19.目覚め
日葵が次に目を開けた時、見慣れない天井が目に入った。
頭が重い。
「日葵!」
声の方を見ると、傍らには安子叔母さんと椅子にお爺ちゃんが座ってこっちを心配そうに見ている。
やっと、ベッドに寝かされていると気付く。
視界には点滴が見える。
「良かったぁ。あんたはホントにもう…」
安子叔母さんは、ナースコールのボタンを押した様だ。話をしている声が聞こえる。
(そうだ…校舎から出たら、赤い車が歩道の方に乗り上げて…こっちに向かってきたんだ!だから咄嗟に…)
日葵は大きく息を吐いた。
そして、再び目を閉じた。
次に目を開けた時は、ベッドの周りには誰も居なかった。感覚で、深夜である事は分かった。
薄暗い中で、しばらく目を凝らしていると段々と記憶がハッキリしてきた。
頭が痛い。この痛みは、傷を負った痛みだ。
車がこっちに向かってきたから、前で携帯を触っていて気付いていないテニス部の男の子を庇う為に、彼に飛びついた。
考えるより身体が勝手に動いていた。
そして、その拍子に頭を強く硬い所に打ち付けた。
だから、頭が痛むのだろう…
(あのテニス部の子は大丈夫だったのかな…?)
病室の扉が開いて、看護師さんと目が合った。
「斎藤さん、目が覚めた?気分はどう?」
日葵は、頷く。
「頭が痛い」
看護師さんは、テキパキと点滴を確認して体温と血圧を測る。
「頭を打ち付けたから、しばらく痛みはあるかも…でも骨は折れてないし、もう一度検査して異常がなければ退院出来るからね」
大人しく話を聞いて、テーブルの上の飲み物を差した。
「飲んでもいい?」
「大丈夫。斎藤さんは特に飲食は制限されてないから。ご家族が心配してたよ…無事で良かった。他に何か聞いておきたい事ある?」
看護師さんが出て行き、日葵はテーブルの上のペットボトルを手に取り、口に運んだ。
キャップを外す時に手の擦り傷に気付いた。地味に痛い。
よっぽど喉が渇いていたのか、ただの水がとても美味しく感じる。
隣に置かれていた携帯を手に取った。
時間は、午前2時をまわった所だった。
受信したラインの件数がすごいことになっている。
校門前の出来事だったから、見かけた人も多かったのかもしれない。
返事は昼間にゆっくりしようと、ザッと確認だけする。さっちゃんも三宅も松本クンからも連絡が入っている。
(あれ、ミチから連絡が入ってない…?)
不思議な事に、ラインの友達情報にミチの名前すらない。だから、やり取りした履歴も残ってない…
(ウソでしょ?まさか、衝撃で携帯壊れた?)
携帯を操作して、関連がありそうなデータを片っ端から探しても、ミチの写真すら出て来ない…
体温が下がって、指先が冷たくなってくる。
(…ミチの存在そのものが無くなってる!)
いつの間にか頭の痛みは消え、日葵は落ち着くために1度深呼吸をした。
まだあの時繋いだ手の感覚が残っている。
ミチの匂いも、柔らかさも、温もりも残っている。
ただ、触れられるモノが何もかも無い…。
ミチという、そのものが無くなってしまっている。
(どういう事?こんな事して何が目的なのかさっぱり分からない!夢なら早く覚めて…)
日葵は手のひらをつねってみる。
分かっていたけど、ちゃんと痛い。
(違う世界、ミチが居ない世界に来たって事?今までの記憶はあるのに?パラレルワールドってヤツなの…?特殊能力を手放したら、親友まで居なくなった。じゃあ今の私には何が残ったの…?)




