17.日葵とミチ
やっと日常が戻ってきて、ミチの笑顔も元通りになってきた気がする。
今日は週末を利用して、ミチが泊まりにきた。
安子叔母さんと協力して、みんなで夕食を作る。
チーズと卵がのったハンバーグは、少し特別な日の献立だ。
ハンバーグを焼き始めた頃、美子叔母さんがケーキを持って現れ、お爺ちゃんは熱々のピザを届けてくれた。
叔母さん2人とミチとの4人で沢山話して、笑って、食べた。
何故か分からないけど、ずっと家族で居た様な安心感で満ち溢れていた。
一緒にお風呂に入って、日葵の部屋で並べた布団に寝ころぶ。
ミチは小学校の入学祝で母から買って貰ったぬいぐるみを小脇に抱え撫でている。
日葵は、友達が遊びに来てこうやって夜更かしするのは初めてで、少しの緊張と嬉しさで胸が高鳴った。
ミチの持ってきたお勧めのスキンケア製品を試し、かかって来た三宅の電話に盛り上がり、新作のチョコレートの背徳感に酔う。
こんなに自分をさらけだせる自分に、驚いている日葵が居た。
「あの時さ…」
ミチがポツリと言った。
あの時は、わざと話題を避けていたあの時の事だとすぐに分かる。
やっと話せる心の状態になったのかな、とこの雰囲気に感謝し日葵は少しホッとする。
「絶対に日葵が助けに来てくれるって信じてたよ。信じて…ずっとテレパシーを送りながら祈ってた。
自由が利かないし…暗いし…どこかも分からない。
時々ボソボソと男の声が聞こえてきて、誰かと連絡を取りながら、金がどうとか聞こえてきて…じゃあ、とりあえず大人しくしてれば、連れてきた男には何もされないだろう、って思ってた」
「…怖かったよね」
「怖かったし、匂いと雰囲気で押し入れの中に閉じ込められたのは分かったから、閉塞感と不安で何度も息が苦しくなってパニックになりそうだった。
でもさ、ちょうどポケットに手が当たったの。あっ、そういえばコンビニで新作のチョコレートを買ったんだって思い出して、コレを日葵と食べるまでは頑張ろって思ってた」
そのチョコレートは、警察署で少しの合間で一緒に食べた。
ミチの体温で少し溶けていたけれど。
「なんでストーカーの事相談してくれなかったの」
「…日葵と居る時には、気配を感じられなかったから。私が1人で居る時だけ、写真を撮られたような音がしたり後ろから誰かがついてくる様な足音がしたり…あんまり心配もさせたくなかったしね」
日葵は、ミチと顔を見合せる。
「変なとこで気遣いするよね」
そう言って少し笑う。
「まさかあのコンビニ男の指示で、連れ去った男がミチを付け回していたなんて」
「家からすぐのコンビニだし、何の違和感もなく寄るし、あの店員とも顔見知りになって、会えば軽く話す様になってたし…今考えるとゾッとするけど」
「少し話すだけの関係では物足りなくなったんだろうね」
布団の中でお互いに天井を見あげたまま、しばらく話さずに静かな時間が流れる。
その時間も特に気を使わない。
「それにしても、ミチに見せたかったよ。あの松本クンの華麗な背負投」
ミチが寝返りを打って日葵の方を向いた。
「まさか黒帯の有段者だったとはね…」
「あんな細身の体でズルいよ。私なんて前に、すぐに投げ飛ばされそうだね、って松本クン本人に言っちゃったし」
「そしたら、何て?松本クン」
「僕もそう思いますって笑ってた」
「自覚があったんだね、強そうに見えないって」
フフフとお互いに笑う。
「だってさぁ、見えないよねぇ?」
「絶対に分かんない」
「で、三宅も同じ道場に通っていたから松本クンの強さを知ってて一緒に連れてきたって…私、なんで松本クンを連れてきたんだ、それこそ祐二を連れてくれば、マッチョだし威圧出来るのに!って思ったもん。
松本クンに口止めされて三宅も黙ってたみたいだけど、人は見かけで判断したらいけないってホント身に沁みたなぁ」
「2人の中身も知ったら、余計に見かけだけで人間判断したらいけないって思うよね」
「そうだね…三宅は情に厚いからあんな時間までずっとミチを探し回ってくれるし、松本クンも三宅に、いつでも駆けつけるって連絡入れてくれてたって…」
「結局色んな人に迷惑かけちゃったけど、こんなに心配してもらえるって幸せな事だよね」
「…それは、ミチだから、だよ。もちろんみんな自分が出来る最大限で困ってる人が居たら助けようとは思う。でも、困ってたのがミチだからリミッターがさらに上がったっていうのは大きいよ」
「…そう?」
「あんな時間なのに、あれからあのアパートの周りにはどんどん人が集まるし、グループラインには情報が飛び交うし…みんなミチだから居ても立ってもいられない状態だっだんだよ。
だからあの瞬間は…ミチの友達で良かったなと思ったし、正直ミチになりたいって羨ましくも思ったよ…」
日葵も寝返りを打ってミチと向い合せになって言った。
「私と友達で居てくれてありがとう」




