうになる。


 だというのにレドックスときたら、やる気満々だ。

 ちっとも引こうとしない。


(もうダメ……。こうなったら、ギブアップするしか……)


 それでむなく、降参を申し出たわけだ。

 ひどい頭痛に苛まれ、たぶんちっとも冷静でなかった思考でどうにか思い至った、それが最善策だった。


 なけなしでも、あの場でアルメリアに講じることのできた最後の手段。

 でも結果は、火に油となってしまって。


「なんかやけにアチィぞ」


 ついに気付かれてしまった。

 こちらが弱っていると知れれば、そのまま力づくで人里に連行されるかもしれない。


(最悪、ひどい拷問とかされるのかも……)


 そんな不安が頭を付いて離れなかったから、体調が悪いだなんて間違っても言い出せなかった。


 自分が擬人化したマンドラゴラだという、奇想天外なバックグラウンドも踏まえれば尚のこと。


 いったん捕まってしまえば、万事休すだ。

 明るい展望なんてとても見えない。


「何だオメェ、風邪でもこじらせてんのか? それでヨレてんのかよ?」


 だから何としても、それを悟られるわけにはいかなかったのだが。


 結論、レドックスはアルメリアをすぐさましょっぴいたりはしなかった。


 荷物のようにアルメリアを小脇に抱え、森の奥へ。


(いったい、どこに……?)


 連れて行く気かと思えば。


(川……?)

「まァ、ここら辺か?」


 チョロチョロと比較的流れの穏やかなポイントで、ポイ。

 いきなり雑に放り投げられる。


(そんな……! ちょっと待って、私泳げな……!)


 バチャバチャし、必死にガボガボした。

 あるいはマンドラゴラどこや吐けと、今からさっそく尋問が始められるものとも覚悟したが。


(……なにこれ)


 気付けば、アルメリアは川の真ん中で水面にプカプカ浮かんでいた。

 小岩を足場にヤンキー座りをしたレドックスが、アルメリアのえりをつかんで水に浸けているのだ。


「なにを一人でバチャバチャしてやがる。まさか泳げねぇのかよ、オメェ。カナヅチか?」


 それも一応弱点なので、ノーコメントとはさせてもらったが。


「……ねぇ。これっていま、何してるの?」

「あァ? んなモン、決まってんだろうがよ」


 まさかと思ったら、そのまさか。


「オメェが無駄にアチィから水に浸けてやってんだろうが。さっさと冷やせ。分かってんだろうが、冷めたらさっきの続きだかんな。ギブアップなんざさせねぇ。死んでも認めねぇぞ」


「……そ」


 それからしばし、アルメリアはぼんやり空を見上げる。


(川の水に冷やされるスイカって、こんな気持ちなのかしら……?)


 そんな神妙にして場違いな感想を抱きつつ、穏やかな流水をプカプカとただよっていた。

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