2.叔母さんの正体
対面のソファーに座った叔母さんは紙に名前を書きだした。
「あんたのお母さんは【近子】、今世話してるのは【安子】、そして私は【美子】。これが斉藤家の三姉妹ね。何か気付くとこある?」
「全然。みんな【子】がついて昭和っぽい名前だな、ぐらいかな」
横から覗き込んだミチが、食べ終わったアイスの棒を指示棒の様に名前に当てながら言った。
「【近】くて、【安】くて、【美】味しい、牛丼チェーン店みたい」
ハハハっと日葵は笑う。
「おもしろいね、ソレ」
美子叔母さんは無言だ。
「…ウソ」
叔母さんは大きく頷く。
「それが紛れもない名前の由来よ」
(私は牛丼チェーン店から生まれた日葵…)
「あんたのお爺さん、つまり私達の父親は牛丼が大好きだった。いつか自分の店を持ちたい、とよく聞かされた」
「えっ、お爺ちゃんピザ屋へバイト行ってるよ」
「知ってる」
「お爺ちゃん、すごく重宝されてるんだって。裏道でも知ってるのか、〝今窯から出したばかりです!〟的なアツアツのピザが届くってお客さんからは好評みたいよ」
「それも知ってる」
「でも、何でそんなに近道を知ってるんだろうね。タクシーの運転手してた、なんて聞いてないし。近所とはいえ、細かい道までよく覚えてるよね。叔母さん何か知ってる?」
「あの爺さんは、自分の特殊能力を使ってるのよ」
「あぁ、1度通った道は忘れないとか…?」
「そんなはずないわ」
「毎日地図見てイメージしてるとか…?」
「それもないわね」
「じゃあなんだろ。そういえばお爺ちゃんに聞いた事なかった。今度聞いてみよっと」
「あの〜日葵、…だから特殊能力!」
「ん?特殊能力?へぇ~」
日葵は半分バカにした様に返事した。
まず信用出来る範囲の話じゃない。
「特殊能力の前に聞くけど、日葵、あんたはなぜ私が母親の妹だと信じた?」
「えっ?そんなの顔がそっくりだし、ちょっとガサツなトコも安子叔母さんとそっくりで、私の名前も私情も知ってたし…第一姉妹の名前も合ってるじゃない」
日葵は叔母さんの書いたメモをヒラヒラとかざした。
「そんなの、調べようと思えば調べられる。そっくりな他人だとは思わないの?」
日葵は吹き出した。
「そんな事してなんのメリットがあるのよ?私の叔母のふりして私に近付いても、私はごくごく普通の一般家庭の娘なのよ。どこかの大金持ちのお嬢さまでもなけりゃ、どこぞの超美人な女優の卵でもない」
「そう、その通り。お嬢様の定義は分からないけど、今のあんたにはなんのメリットもない」
「ちょっと、叔母のくせに言い過ぎだけどね」
喉が渇いた日葵は、鞄から水筒を出した。
持ち上げた途端に軽さで気付いた。そういえば、今日の体育終わりで飲み切ったんだった。
「叔母さん、申し訳ないけど何か飲み物恵んでもらえない?」
「あっ、ごめん。最後のお茶のんじゃった」
いつの間にかミチはお茶のペットボトルを持ってる。冷蔵庫から出して来たのだろう。
「冷蔵庫にはもう何もないの。あとは水道水か大通りに出て自販機よ」
「えぇ〜!あのさ、今から話は長い?私もう帰れる?」
「…まだ本題にも入ってないわよ」
日葵はミチを横目で見てブツブツ文句を言いながら、水筒に水道水を入れた。
「美子叔母さん、サクッと終わらせよ。特殊能力でも何でもいいからさぁ、話は聞くよ。でも、私、その手の話は全く信用しないから」
「分かったわよ。そのせっかちなトコ、ホント姉さんにソックリだわ」
美子叔母さんは、さっきの紙にまた付け足して書き出した。
近子…不明
安子…過去
美子…未来
爺さん…止める(今)
「何のことかさっぱり分からない…」
日葵は頭をひねった。
またミチが横から覗き込む。
「安子は【過去】で美子は【未来】、爺さんは【止める】か…それはピザもアツアツで届くはずだ」
「えっ?…まさか時間のコト?」
「美子さんが占い師なのも未来が見えるからなんだ…安子さんは過去に行けるのかなぁ…」
ミチがペットボトルのフタを左右に動かしながらイメージしてる。
さながら中心は現在で左は未来、右は過去らしい。
「あんた、適応能力スゴすぎない?なんでそんなにスッと受け入れられるのよ」
「だって、美子さん普通に歩いてた私を呼び止めてまで、日葵をここまで連れてこさせた。何かあるとは思ってたからさ。それに、ここだけの話…この前のテスト問題教えてもらったの!」
「はっ?何で私にも教えないのよ?元の情報源は私の叔母よ!」
「だってまだ半信半疑だったんだもん」
「で、ミチ何点だったの?」
「70点」
「うわっ、問題知ってるのに?私の方が点数良かったわ。あんた勘はイイのに頭はイマイチなんだね」
「うるさいわ!」
「あの〜あんた達帰るの遅くなるから、私の話を優先させてくれない…?」
美子叔母さんが、呟く。