013.「同類を探して」
繰り返しにはなるが――。
アルメリア・リーフレット。
その正体は擬人化したマンドラゴラである。
もっとも彼女が育ったのは、いま居るこの土地ではない。
もっと遠いところにある静かな山奥だ。
「お、おい! 見ろ、あれ……!」
「ん……? あれは、人……? 人がいるぞ、しかもまだ子どもじゃあないか! どうしてこんな山奥に……!?」
(っ……!?)
当時のアルメリアに、人の言葉はまだ分からない。
しかし「これはマズイ」と本能的な予覚が働いたのだろう。
ピューと逃げ出す。
ちなみに一糸まとわぬすっぽんぽんとかではない。
ボロ布にしろ、服っぽいのはちゃんと着ていたと名誉のために補足はさせてもらうが。
「こ、こら待ちなさい!」
ともあれ、あっさり捕まった。
手足をばたつかせ抵抗するも。
「安心しろ、もう大丈夫だぞ。よっと」
軽々、俵担ぎで持ち上げられてしまえば手も足も出ない。
「ふむ、言葉は分からんようだが。にしても……」
「ぴぃいい! ぴぃいい! ぴぃいいいーっ!?」
「ずいぶんクセのある泣き方だな」
でまぁ、そのまま連れていかれたのが、近くにある小さな農村だったというわけ。
なので一応、人並みの教養はあるのだ。
ちなみにアルメリアという名前も当時、養父になってくれた人が「そんな感じの顔だから」とフィーリングで付けてくれたものになる。
ではなぜ、そのアルメリアが遠く離れたこの地にいるのかだが。
それは一重に、仲間を探してのことだった。
結局それからの約10年間、アルメリアは捨てられるか攫われるかした身寄りのない子として村で引き取られ、育てられている。まさかその正体が擬人化したマンドラゴラとは、村人の誰一人、露ほども思わなかっただろうが。
そんなある日のこと、ふと思ったのだ。
(もしかして……。私と同じような子が他にもいるんじゃ……?)
むしろなぜ今まで思い至らなかったのか。
そっちの方がよほど不思議だと自分でも思いながら、さっそくと旅に出る。
ウワサや同族の勘を頼りに、マンドラゴラを捜し歩いて、歩いて。
「この辺なら生えててもおかしくなさそうだけど……あっ」
意外なほど早く、あっさり見つかった。
やはり同じマンドラゴラというだけあって、好む地質なども似ていたのだろう。
それっぽい草を見つけてムンズと引っ張り、ズモっと掘り起こすと。
「ピィィイイイヤァアアアアアアアアアーッ!!!」
「わわっ、ごめんなさいごめんなさいいいっ!!!」
それはそれは耳を劈くような大絶叫があがった。
慌てて埋め直したりもしたが、ともあれ。
(見つけた……!)
アタリだ。
自分以外で生まれて初めて見る、本場の生マンドラゴラがいま目のまえに埋まっている。
心に迫るものを覚えながら。
これは是非とも話を聞かねばなるまい。
そんな意気込みでさっそくとインタビューをかけにいく。
と言っても、いまの粗相ですっかり怖がらせてしまったのだろう。
(おねがい……刈らないで……助けて……抜かないで……)
シクシクとすすり泣くような声(……というか思念?)も地中から聞こえてきたが。(植物由来のアルメリアには、植物とある程度なら会話できる能力がある。)
なので、とりあえず自己紹介から。
「私、こう見えて実はマンドラゴラなんですよ。人に見えて、人じゃないんです」
(人じゃない……? そんなわけ……)
「それが本当なんですよ。証拠にほら、お話できてるでしょう?」
(たしかに……。でも、どういうこと? だって、どう見たって人間じゃないか……)
「あぁええっと、それはですね」
かくかくしかじか。
だんだんアイスブレイクできてきたところで。
「それですみません、お尋ねしたいのですが……」
さっそく本題に入らせてもらう。
自分のように歩いたり喋ったりするマンドラゴラを見たことはないかと。
でも残念、心当たりはないとのことだった。
「……そうですか」
されど簡単に諦めは付かない。
「ところでこの山、他にもマンドラゴラの方はいらっしゃいますか?」
幸い、この山にはそこそこの数のマンドラゴラたちが群生しているらしい。
リレー捜査じゃないけれど、とにかく芋づる式にやっていった。
ズモッ。
「ピィィイイイヤァアアアアアアアアアーッ!!!」
ズモモッ。
「ピィィイイイヤァアアアアアアアアアーッ!!!」
その繰り返しだ。
ぶっちゃけいちいちひっこ抜く必要はないのだけど、なんかお約束な気がしてやめれなかった。でもやっぱり肝心の擬人マンドラゴラについては、どの子も心当たりはないとのことで。
「そっか。じゃあ此処にはいないのかな……」
いよいよ諦め、別の土地へ向かおうとした。
そんな矢先のことである。
「え、行かないでほしい?」
まさかそのマンドラゴラたちから、引き留めにあったのは。
「どういうことですか?」
聞けば――。
この地域ではいま魔王軍による進軍が進んでいて、危険な魔獣たちもかなり増えてきているらしい。侵攻を阻止すべく、多くの手練れの冒険者たちも近くの要塞ギルドに集まっているという。
ちなみにあらゆる妙薬のもととして珍重されるマンドラゴラだが、魔獣が食べれば力の糧にもなるということもあって。
「つまりこのままでは、皆さんはいずれ見つかってしまい、冒険者に刈り取られるか、魔獣に食べられてしまうかのどちらか……いずれにせよ、全滅は避けられないと?」
(まさしく、そういうことですじゃ……)
アルメリアの要約に、長老マンドラゴラは寂しそうな表情で頷く。
その場に集まったマンドラゴラたちはみんなシクシクと泣いていた。
(怖いよ、お母さん)
(大丈夫よ、坊や……)
中には身を寄せ合う母子の姿もあった。
あくまで全部イメージの話だが。
そんなわけで後ろ髪を引かれるような思いを振りきれず。
「はぁ、わかりました。そういうことでしたら」
半ばなし崩し的に、そういうことになる。
少なくとも戦いが落ち着くまでは、仲間探しの旅は諦めるしかないだろうと。
今しばらくはここに留まることを決めるアルメリアだった。
(そ、それは本当ですか……!? アルメリア殿……!)
(やった、やったぞ……! これでもう俺たちは怯えずに済むんだ!)
(お姉ちゃん、ありがとう……!)
気付けば同胞たちの歓声や拍手に包まれていたし。
(なんだか、妙なことになっちゃったなぁ……)
そんな気持ちも拭えなかったが。
まぁこればかりは致し方なかろうと。
そんなこんなで森に駐在し、懐かしの自然豊かな暮らしに戻ったわけだが。途中からだんだん、話がおかしなことになってくる。
植物の性的なものもあるのか。
アルメリアは基本、争いごとはキライだし、不必要な殺生などもまったく好まない。
だから守りやすいようマンドラゴラたちを一か所に集めたら、あとは近づく者があらばビシバシウィップして追い返すとそれに努めていたのだが。
なんか気付けばウワサになっているのだ。
何でも近ごろ森に住みついたらしい魔女がいて、そいつがマンドラゴラを守っていると。
(魔女……?)
いったい何がどう勘違いされたのかは、だいたい察しも付こうものだけど。
「私も一応、マンドラゴラなんだけどなぁ……」
そんなこんなで今日びに至っている。
そして今、アルメリアが見上げる先では、捕縛し吊るされた不埒者が「下ろせやゴラァ!」と暴れていて。




