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019.「」


 別に心配しているわけではない。

 ぜんぜんそんなことはない、のだが……。


(うううん……?)


 なまじ十日も顔を合わせてしまったせいだろうか。

 なんだか妙に落ち着かなかった。

 心がウロウロする。


(もしかして、何かあったのかしら……? いえ、仮にそうだったとしても私には関係ないし……?)


 一度はそう素知らぬ顔をしてみたものの。


「もう、なんで私がこんなこと……」


 気付けばアルメリアは森の外に向かって進んでいた。


 だって、あのレドックスだ。

 あれほど「もう来ないで」と言ったのに、我が物顔で再三に渡って押しかけてきたあの男。


 それが今さら、こんなにすんなり引き下がるだろうか。


「たしかに10連敗って意味じゃキリはいいけれど……」


 とてもそうは思えない。

 最後にレドックスと会った日を思い返したって。


(「また明日くんぜ」って、そう言わんばかりの態度だったわよね……?)


 諦めたソブリなんて微塵みじんもなかった。

 そんなわけで一応――あくまで“一応”。

 軽く捜索はしてみている。


 ちょっといって帰ってくるだけだ。

 何もなかったら、もう知らない。

 すぐに帰るつもりで。


(ま、どうせ何もないでしょうけど)


 とはいえ成果があるとも思えず。


「我ながら……ホントに何やってんだか……」


 そんな気持ちにもなりながら眉根を寄せ、テキトーにほっつき歩いていた。



 ――のだが。



「あっ……」



 それから程なく、アルメリアは見つけてしまう。


(ん……? 何かしら、あれ……)


 行く手に目を凝らすところから始まって、ソロソロと近づいてみれば。


 そこにあったのは毛深い大型魔獣の死骸しがいだ。

 加えて、そのすぐ近くにうつ伏している紅い長髪の男も。


(え、ウソ……!?)


 紛れもなくレドックスだった。


 最初は驚きもしたのだ。

 状況は読み切れないにしろ。


(魔獣と相打ちになった……ってこと?)


 パッと見の現場検証から、そう辺りを付ける。

 だがすぐに違和感も覚えた。


 レドックスが来なくなってから丸3日。

 この共倒れがいつ起こったのかは定かでないが、仮に数日経っているとすると。



(現場があまりにキレイすぎるような……?)



 ちなみに本を手に取るとき、アルメリアがもっとも好むジャンルはサスペンスだ。いつか自分でも書いてみたくて、いろいろと構想をしたためていたりもするが。


(ははーん、そういうことね)


 何かその辺りのスイッチがカチリと入って、脳内推理ショーが幕を開ける。


 そう、これはきっと罠だ。

 こうやって死んだフリをして誘い込み、慌てて駆け寄ってきたところで「かかったな!」と不意打ちを狙うための。


 だってそうでなければおかしいだろう。

 いろいろと不自然だ。


 この森には数えきれないほど多くの魔獣が生息しているわけだが。

 もしこれが本当に相打ちの結果だと言うなら、今ごろとっくに他の魔物からむさぼられているはず。


(そうなっていないということは、つまり……)


 ――レドックスは無傷。

 普通に生きているということ。


 思いあたる節もあった。

 彼に会った最後の日。


『まったくもう。あなた、いつも同じパターンで私に負けてるじゃない。勝ちたいんだったら、もう少し戦い方とか工夫したら?』


 そんなことを言ったのだ。

 初日こそ、その荒々しさに気圧けおされたものだが。


 通い稽古げいこをされたおかげでアルメリアもだんだん攻略法が見えてしまって、気付けば似たような展開の繰り返しになっていたから。


(そっか、それで……!)


 打って変わって、こんな手段に出てきたと。


 なるほど。

 たしかにちょっとは工夫したのかもしれないが。


(ツメが甘いわね。私にかかれば、そんなのお見通しなんだから!)


 フムフムとしたり顔で頷きながら、密かに決めゼリフを言い放つ。


(そもそもこの男が、こんな魔獣ごときと相打ちなんて。そんなのあるわけないのよ……!)


 また散々打ち合ってきたこそ知っているレドックスの力量が、アルメリアの推理をさらに確信づけていた。そんなこんな。


(あらあら、もうとっくに気付かれてるとも知らないで)


 まだ健気に死んだフリを続けているレドックス、その後頭部を。


(健気なこと)


 ニヤリと見下ろしてからアルメリアは続ける。

 いろいろとお声がけをする。


「あれー!? ななな何でしょう!? いったいここで何があったというのかしらーっ!?」


 差し当たって、わざとらしく驚くところから茶番劇を初めて。


「でもまぁ私には関係ないことだし、いっか! うん、知ーらない!」


 そのまま現場を後にする。

 シーンとなってから、またソサクサと引き返してちょこんと、爪先立ちでしゃがんだ。


「何やってるんですか、レドックスさん。ホントは生きてますよねー? バレバレですよー」


 とか。


「はいカット、カット~! お芝居、お疲れ様でしたー!」


 とか。


 これだけおちょくれば、さすがに痺れを切らしてくるかと思ったのだが。


「……?」


 いくら声をかけても反応がない。

 しまいには木の枝をとって、ちょいちょいつついてみるも。


 無反応。


(……まさか、本当に気を失ってる?)


 それでだんだんソワソワしてきたのはアルメリアの方だった。


 答え合わせなんかするまでもない。

 分かりきっていることだ。

 だけど。


「もう、往生際が悪いんだから」


 ゴロン。

 試しに木の根を呼び出し、体を転がしてみれば。

 まさか。まさかだった。


「……え?」


 腹部の広範囲に渡る乾いた血の痕と、とても深い裂傷が見て取れて。


「ちょ、ちょっと……ウソでしょ!?」


 途端に気が気でなくなる。

 ついさっきまできょうじていた探偵ごっこのノリなんか吹っ飛んで、ワタワタと無防備そのもののていで駆け寄った。


(とにかく手当てしないと……! いや、まずは止血から……! いやそれより先に呼吸とか脈を確かめて……!)


 てんやわんやとなりながら、ぐったりしているレドックスの体に触れたのだが。

 直後のことだ。


「はァっ、かかりやがったッ!!」


 カッと目を見開き、全身をバネのようにして起き上がったレドックスがすかさずと飛び掛かってくる。そのまま完全にアルメリアの不意を突く形で手足を絡め取り、引き倒したのは。

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