027.「」
どうやら、すでにヘタな誤魔化しや言い訳で切り抜けられる段階は過ぎているらしい。
よほど確証を掴んでのことなのか。
「……あのすみません、何のことでしょうか。ちょっと分からないんですけど」――などと惚けるより早く、雷槍が翼を広げた鳥獣を模して襲いかかってくる。
(レドと一緒にいるところを見られて、そこから足が付いたか……。それともやっぱり昨日のことかしらね……?)
いつから彼が、アルメリア=魔女の方程式に気づいていたのかは定かでないが。
(取り繕うだけ時間の無駄か……。仕方ない)
はぁとため息。
ムダな抵抗は諦め、さっさと種明かしをしてしまうことにする。
軽い足踏みを介し、たちまちビキビキと地下フィールドに広がったのは地割れによる亀裂だ。
そこから野太い樹根が這い出し、アルメリアの身代わりに穿たれる。
轟いた雷鳴とともに、火花と木片を散らして。
「ご挨拶代わりにしては、ずいぶん手荒いですね……。どういうつもりでしょうか? 人に向けて雷なんて。私じゃなかったら死んでますけど」
「人……? 人だと? 笑わせるな。おまえは魔女だ」
「魔女にだって人の心はあるかもしれませんよ? それを知ろうともせず、ひとまとめに切り捨ててしまうだなんて……随分と荒っぽくて一方的な正義ですね。それこそイルカとサメが同じと言っているようなものだと思います。とーっても野蛮で、独善的な解釈ではないでしょ〜か!」
正体を暴かれてしまったことによる反動なのか。
なんかいろいろ大胆になって、口ぶりもエセ悪女のようになっているし。
「戯言を……!」
まったくもって共感するよりなかったが。
(とくにイルカとサメのくだり。「あなたの弟さんのセリフをちょっと拝借しただけなんですけどね〜」とは内心に留めつつ。)
ともかくバレてしまったらしい。
その銀髪の男、ジルクリフ・ガレイアに。
少なくとも自分がただのポーション屋などではなく、彼からすれば一度敗北を喫した因縁の魔女であるというところまでは。
彼の正義は知っている。
遡ること数週間まえ、本当の“初めまして”のときにいろいろと言っていたから。
(細かいセリフまでは覚えてないけれど……)
とにかく「お前たちは敵だ」とか「人類に仇なす存在だ」とか……。
差別めいた発言ばかりだったと記憶している。
やたらと堅苦しくて、とにかく相容れないタイプとだけはよく伝わったものだ。
そのせいだろうか。
(ちゃんと話そうって気がまったく起こらない……。ていうか、今さら何言ったところで聞かないだろうなぁ)
諦めだった。
ダメな予感しかないので、早々に場を収めることにする。
ちなみに生殺与奪について、アルメリアの基本スタンスは"相手に合わせる"だ。
たとえば殺意をもって迫ってきた相手が、後からいくら命乞いをしてきたところで、基本的に耳を貸すことはない。
狙うものが尊厳であれ、命であれ――。
奪いに来たなら、奪われる覚悟を持つべきだからだ。
ゆえにアルメリアも、自ら進んで誰かの何かを奪いにはいかない。
そうするのは、そうしなければ自身が生き残れないときに限られる。
そのルールに則れば、ジルクリフの処遇はもはや決まりきっているのだが。とはいえ。
(一応、レドのお兄さんだしなぁ……)
血縁に「一応」も何もないのだが。
そこが少しばかりネックではあった。
いくら相手がヤる気満々とはいえ、さすがに顔見知りの兄弟をキルするのは躊躇われる。
それにジルクリフは、今のガレイアを支えるとてもとても大事な戦力、その一角だ。
(もし彼が欠ければ……)
それはダメそうだった。
あらゆる要素を鑑みても、よろしくないと結論に至る。
故にアルメリアが選んだ選択は。
(よし、とりあえず逃げよう……!)
後のことは後でといったん棚上げし、離脱を試みる。
根っこでジルクリフを撹乱しつつ、そのスキを狙っていたのだが。
少し攻めが甘かったか。
掻い潜ったジルクリフが鋭く間合いを詰め、アルメリアを射程に捕える。
刃を振り下ろした――その瞬間だった。
「カッ、んだよ。いいムードでやってんじゃねぇか。ピィスケ」
まさかの乱入者が、彼と切り結ぶ形でそれを受け止める。
「なァにを勝手に盛り上がってんだァ、アホグリフ? トログリフ、ヨワグリフ。マジメ腐ってやることキッチリやってるクチかよ、オイ。つーか寝取りか?」
「なに!?」
「え、レド……!?」
「俺をハブってイチャついてんじゃねぇぞおおおッ!」
そのまま力任せに薙ぎ払い、ジルクリフもろとも強引に突き返した。




