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022.「」


「いいか、よく聞け。次騒いだらコロス。その首、即ブッこ抜く。分かったら頷きやがれ」


 唸るような低音に否定の余地はなく、コクコクと頷く。するとベリっと口元のテープを剥がされ、ひとまず口だけはけるようにしてもらえたが。


「ねぇあなた……本当にレドックス、なの……?」


 二度見、三度見と重ねても信じられなかった。

 目の前には背を曲げた獣人――マンドラゴラにとっては死神も同然のワーウルフがたたずんでいるわけだが。


 まさかその正体が、あのレドックス・ガレイアだなんて。


「だから、そうだツってんだろうが。さっきから何回同じこと言わせりゃ気が済むんだよ。痴呆ちほうか? 頭ン中カラッポか?」


 口調、声音にしたって、今や聞き慣れてしまった彼のもの。


(たしかに言われてみれば、面影もなくはないけど……)


 流石に「ああ、そうだったんですね」とはならない。

 いくら何でもこれは……ちょっと奇想天外すぎるだろう。


「あの、どういうことかお聞きしても……?」


 なかなか現実味の湧かないことになりながら。

 グルルと牙を剥く狼の頭に、そうおずおずとお伺いを立てるアルメリアだった。



 ◆



「呪い……?」


 結論から言えば、そういうことらしい。

 レドックス・ガレイアはれっきとしたただの人間だが、ちょっと訳ありみたいだ。


 かなりザックリではあるけれど……。

 昼は人間、夜はワーウルフとそんな感じの人狼状態だそうで。


「ワーウルフだぁ? んなモンと一緒くたにすんじゃねぇよ。ケチつけんな」


「じゃあ何なの?」


「んなこと俺が知っかよ。人狼のロウだろうが」


「でもまぁ、シルエット的には近いじゃない?たぶん」


「かっ、見てくれ同じならひとまとめかよ。品のねぇヤロウだ。イルカとサメの見分けもつかねぇのか?」


「あなたにだけは言われたくないし、その2つじゃ全然違うと思うんだけど……」


 当人としてはお気に召さなかったらしく、あれこれと噛みつかれたが。


(そっか、それであのとき……)


 腑に落ちることもあった。

 それであのとき、門限付きの子どもみたいな理由ですんなり引き上げていったのかと。


 口ぶりからして、あまり見られたくはなかったみたいだ。

 でも今回、こうなってしまったのは。


「バカでかい奇声……?」


 レドックスに言われて思い出す。


(そういえばあのとき、たしかに……)


 とんでもなく大きな声を出せた気がした。

 ともかくアレのせいでレドックスもしばらく意識を飛ばしていたそうで。


「起きたときには、もう日ィ暮れてやがった」


 とのこと。


「この姿じゃ帰ろうにも帰れねぇし、オマケに近くには他の連中までいやがる」


「ほかの連中……? 冒険者ってこと?」


「あー、ゾロゾロ来てやがったぜ。大方、オメェのアホみてぇな奇声を聞きつけたんだろーな」


「アホみたいって……」


 それでむなく、こうなったと。

 ちなみにアルメリアが目を覚ましたときは、丁度ひと狩り行っていたところのようだ。


 夜はそうしないと落ち着かないらしい。


(やっぱりワーウルフみたいなものじゃない……)


 当人としては否定したいようなので、口には出さなかったが。


「バレバレだぜ。オメェが起きてチマチマ何かやってたのなんざ丸聞こえなんだよ。逃げ切れるとでも思ったか?」


 そんなわけで戻ってきたそうだ。

 ザマァみやがれと言わんばかりに口元を吊り上げ、ガッシと掴まれた頭をレバーのようにグリグリされる。


 依然として簀巻きにされたままのアルメリアに抵抗の術はない。

 されるがままだ。


(ちゃんと理性がある分、本能むき出しのワーウルフよりはずっとマシってことなんだろうけれど……)


 大ピンチには変わりなかった。


「それで……私をどうする気……?」


 ゴクリ、生唾を飲むようにして問いかける。

 なんだかんだで毎日顔をあわせた仲だし、今のところ冗談も通じている様子。


(私が本当はマンドラゴラって辺りも……たぶんバレてなさそうよね……?)


 もしそうでなかった場合は希望ゼロなのだが、とにかくその辺りに望みをかける。


「どうする、ねぇ……。んなモン、決まってんだろうがぁ」


 そして彼は言うのだった。

 ベロりと舌舐めずりをしつつ。

 まるで仕留める寸前まで追い詰めた小動物を見下ろすかのように下卑げびた、あるいは猥雑わいざつさをもはらんだ眼差しを向けて。



「――寸止め地獄」

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