011.「その正体はマンドラゴラ」
※この話から、ちょっと不適切発言するキャラが出てきます。
さて、ここいらで自己紹介をやり直したい。
アルメリア・リーフレットという少女の、少しばかり特異な成り立ちについてだ。
唐突だが――。
アルメリアは"ただの人間”ではない。
その正体は『マンドラゴラ』である。
もし初対面でいきなりそんな自己紹介をぶちかまそうものなら、どうなるか。
『……は? 何言ってんだ、おまえ』
『おい、こいつアタマ大丈夫か?』
たぶんそんな反応をされるだろう。
戸惑われるか、不審がられるか。
どんなにうまくいっても、変わり者とか不思議ちゃん認定は避けられないはずだ。
でも、アルメリアにとってはどうしようもないことだった。
だって自分はマンドラゴラであると。
それがれっきとした事実であり、紛れもない真実なのだから。
――『擬人化』。
どうも世の中には、そうと呼ばれる現象があるらしい。
スライム、トロール、リッチ、ドラゴンと種族は問わず、べつに何でもよいのだが。生まれつき、とりわけ魔力の強い個体に限り、だんだん人間に近づいて成長していくと――極めて稀な確率でそういうことが起きるそうだ。
早い話、アルメリアはそのマンドラゴラ版ということ。
土の中でぬくぬくしていた頃の記憶も、うっすらとは残っている。
でも物心ついたとき、姿はほぼほぼ人間の子どものそれだった。
『おおおお〜っ!』
しっかり付いている手指をワキワキさせ、その便利さや機能性に感動。
目を輝かせる。人知れぬ森の奥深くで、徐々にその使い勝手にも慣れていって。
今やすっかり地上暮らしの方が長くなっていると。
そんな擬人マンドラゴラこそが、アルメリア・リーフレットという少女の出自である。
では何故そのアルメリアが、この『ガレイア』の街でポーション屋など開くことになっているのかだが。
キッカケはある男との出会いにある。
「――よぉガキ。おおそうだ。そこのオメェだ、チンチクリンのジャリ。ちぃと耳貸せや。聞きてぇことがあんだよ」
どう形容していいものか……。
とにかくガラの悪い輩とだけは、出会い頭から察せれた。
「なにシカトぶっこいてやがる。澄まして絵になんのはイイ女だけだろうが。顔はまぁ悪くねぇみてぇだが……オメェじゃチチもケツもまったく足んねぇっつーんだよ」
まず口が酷い。
いや酷いなんてものじゃない。
女の敵だ。
「カッ、やんじゃねぇか。いっちょまえに睨み返すかよ。大抵の奴ぁ、俺見た途端にチビって逃げ出すか、腰抜かしてチビるかのどっちかだってのに。なかなか肝っ玉が座ってやがる」
かなりの長身。
切るのがめんどくせぇとも言わんばかりに、伸び放題の紅い長髪。
こんな山奥にも関わらず、着崩した服装はほとんど半裸も同然で、足を見ればなんと。
(え、草履……!? うそでしょ、まさかあれでここまで登ってきたっていうの……!?)
まともに口を利いてやる気は起こらず、無言のまま凝然。
(とてもマトモな神経の持ち主とは思えないわね……)
その非常識さに、信じがたい気持ちとなるアルメリアだった。
本当に見れば見るほど信じがたい。
命を捨てにきたとしか思えない軽装だ。
とんだうつけ者もいたものだと、呆れを通り越しそうになる――が。
だからこそ一方で、異様さも際立つ。
そう、あり得ないことなのだ。
本来なら。
こんな、ほとんど身ひとつ同然の格好で、人一人がここまで踏み込めるはずはない。あるいは彼がよほどの幸運に恵まれた可能性も否定はできないが。
(あの刀に付いてるの、魔獣の血よね……)
男が片手から無造作にぶら下げている木刀。
そこにベッタリと付着している血糊や魔獣の体毛、そして着衣にも散っている返り血らしき紅が、それを否定している。
(つまり、この男は……)
「さてはオメェ」
(そんな身なりでも、平然とここまで無傷で到達できてしまう……それほどに腕の立つ、埒外の手練れ……)
「ただのジャリじゃねぇな?」
当時、森の奥地に棲み――荊の魔女、そうとも呼ばれていたアルメリアが認識を改めるとともに、男もニィと口元を釣り上げる。
まるで肉食獣が、狩る獲物を見定めたが如く。
それはひどく好戦的かつ、獰猛な笑みだった。
ともあれ、これがその出会いだ。
――レドックス・ガレイア。
後にそう名乗ったヤサグレ男とアルメリアの、お世辞にも好印象とは言い難い初顔合わせである。
※こいつです。




