034.「」
結局――。
それからライナルトが目を覚ましたのは、夜になってからのことだった。
ムクリと身を起こせば、そこはまた見覚えのある一室。
ギルドの療養所。
「そうか、俺はまた……」
昼間のほぼ繰り返しになってしまったが。
今度はさほど時間もかからず、いろいろと記憶が繋がる。
とりあえず、あの後どうなったのかについて語るなら。
「あら、すみません。どうやらまだ解毒しきれてなかったみたいです。でも、おかしいですね……? ほかの冒険者さんたちと同じように処置したはずなのですが……。あっ、ひょっとしてライナルトさんだけ、特別強い毒をもらってたとかあります?」
思い当たる節はありすぎた。
ゾンビのようにアグアグなりながら、コクコクと頷く。
「あぁ、なるほど……。それで一人だけ部屋が違ってたんですね。てっきり偉い人だから特別に個室が割り当てられてるものとばかり」
ライナルトがゼェゼェいっている間も、アルメリアはまるで世間話でもするみたいに呑気だった。
(た、頼む……。もし手があるなら、早めに何とかしてほしいのだが……)
「まぁとりあえず、これを飲めば落ち着くと思いますよ」
必死に祈るような気持ちでいたところ、願ってもない。
腰のあたりをゴソゴソやって、タプんとポーション瓶が出てくる。
「おぉ……。かた……じけ、ない……」
地獄に仏とはこのこと。
震える手で受け取ろうとしたのだが。
まさかそれが届く寸前でヒョイと取り上げられて。
「このまま差し上げてもいいですが。せっかくなので1つ、条件を呑んでもらいましょうか」
にっこり笑顔でそんなことを。
ちょっと冗談抜きで、シャレにならない。
「オメェ、やっぱエスだろ」
もはや突っ込む気力もなく、カックリと項垂れるしかなかった。
とまぁそんなこんなで、丸呑みにさせられた条件というのが――。
「今日のところは何も聞かず、このまま帰すこと――か」
それで結局、何も分からず仕舞いだ。
アルメリア・リーフレット。
森でマンドラゴラを守っていたはずの魔女が、どうして街でポーション屋をやっていたのか、その理由も。レドックスがそれを手引きすることになった経緯も。
そのときだ。
――キィィィン!
傍らに立てかけてあった相棒――金剣ルミナリスから、またも呼びかけがあったのは。
『そんなの、自分の弟に直接聞いてみればいいじゃない!』
とのことだが。
「それはちょっと期待できないんじゃないか? だって、レドだし……」
正直、まともに受け答えてくれるとは思えない。
たぶんあまり会話にもならず、ガブガブ噛みつかれるだけ噛みつかれて終わるのがオチだろう。
それにレドックスの思考は読むのが難しいのだ。
ちゃんと何かを考えていたり、何も考えていなかったりするから。
だったら最初からアルメリアに聞いた方が話は早い。
(「今日のところは」……ってことは、明日なら聞いてもいいのか?)
それこそ彼なら嬉々として食いつきそうな抜け道もあったが……。
「助けられておいて、それも不義理だしなぁ……。ヘタに刺激して、機嫌を損ねてもマズイし」
いずれにせよ、真相解明にはもう少しかかりそうだった。
夜が更けていく。
窓の外に見える月明りを見上げながら、手を頭の後ろに組んでゆったりとリクライニング。
「……なぁルミ。おまえはあの子こと、どう思う?」
ライナルトはそう静かに問いかけていた。




