6.ミチの推理
「日葵、あんたはこの奇跡に気付いてないの?」
「奇跡って…?」
「あんたどんだけ鈍感なの。お勉強出来てもこれだから困っちゃう。絶対私の方が世の中では役に立つのに…」
ミチがブツブツ言いながら紙を取り出した。
「日葵、今日あった事を順番に言ってきな」
半分命令の様なミチの口調に、いぶかしげな顔をしながらも思い出しながらポツリポツリと話し出す。
「今日はいつもより一本前の電車に乗れて、学校着いたらちょうど三宅が居て、誕生日だからってジュース奢ってくれた。2時限目のテストはよく出来たと思う。その後は、体育祭の予行練習…うん、特に滞りなく上手く出来たよね。あっ、実行委員でもないのにここでもジュースもらったね。で、今この店に来る前にも良い事あったよね」
ミチはテーブルをトントンと叩いた。
「ちょうど店の前で出てきた人に会って割引券を貰った」
「そうそう、ついてたよねぇ~。このコーヒーとケーキセットが500円で食べれるなんて誕生日様様だわ」
日葵は大きい一口でモンブランを食べる。一番上の丸ごとの栗と一緒に。
「う~ん、幸せ」
「日葵さん、あなたは気付いてないかもしれませんが、私はもっとあなたの奇跡を目の当たりにしてるんですよ…」
「えっ!そんなに?」
「体育祭の時のペンもビブスもそれまで無かったのに、揃った途端にちょうどいいタイミングで取りに来る。先生からジュースも貰った。ここに来るまでの道のりもほぼ信号は青信号。一度赤信号で止まったと思ったら、店から出てきた人に割引券を貰う」
「へぇぇ~。それで朝も一本早い電車に乗れたのかな」
「ほぼ信号で止まらなかったでしょ」
「そういえば、よく捕まる長い信号でも止まらなかったかも」
「あなた、本当に気付いてないの?」
「う~ん。誕生日だからさ、何かその特殊能力までいかなくても運が味方してくれてるのかな、とは。第一私そういうの元々信じないって知ってるでしょ?」
ちょうど近くまでテーブルを拭きに来た店員がこちらをチラリと見た。
「聞こえてしまったんですが、今日お誕生日なんですか?」
日葵を見て優しそうな女性の店員がテーブルを拭きながら続けた。
「良かったらお友達も一緒にもう一杯ドリンクサービスしますよ」
〝ホントですか?〟とニコニコとカップをもってカウンターへ行く日葵にミチがため息をつく。
(…こんな事普通ないってなんで気付かない?)
「ミチ、早く!」
「はぁい」
ミチもカップを持ってカウンターへ急ぐ。
幸運続きの友達を持つと、そのおこぼれは必然的についてくるのだ。
「いい、日葵。あんたはイマイチこの幸運が特別だと理解していない。こんな事、非日常的な事が今日一日だけで続いていると理解して欲しい」
「はぁ…」
「あんた、明日はなんの種目に出るの?」
「全員参加の徒競走と借り物競争と障害物競争」
「見事に帰宅部の種目だわ」
ミチは考えながら〝うんうん〟と腕組みしながら自分に納得した。
「日葵、あんたの奇跡を目の当たりにしてあげる。明日の借り物競争、不正をするよ」
「不正…?」
ミチは、実行委員である立場を生かして日葵に指示をした。
それは、借り物競争で持って来るものを、ミチが書いた紙とすり替えるというものだった。
「でも、今日お題は紙に書いて渡しちゃったよ」
「大丈夫。急遽、実行委員からのお題も入れましたって事にすればいい」
「でも、紙を引く時ミチの書いた紙ってどうすれば分かるの?」
「日葵、引くふりして。隣に私が居るから、紙をあんたからもらったふりしてマイクで読み上げる!お題は、あんたにも当日まで内緒よ」