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10.これからのコト

ミチと近くのドーナツ屋で一息つく。

体育祭も無事終わって、2人ともコーヒーを一口のんで〝ふぅぅ~〟と大きく息を吐いた。

疲れから体が溶けていきそうだ。


携帯を取り出して、お互い別々の情報を見ながら、ただボーッとしていた。

2人で話したい内容は、これからのコト、だ。

でも、特別何か意識して出来る事もないから、お互いにどこを始点にしたらいいかわからない。


「とりあえずさ、2人の動向を観察してみよう。今回の借り物競争では、あの2人が日葵と身近な存在ではあったけど、この結果が何を意味しているのかがまったく分からない」

「確かに。それこそ美子叔母さんに未来を見てもらえばいいのかもしれないけど」

「ん…?美子さん出稼ぎ行ってるわ」

「出稼ぎ?」

「そう。熱心な信者さんがいるみたいで、定期的に行ってる。でも、戻ってきたら一回会いに行ってみよう。日葵の今後が非常に気になる」


日葵は、しっかりとミチを見た。

「私の心配をしてくれるなんて、ミチもいい所ありますねぇ」

「いやぁ、心配というかなんというか…」

ミチは少し恐れもしている。

このドーナツ屋に入っても、日葵の番になったら急に噂のイケメン店員が現れるし、レシートにラッキーナンバーが出たとかで、生クリームとアイスのサービスももらえた。


体育祭の優勝クラスはもちろん日葵のクラスだったし、各委員会で分担した片付けも、人一倍早く終わっていた。聞けば、間違えた水泳部員が、知らない間に図書委員の担当箇所までやっていたらしい。

お陰で力仕事はほとんど終わっていた、と日葵は喜んでいた。


「日葵、三宅は分かるけど松本クンとは接点あるの?」

「う~ん」

日葵はサービスでもらった生クリームをミチの方にも差し出しながら、考える。


「正直、今まで意識してなかったから印象がないんだよ。委員会の時に多少話をする位、でもね…」

日葵は、思い出したかの様に笑いながら言った。

「今日の片付けの時も楽しそうに重いもの片付けてたよ。なんか巡りが悪くて重いものを持つ係になっちゃってたけど、〝普段あまり話さない水泳部の子と話せたから楽しかった〟ってニコニコしてた。いい子だよね」

「そう…」

ミチは、ドーナツに生クリームを付けた。疲れた体に甘いものは正義だ。


「今のあんたは運の巡りでいえば一等賞でしょ?」

「うん、まぁそういう感じだね」

「こうなったら、2人を注視しながらも少しお題が出せたら出してみよう」

「お題?」

「そう、どうせ日葵にツキは回ってくるんだから、ツイてなかったらどうなるのか見てみたい」

「ツイてない?」


「よく考えてみて。もしかしたら、この生クリームもアイスも私がもらうはずだったかもしれないんだよ」

「そうか!わたしのタイミング運の方が勝ってしまうのか…体育祭の時にも感じた後ろめたさ…」

「本来、運なんて平等に与えられると思ってる。でもそうじゃない事は、みんな解ってる。そんな理不尽さも含めてみんな自分の身の丈に合った運の良し悪しで一喜一憂して生きてる。そうじゃない?」


「そうだね、生まれた時にある程度の運は決まっているのかも」

「そりゃそうよ。誰だって美人で大金持ちの娘に生まれてきたい。そうすれば、減る悩みはあるってもんよ」

「そうなったらなったで、また違う悩みが出てきそうだけどね」


「三宅は隣の席だからなんとなく様子は分かるよね。松本クンを見かけたら意識して観察してっと。今度の図書委員の集まりはいつ?」

日葵は、思い出す。

「ちょうど明後日にあるし、松本クンは受付の当番…」


日葵は言いながら、見ていた携帯の画面をミチに見せた。

「ねぇ見て、ライブチケットが当選してる」

ミチは勢いよく立ち上がって、日葵の差し出した手を両手で掴み、携帯画面を凝視する。

「信じられない…あんたなんで冷静で居られるのよ。これ、絶対に私が一緒に行くから!チケットの手付金、今すぐ払います!」



*****



国語の授業は段落ごと読む順番がまわってくる。

日葵は目測で自分の読む場所を確認した。

難しい漢字もあるし、文章がすごく長い…

いろんな意味でドキドキする。

(まさか、この流れも回避出来たりする…?)


