12.美子叔母さん
再びあの外観と内装があまりに違う叔母ハウスを訪れたのは、日葵の誕生日から2週間が過ぎた頃だった。
出張から帰ってきた美子叔母さんはこの前と同じくサバサバとしていて、日葵もこの前でだいぶ叔母さんの事が分かったので、今日は水筒+コンビニでジュースを引き替えてきた。
というのも友達からジュースの引換券を譲ってもらっていたからだ。
先週は同じクーポンを別々で2枚ももらい、好きな乳酸菌飲料をゲット出来てウキウキで帰った。
ラッキーが起こった時は、
「これは当たり前じゃないからね」
とミチから釘をさされている。
もちろん日葵もこれが日常だとは思わない様にしているが、実際に日常になっている今、割引券や引換券を貰って喜ぶのは、多少演技が入ってしまう事は否めない。
(贅沢になりすぎてる…)
自分を戒めるために、以前よりも周りに気を配る様になった。
必要以上に喜ばない事。必要以下で喜びを表現しない事。
なんでも適度が肝心なのだ。
だから、美子叔母さんからQUOカードと図書カードを貰った時にもいつもの様に適度に喜び、そして金額を確かめて驚いた。
「叔母さんから貰うのなら納得だけど、他人だったら恐縮する金額だった!」
予想に反してそれぞれ5000円ずつの額面だ。
ミチが横から声をかける。
「図書カードは分かるけど、QUOカードはコンビニでも使えるんだから美子さん使えばいいのに」
それを聞いて叔母さんは、ため息とともに手を横に振った。
「コンビニ好きじゃないの。望んでも居ないのに、店員の未来が見えちゃうのよ…それにQUOカードは貰い物だし日葵の誕生日祝にちょうどよかったわ」
「店員の未来が見える?」
2人の声が揃う。
叔母さんは、冷蔵庫から作ってあった麦茶のポットを取り出し、コップについで持ってきた。日葵の予想に反して、今日は飲み物あるよ、とジェスチャーした上で。
「ホント不思議なんだけど、コンビニで会計待ってると念じてもないのに、その店員の未来が見えてくるのよ。
最初は分からずに、ある時派手な男性店員に話しかけてしまったの。“何故か知らないけどあなたを見ると、赤ちゃんを抱いてる姿が見えてくるわ”って」
「…で、その店員は何て?」
「すごくビックリして、“あと数日で嫁が出産予定なんだ。何でわかるんだ?”って。あっ、これ自然に未来が見えてしまってるんだって気付いてから、コンビニに行くのはなるべく控えてる。他のスーパーとかならそんな事ないのにね」
ミチと日葵は顔を見合わせて、不思議そうに首をひねる。
「コンビニ特有の波動みたいのがあるのかな?」
「確かに、コンビニって不思議な空間だよね。癒やしもあれば危うさもあってなんか人の隙間が垣間見えるような空間」
「用事が無くても寄ってしまう時ない?私はちょっと心が疲れてるなって時に寄ったりする」
「私はチョコレートが食べたい時。新商品が出てると何個か買って安子叔母さんと食べ比べするの」
日葵はチョコレートの美味しさを思い出したかの様に、幸せそうに笑った。
叔母さんは、そんな日葵を見て軽く笑う。
「で、今日は日葵の未来を見るんだっけ?」
「そうそう、日葵がこれからどうなるか見てよ、美子さん。隣に居ても、なんか恐いくらいなんだから…」
「前に予想した通りに、タイミングが合ってラッキーな事ばっかり起こってるみたいね」
叔母さんは、確認するかの様に日葵を見た。
「うん…もう何かコレが当たり前になってきちゃってる。逆に赤信号で止まったりすると、何かあるって身構えたりするもん」
叔母さんは、ミチを見る。
「事情を知っているミチは、日葵の様子を目の当たりにしててどう思う?」
「う~ん…ありえない事が次々と起こって、幸運のお裾分けを貰える時は、単純に嬉しい。でも、羨ましいとか妬みとか…マイナスの気持ちも半分あるかな」
ミチの感想は正直だと、日葵は思う。
自分が逆の立場だったら、自分に不運が訪れる度に自分の運はミチに取られている、と思うかもしれない。
「ミチはそれでも日葵と一緒に居てくれるの?私は叔母だから、姪っ子が幸せなのは嬉しいけど」
叔母さんの攻めた質問に、ミチの答えを聞くのがドキドキする。
「バカにしないでよ、美子さん。私そこまで心狭くないし。それに私にはこの生まれ持った美貌があるしね」
ミチは、立ち上がってセクシーポーズをとって体をくねらせた。
よく分からないけど、近くに居てくれるのがミチで良かったと、日葵はホッとする。
「確かにミチは生まれた時からの勝ち組だわね」
美子叔母さんは、そう言って日葵の方に体を向けた。
日葵と目が合うと、そっと目を閉じて日葵の頭の辺りに手をかざした。
(真剣に見る時はイメージ通りの念じ方なんだ…)
日葵もなんとなくご祈祷される様に、頭を垂れる。
「ふぅ〜」
としばらくしてから叔母さんのため息が聞こえ、日葵は頭を上げた。
「ダメだわ。見えない」
「見えない?」
「見えないって?」
日葵とミチの声が上がる。
「こんなコト初めてだけど、真っ白なモヤがかかっていてまったく浮かんでこないの」
「ヤバい。私、死んじゃうのかな…?」
急に不安になった日葵が、叔母さんとミチを交互に見た。
「イヤ、そうじゃないと思う。正直死に関しても見えた事は何度もあるから」
美子叔母さんは否定する。
「それより、何かわざと見せない様にしてるみたい。日葵が見られない様に何かしてる?」
「してないよ!見られて困る事もないし、先に知っておいた方がいい事もあるから…」
「おそらくだけど…」
美子叔母さんは前置きをした。
「私が未来を見る力よりも、日葵の力のほうが強いのよ。きっと日葵の力が未来を映すことを拒んでるんだと思う」
日葵はミチと顔を見合わせた。
これからどうなるのか、どうすべきか、それは自分で考えろ、という事か…
でもそれが本来の生き方なのだから、誰のせいでもない。
「でもさ、これで腹がくくれたじゃん」
ミチはスッと立ち上がった。
「日葵は自分が正しいと思う方を選択していくだけだよ」
「そうだね…。それが普通なんだしね」
日葵も意を決した様に、よしっ、とスッと立ち上がった。
「うん。まずは自分を信じてそして信じるべき人を信じて生きる」
「うん。未来なんて見えなくていい。逆に見えたら、そうしなきゃいけなくなって、がんじがらめになる」
ミチの言葉に日葵は笑った。
「じゃあ、ミチは今日見てもらわなくていいの?」
「もちろん!これからも私は自分で道を切り開いていくし。ミチだけにね!」




