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1.うさんくさい占い師

「だからホントだって!あの占い師に見てもらったら、ホントに当たったんだから」

ミチの大きな声が周りに迷惑かけてないかこっちが気を遣う。


半ば強引に連れられて来られた、大きな駅前。

仕事帰りで駅に向かう人の流れとは逆方向に向かう。

ハーフの様な派手美人のミチの短いスカートがヒラヒラする度に、おじさんがチラチラ見ている様で、こっちがハラハラする。


ミチは私の前を遮るように、まだ力説する。

歩きにくいったらありゃしない。


「分かった、分かった。もう分かったから!」

一旦立ち止まって、ミチを落ち着かせた。


「だから今向かってんでしょ。まず落ち着きなって」

「だって日葵、ホントに凄いんだよ。あの人、〇月〇日は、赤い車に気をつけろって。

まさかと思ったけど、赤い車が来たから避けてたら、それが歩道の方へ突っ込んでくるなんて!」

「でもそれで避けてたあんたは無傷で、2年生の男の子が巻き込まれて腕を骨折したんだよね?」

「そうそう、あの人は運が悪かった」

「運が悪かったって…」


その2年生はテニス部に裁量枠で入学したエリートで、来週大事な大会があったのに。

帰宅部のミチが骨折した方が、まだ良かった。


「ミチ、分かってると思うけど私は一切信じてないからね」

「分かってるって、まったく…。信用していない日葵の変化が見たくて、ここまで連れてきたんだから」


平和そうに笑うミチにそっとため息をつく。

帰り道にばったり会いさえしなければ、家で来週期限の課題を進める予定だった。

だいたいミチと、ものすごい仲がいいわけではない。

と言っても決して悪い訳でもない。

社交的なミチはみんなと仲が良くて、内向的な私は親友と呼べる人居たっけ?


「さぁ、早く行こ」

ミチに腕を組まれる。

手足の長い彼女に二の腕をがっちり掴まれて、引っ張られるように連れて行かれる。


早足で強引に連れられて、ビルが立ち並ぶ間の薄暗い脇道に入った。

この辺りはまったく日光が当たらないんじゃないか、と思う位、アスファルトも湿っていて、脇道にはコケが生えていた。


「ここだよ」

まだ腕をつかまれたままで、店の前に立つ。

お世辞にも綺麗な店構えでもなく、どこか薄暗い。…私1人なら絶対に近づかない。


「ねぇ、どうやってここを見つけたの?」

恐る恐る店構えを見ながら、ミチに問いかける。


すりガラス調の木製の引き戸は、何かあればすぐに外れてしまいそうで時代錯誤も甚だしい。

その戸の内側は、黒いカーテンが引かれている。

店は看板も出ていなければ、暖簾がある訳でもない。

周りを見渡しても、人はおろか猫さえ居ない。

9月も下旬の今日は、もうすぐ日没になる。


「ねぇ、今日はやってないんじゃない?いくらなんでも静かだし、カーテンもしてあるし、そんなに当たる占い師ならリピーターで混んでるはずでしょ?」

日葵の問いかけを完全に無視して、ミチはさらに強く腕を掴んだ。


「こんにちは~!連れてきましたよ~!」

異様に明るい声で、ミチは店の前で叫んだ。

「えっ!どういう事?」


驚く日葵の前で、カーテンが開き、いかにも滑りが悪い戸が、力を込められてゆっくりと30cm程開けられた。

中からは、本当に普通のおばさんが戸の隙間から顔を出した。

眼鏡をかけて、別に何色でもない髪の毛は1つに結んでいる。

服は7分袖の黒いTシャツと、細身のパンツだ。

身長は日葵よりも小柄で、本気で抵抗すれば、力では勝てそうで安心する。


「いらっしゃい」

おばさんは、残りの戸を開けようと下の方を力を込めて押し、体が入るまでになったら最後は蹴り上げた。この雑な感じは、なにか引っかかる。

「中へどうぞ、日葵」


「なんで私の名前を知ってて、呼び捨てっ?」

怪しさから足が止まる。これは絶対に中に入らない方がいい、と本能が言っている。

ミチから腕を振り放そうとするも、話を聞け、とばかりにガッシリと腕を掴んでいる。


「あんたの事は何でも知ってるよ」

おばさんは、静かに言った。

「あんたに父親は居ないし、母親は7歳の時に死んだ。それから10年間、母親の妹の所で世話になっている」

「な、なんで知ってるの…?」

おばさんの顔をまじまじと見てみる。どこかで見た事がある顔じゃない…?

「まさか…母の妹?確か、安子叔母さんの下にもう1人妹が居るって…」


「はい、そこまで知ってるなら話は早いわ。取って食やしないから、中へ入りなさい。ミチもどうぞ」

「は~い!」

ミチはルンルン気分で中に入る。どっちが親族なのか分からない。


ミチに続いて、そっと足を踏み入れる。

「失礼しまぁす」

そっと中を覗くと、家の外観からは想像できない程センスに満ち溢れた室内だった。


よく天井が持つなぁ、と心配になるほどのシャンデリアが輝き、高級そうな絨毯が敷かれ、ソファーも革張りでやたらと高そうだ。

「何、この部屋、表と大違いじゃない。この半分でも表にお金をかければ、お客さんもっとくるのに」

つい口をついてしまう。

ミチはもう慣れている様で、

「アイス頂きまぁす!」

と勝手に冷凍庫を開けて、ソファーに座り、携帯を見だした。

ホントにこの図々しさと人の懐に入る能力をわけて欲しい。


「日葵もこっち座りなよ」

ミチがソファーをトントン叩いて、ここに座れと日葵を促す。

チラリとおばさんを見ると、目配せされた。

ここは、大人しく座っておばさんの話を聞くしかないみたいだ。




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