024.「」
そんなだから先日、ギルダとスーランのやり取りは聞いていてとても気まずかった。
「そういえば聞きまして? この森のどこかにマンドラゴラが生えているそうですわよ」
ギクリ。
匙加減を誤り、ボウンとポーションがプチ爆発を起こす。
「ただ厄介なことに、近ごろこの森に棲みついたという魔女がそれを守っているそうなのです」
(ごめん、それ実はぜんぜん魔女じゃないんだよね……。擬人化したマンドラゴラが同族のヨシミで仲間を守ってあげてるだけだったりしまして……)
深刻そうなトーンのところ、とても申し訳ないけれど。
心の中で釈明したり。
「ガレイアの主戦力――ライナルト、ジルクリフ、そしてレドックス・ガレイア三兄弟の力をもってしても打ち破れず、状況は膠着したままですの」
(ううん、そんなことないよー。レドにはもうとっくに負けてる。負けまくってる。たぶんもう勝てる見込みとかまったくないんじゃないかな~)
もうヤダやめてよそんなわけないじゃん〜風に手をこまねき、笑い飛ばしたりもしていた。
「ごめんアルぅう、体も大事にしながらやっぱり頑張ってええ」
最後には不安げにうわーんと抱きついてくるスーランにも、とても居た堪れない気持ちとなって。
(ほんと、なんでこうなっちゃったかなぁ……)
シクシク、トホホ、カックリと肩を落としていた。
そして現在。
突如として飛来した敵勢力の幹部格――“蠱毒のムシウル”。
その襲撃から一夜が明けた今日、街はその話題で持ちきりとなっている。
「俺は見たぜ! 暗くてハッキリとはいかなかったが、とにかくこんなデッケェ虫が空を飛んでたんだよ! 見たこともねぇ魔物だった!」
「あぁ、そうだ! 俺も見たぜ、そいつがいきなりブレスを吐いてよ!」
「ブレス……? 虫型のモンスターがか?」
「そんなバカでかいサイズってのも聞いたことないな。なぁもう一度確認するが、何かの見間違えじゃないのか? いっそのことドラゴンって言われた方がまだ信じられそうなもんだが」
「違う、あれは絶対ドラゴンなんかじゃねぇ……! とにかくとんでもなく巨大な何かだったんだよ! 折れ曲がった足が6本付いてて、あとカブトムシのツノみたいなのも生えてた!」
「あぁ! それがいきなり、地上から伸び上がったよく分からないのに叩き落とされて……!」
「そうだ! こう、ベシンとよ!」
「いや、よく分からないのってなんだよ」
「知るかよ、よく見えなかったんだから!」
通りすがりにそんな、なかなかジェスチャー多めで要領を得ない目撃談も耳にする。
「…………」
これでもアルメリアとしてはなるべく騒ぎが大きくならないよう善処したつもりだ。
(なんだかんだで私、そこそこクイックアクションしてたよね……!)
とか。
(暗くて、皆んなからはよく見えなかったなんてこともあるかも……! まぁきっと、なんとかなるよね)
とか。
昨夜、布団に入るまえはできるだけポジティブに考えるようにしてから眠りについた。
でもまぁ……。
冷静に考えて、そんな穏便な着地なんか望めるはずもない。
(まぁそうよね、結果としてかなりハデなことになっちゃったし……)
いろいろ情報は錯綜しているようで、尾ひれが付いているような話もあったが。
「断言できますわ! わたくし、この目でしかと目撃しましたもの!」
昨夜、襲来したのはまず間違いなく"蠱毒のムシウル"本体。
それが何者かに妨害を受け、地上に撃墜させられたのだというのが語気を強めるギルダも含め、大衆の見解のようだった。
「そうだったんだ……ギルダも危なかったんだね。無事で本当に良かったよ。でも、いったい誰が助けてくれたんだろうね? 今回はレドックスさんでもジルクリフさんでもないんでしょ? ライナルトさんも違うだろうし……」
「そこなのですわ。それに、あの巨大な木の根のようなもの……。あるいは……」
魔女と、やがてはそんなワードも聞こえてくるからまたも気まずい。
ゴリゴリゴリ。
これまた丹念に、せっせと薬草をすり潰すアルメリアだった。
(このまま何事もありませんように……!)
とにかく、いろいろと足が付かないことを願っていたのだが。
――その日の午後のことだった。
「アルメリア・リーフレットという調合師は此処にいるか!」
昨日に続き、またも衛兵らしき人たちがやってきたのは。
でも今日のは少し装いが異なる。
慌ただしく駆け込んできた様子でもなければ、一人きりでもない。
どこか仰々しい雰囲気からしても、何かしら用向きがあっての訪問のようだが。
「……へ、私がですか?」
唐突に広げられた書簡。
その文面に思わず自分を指さし、目をぱちくりする。
「済まないが、このまま我々と一緒に来てもらおう」
つまりは有無を言わさぬギルドへの出頭命令とのことで……。




