13.私に出来るコト
「斎藤さん、今日は珍しく1人なんですね。ミチさんと一緒じゃないなんて」
図書館に本を返しに来た日葵は、松本クンの居る受付前に立った。
「うん、ミチ用事があるんだって」
持ってきた本を返しながら、さりげなく返却棚を見た。
今日も本で埋まっている。
「もう1人の当番の人は?」
「それが、急病で早退したみたいです」
松本クンは申し訳なさそうに言った。
「とりあえず人が減るまでは受付をして、空いてきたら返却棚を片付けようかと思って」
「それなら早く言ってくれればいいのに」
日葵は、返却棚へ近づく。
「暇だし私が片付けるから松本クンは受付してて」
「いやいやいや」
松本クンは、受付カウンターから急いで出てきて日葵を止めた。
「それなら、斎藤さん受付やって下さい。僕がこっちを片付けますから。重労働の方をやって頂くのはさすがに気が引けます」
松本クンは、日葵の前に立ちはだかって動きそうにない。
チラッと視界に図書室に入ってきてそのまま受付まで歩いて来る人が見える。
日葵はもう一度松本クンを見た。
「分かった。じゃあ、受付は任せて」
日葵はカウンターの中へ入り、返却の人に備えた。
返ってきた本はちょうど次に借りようと思って返却を待っていた本だったので、そのまま閉館の時間まで作業の合間に読むことが出来た。
時々松本クンを確認すると、返却棚を整理しながら本がある場所の質問に答えたり、掲示物を見直したり、知り合いと軽く会話をしたりしていた。
いつも通りのゆったりとした時間が流れていく。
読みたかった本は、予想以上に面白くてどんどんとページが進み、終わりに近づくのが寂しくなる位だった。これもいつも通りで、始まればいつかは終わりが来る。
あと1章読めば読み終わるという頃閉館の時間となった。
「斎藤さん、受付助かりました。ありがとうございます」
松本クンは、返却棚をちょうど空っぽに出来た様だ。
これならそのまま残らずにすぐに帰れるだろう。
日葵は、読んでいた本を借りるか迷う。あと10分もすれば読み切れてしまうから。
「松本クン、私がカギ閉めしてもいい?あと少しで終わるからこの本読み切ってしまいたい」
日葵は、本を掲げた。
「あぁ、その短編小説面白いですよね」
松本クンは、ニコニコする。
「今からもっと面白くなるので、今のうちに斎藤さん読み切って下さい。僕はその間に掃除しちゃいますから」
聞けば松本クンも電車通学というので、一緒に駅までの道のりを歩いた。
面白い本に出会えた感動でテンションが高くなった日葵は、本の感想を次から次へと一方的に松本クンに話していた。大人しく聞いてくれるのを良いことに。
話し終えて我に返った日葵は、ハッとする。
「ごめん、勝手に熱く話しちゃった」
松本クンはクスクスと笑った。
「全然、嬉しそうに話す斎藤さんを見てるだけでこっちまで楽しくなりました。それより、話に夢中になっている斎藤さんに代わって横断歩道の信号を気にしてたんですが、ずっと青でずっと止まる事なくここまで来たんです!必ずと言っていいほど待つあの信号さえも」
松本クンはすぐ後ろを振り返った。
歩行者側の信号は、今は赤だ。
「えっとぉ~」
日葵は、どう話したらいいのか、と迷う。
「私、最近ツイてるから」
「それは、どういう意味ですか?」
松本クンは、詳細を促す。
「体育祭の時も見たでしょ。私に運が向いて来てるというか何というか」
「そうなんですか?」
イマイチ反応が薄い松本クンに、日葵は説明する。
「最近やたらと割引券も引換券ももらうし、ライブのチケットは当たるし、この前のお昼休みもね…」
日葵は、わらしべ長者と言った体験談を松本クンに話す。
うんうん、とさっきと同様の反応で話を聞く松本クンは、話し終えた日葵に言った。
「でもそれって最初は斎藤さんがお礼でジュースを貰った事が始まりですよね?」
松本クンの問いに日葵は考える。
「そうだね、お休みした時にノート取ってあげたお礼でジュースを貰ったから」
「じゃあ、結果ツイていたかもしれませんが発端は斎藤さんが親切にしたからです。だから、当然ツイていてもおかしくない結果ですよね」
松本クンは、もう一度言った。
「そもそも斎藤さんが親切にしていなかったら、そのツキも無かったんですよ。今日だって当番じゃないのに手伝いをしてくれたから、読みたかった本が読めた。見返りを期待して親切にする訳じゃないですけど、斎藤さんがツイているのは、当然の報いだと思います」
松本クンの言葉は、肩の力がフッと抜けて体が軽くなるのを感じた。
(私がツイているのは、当然の報いともとれるんだ…)
*****
同じクラスのさっちゃんから電話が入った時、とっさに時間を確認した。
すでに23時30分を過ぎている。
しっかり者のさっちゃんの性格からしてきっと急用だと察し、急いで電話に出る。
「えっ、ミチが帰ってない…?」
さっちゃんの話では、同じ中学だったミチの母親から自宅に電話が来たらしい。
事情を聞いて、ミチと仲が良い子に片っ端から連絡を取ろう、とまずは日葵へ連絡をくれた。
「ミチ、今日は病院へ行くって一緒に帰ってきてないよ」
「ミチ、他に何か言ってなかった?」
「病院以外にどこか寄るとか?聞いてないよ」
2人の会話は自然に早口になる。
刻々と時間が過ぎる。
この間にも、ミチが帰ってきたと連絡が来ればいいのに。
話ながらも、日葵は頭をフル回転させる。
(今、私に出来る事は…)
「とりあえず、私も片っ端から色んな人に連絡取ってみる。もちらんミチにも連絡入れてみるし。随時どんな状況か連絡取り合おう」
「分かった」
電話を切った日葵は、共有している位置情報を見てみるも表示されていない。
ミチにすぐ電話をしてみる。
「電波の届かない所か~」
(電源が入っていないのも充電が無いのもミチに限って有り得ない。本当に〝何か〟あったんだ…)
日葵は下の階の音に耳を澄ます。
ちょうど部屋に入る扉がバタンと閉まった音が聞こえた。
(まだ安子叔母さん起きてる!)
「叔母さん!寝るのちょっと待ってっ!」
日葵は携帯を片手に叫びながら急いで階段を降りた。




