神社に住む大妖怪
強く祈願すれば願いの叶うと評判の神社があった。油揚げやおいなりさんを持参して強く願うと、どこからともなく「その願いは叶うだろう」という声が聞こえることがあるらしく、その声が聞ければ願いは叶うのだという。
そんな神社にあるとき、一匹の古狸がやってきた。昔からこの神社を寝床にしている古い付き合いの妖狐を訪ねてきたのだ。
妖狐は古狸のことを歓迎すると社の中へと招き入れる。昔に比べて随分と手入れの行き届いている社の隅々を見ながら古狸は妖狐に話しかけた。
「随分とすごい妖怪になったんだなあ。人の願いを叶えれるようにまでなるなんて」
それを聞いた妖狐は笑い、なにを言っているんだい、昔のまんまさと答えた。
「あたしもあんたと同じで妖術はからっきしさ」
その言葉に油揚げを頬張っていた古狸は首を傾げる。妖術が使えないというのなら、一体どうやってこの神社にお供えを持った人が集まるようにしたというのか。
古狸の反応をたっぷりと楽しんだあと、妖狐は笑いながらこう続けた。
「あたしはただ、無茶じゃない願いに対して威厳たっぷりに『その願いは叶うだろう』って言ってやってるだけさ。そしたら願いが叶うと人間の方から勝手に感謝してくれるようになったんだ」
こういうのを暗示って言うんだっけねえと、妖狐は楽しそうにケラケラと笑う。
それを聞いた古狸は羨ましそうにこう言った。
「なにもしないで人を働かせるなんて、随分とすごい妖怪になったんだなあ」
お読みいただきありがとうございます