隣の子が読み始めていよいよ覚悟を決めた時、急に先生が言った。

「はい、次を小林、お前読め」

「えっ!」

「ほら、ウトウトしてるからどこを読んでるか分からないだろう。ちゃんと授業に集中しろ!」

小林クンは、周りに確認して続きから読み始める。


小林クンが読んだ後の次の段落は、短いし気がラクになるが複雑だ。

フゥ〜と静かに息を吐く日葵の横で、三宅がこっちを見た。

三宅の気持ち的には“次は長くなくて良かったな”ってトコだろう。

もしカンが良かったら、“最近、斎藤ツイてるな”とも思ってるかもしれない。


早弁の三宅が、昼に購買に行く事は知っている。

ミチは小銭入れを片手に自然と三宅の横に並び聞いた。

「三宅、何狙い?」

「今日は朝からコロッケパンの気分。まぁこの位の位置ならまだ残ってるっしょ」

「ふぅん」

「ミチは?」

「チーズ蒸しパンかな」

「食った気しなくない?」

ミチは笑う。

「それ重量感の話?なんか蒸しパンって好きなんだよね」

「オレはそれじゃ、腹にたまんねぇな」


やっと順番が来た。

ミチは希望のチーズ蒸しパンを手に取ってお金を払う。

隣で、

「えぇぇ~!」

と声を張り上げたのは三宅だ。

「もしかしてコロッケパンもうない?」

購買のおばちゃんは、いつも置いてある場所の近くを探してくれる。

「今日はもう売り切れちゃったみたいだねぇ」

「うそだぁ…もう身も心もコロッケパンになっていたのに…」

三宅は可哀想なぐらいにショックを受けている。


「後ろに人も居るし、他のパンにしたら?」

ミチのアドバイスに三宅は悲しそうに首を振った。

「もうコロッケパンしか食べたくないから、明日まで楽しみは取っておく。おばちゃん、鮭のオニギリちょうだ……」


その時、

「三宅!三宅!コロッケパン欲しいならあるよ!」

「えっ!」

ミチと三宅が声がした方向を見ると、日葵がパンをかざしている…

「よっしゃぁ!斎藤、お前何食べたい?交換しようぜ」



「でもなんで斎藤がコロッケパン持ってたんだ?あれっ、購買並んでなかったよな?」

日葵とミチで一緒に食べる為に机の向きを並べた中間に三宅は立った。

「それがなんかわらしべ長者で…」

「はぁ?わらしべ長者?」


日葵は事の成り行きを説明した。

「ミチを待ってる時に、〝この前のお礼〟ってさっちゃんがジュースを奢ってくれたの。で、ご飯と一緒に飲もうと思って手に持ってたら、3組の古川くんとフワちゃんのカップルが来て…」

「あの、フルフワのバカップルが?それでそれで」

「私の手に持ったジュースを見て、“それ売ってくれない?”って。一緒のジュースを飲みたいんだけど売り切れてたんだって。で、〝いいよ〟ってジュースと交換してお金貰いました。そしたら、〝何となく買っちゃったからこれもあげるよ〟って古川くんが焼きそばパンもくれたの」


「えっ、焼きそばパン?でも今手元にあるのはコロッケパンだよな」

「それがまだ続きがあってね、そのまま焼きそばパン持ってたら、柔道部の森下くんが〝オレ今日は焼きそばパンの気分だったのにぃ〟って目の前で購買のおばちゃんに言ってるのが聞こえてきて…」

さっきの三宅の様だ、とミチは思う。


「もしかして、それで?」

「そうなの、森下くんに〝これあげるよ〟って声かけたら、その場でコロッケパンとプリンを買ってくれて〝これと交換しよ〟ってくれたの」

「えっ、えっ、コロッケパンとプリンで?」

「うん」

「で、三宅がレモンジュースとチョコロール奢ってくれたからこんなに豪華なお昼になっちゃった」


日葵が座った前には、自分で持ってきた弁当の他に、パン、ジュース、プリンが並ぶ。

「食べきれなかったら、パンは明日の朝ごはんにしよっと。なんかもらったパンでジュースまで奢ってもらって申し訳ない気分」

「朝から絶対コレって決めてたからさ、全然惜しくない。そうだ、斎藤にこれもやるよ」

三宅は鞄から、ちょっと高めのチョコレートの箱を取り出した。


「昨日姉ちゃんにもらったんだけど、マロン味だってさ。オレあんまチョコ食べないし」

日葵は、「キャー!」と嬉しい悲鳴をあげる。

「三宅、実は私コレが一番嬉しいかも。コンビニで見かけて買うかすごく迷ったんだけど、値段が高くて止めたんだよ。ミチ、あとで一緒に食べよ」



放課後図書館で受付当番をしていた日葵の前に、ドサッと本を置いたのはミチだ。

「本読むんだ」

貸し出しカードを記入しながら、日葵はミチを見た。

「読まないから、題名だけで選んでみた」

「へぇ〜でもそのわりにいいチョイスしてる。これなんか面白いよ」

日葵はミチに背表紙を見せる。

「秋の夜長にちょうどいいから読んでみてよ」

「日葵はもう読んだんだ」

「うん。本が読める環境にあるからこの委員を選んだしね…で、何で今日はこんなに沢山借りるの?」

「…そりゃ明日の為に、よ」

「ん?何それ」

日葵は首をひねった。



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