18.日葵の決断
「ミチには、ちゃんと話しておかなきゃ」
日葵は体の向きを変えて再び天井を見あげた。
「17歳の誕生日に特殊能力と呼ばれる力を貰って、色んな事にタイミングがいい方に動くようになった…信号も、電車に乗るのも、授業も、図書委員も、お店に入ってもそう、多分私が気づいてない事もすべてにおいて…
でも、結局今回のこの事件は防ぐ事が出来なかった」
「それは、事件に遭ったのが私だからじゃない?それに私達が知らないだけで、日葵と一緒に居る時は何かしらあのストーカー行為が避けれていたのかもしれないよ」
「…そうだね。私達が知らない所で、もしかしたら物事はいい方に動いていたかもしれない。
でもねミチ、結果としてこの事件が起きたのは事実だよ」
「そうだけど、日葵の特殊能力と一緒にするのは別問題だと思うよ」
勘がいいミチは、日葵の考えに気付いている様だった。
「前にね、松本クンに言われたんだ。私の運が良くなったのは、その前に私が人に親切にしたからだって。だから結果ラッキーな事が起こっても、きっかけは私の親切からだから当然の報いだって…
私、それを聞いたらスッと胸が軽くなった感覚を今でも忘れられない」
日葵は同意を求めるように顔をミチの方に向けた。
「日葵は罪悪感を感じていたの?」
ミチの問いにそっと頷き顔を戻した。
「今はまだ罪悪感を感じてるからいい。でもこれからこの力を持ったまま生きていたら、私はこの力に依存してしまって、“これが普通”になってしまう。そして私は周りとは違うんだと、勝手に区別して自分は特別だと慢心を抱いてしまう」
「日葵に限ってそんな事はないと思うし、その力が人の助けになるならそのままでいいと思うけど…?」
「ミチ…やっぱり私は自分に納得がいかないよ。なんでこの事件を回避できなかったのか、相手に計画を遂行させてしまったのか、ずっと頭の中でモヤモヤしてる。
私に宿った力を持ってすれば、ミチがコンビニに入るのを阻止出来てたし、あの男がずっとストーカーしていたのにも気付いたはずなのに」
「…それも、力に依存するって事なのかぁ」
「そう、出来なかった事に対しても、この力の実力を問いかける事になる」
「日葵…」
「ん?」
日葵はミチの方に顔を向けた。
「後悔してる…?」
「まさか、後悔はしてないよ。この力のお陰で、ミチともこんなに仲良くなれたし、三宅や松本クンとも親しくなれた。何年も会ってなかった美子叔母さんとも会えたし、何より自分にとって何が一番大切か考える事が出来た」
「日葵にとっては何が大切だったの?」
「…私には周りに居る大切な人とのフェアな時間が大切なんだ。自分だけが恵まれた環境は、心が痛くなる。
やっぱり、運が悪い事があるから良い事が嬉しくなるし、もし悪い事が起きた時に、どう自分が捉えるかも大切なんだなって」
「そっか…」
「テストもヤマが外れて悔しいからこそ次のテストでいい点数だと嬉しい」
「割引券も引換券も?」
「たまにもらえるから、嬉しい」
「赤信号に頻繁に捕まったら…?」
「待ってる間に道端の花を愛でようかな」
「…そうだね」
ミチはクスッと笑った。
「もう気持ちは決まってるんだ」
「うん。大切な友達の一大事にも気付かないこの能力は、必要のない能力だから手放すよ」
「後悔しない?」
「…するかもしれないけど、それ以上に得るものが増えると思うよ。予測が出来ない事に一喜一憂して、何があるか分からない未来を生きる事、もっと楽しまなきゃいけない」
日葵はミチの方へ体ごと向けた。
「だから今日こうしてこの瞬間にミチが一緒に居てくれて良かった」
日葵の言葉に、ミチはそっとぬいぐるみを枕元に置いて、両手を差し出した。
「ずっと一緒に居ようね」
日葵もその手をしっかりと握った。
「うん!」
そしてそっと目を瞑り、祈った。
(神様、私はこの力を手放します。元の私に戻して下さい…)
本日20時にも投稿します。




