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序章-6:生意気な訪問者

ユウトは部屋の椅子に腰掛け、ゆったりとした時間を過ごしていた。窓の外には手入れの行き届いた庭園が広がり、異世界に来てからの怒涛の日々を一旦忘れさせてくれるようだった。


「これが……異世界の貴族の暮らしか……」


ため息をつきながら呟く。豪華な部屋、柔らかなベッド、何から何まで自分のいた世界とは違う。リュシアや家族に助けられ、なんとか受け入れ始めた生活だが、どこか場違いな気持ちは拭えなかった。


「さて、少し休むか……」


ベッドに横になろうとしたその時――。


コンコン。


控えめなノックの音に、ユウトは少し驚きつつも声をかけた。


「どうぞ?」


扉が勢いよく開き、現れたのはリュシアの妹、ルティナだった。彼女は昼間と同じ生意気な表情を浮かべながら、勢いよく部屋に踏み込んできた。


「やっぱりここにいた!」


「ルティナ?どうしたんだ、急に」


ユウトが問いかけると、ルティナはふんっと鼻を鳴らしながら部屋を見回し始めた。


「改めて気になったのよね。お姉ちゃんが拾ってきた異邦人(イストリア)って、どんな人なのか」


「拾ってきたって……俺、物じゃないんだけどな」


ユウトが苦笑しながら答えると、ルティナは目を細めて彼を見上げた。


「それにしても、この部屋!豪華すぎない?お姉ちゃん、どれだけあんたを甘やかしてるのよ!」


「いや、別に甘やかされてるわけじゃないと思うけど……」


「ふーん、そうやってしれっと居座る気なのね」


ルティナはユウトの言葉を完全に無視し、勝手に部屋の中を歩き回り始めた。棚に並べられた装飾品やカーテンを眺めては、いちいちコメントをつけている。


「このカーテン、お姉ちゃんのお気に入りなんだからね。汚したら許さないわよ!」


「気をつけるよ……」


「それに、この机!私なんて使ったことないのに、あんたが使うとか……納得いかない!」


「……いや、俺まだ触ってもいないけど」


ユウトは少し呆れつつも、ルティナの勢いに押されて黙るしかなかった。


ルティナは部屋を物色するのに飽きたのか、急に振り返ってニヤリと笑った。


「ねえ、あんた。本当に異邦人(イストリア)なの?証拠見せなさいよ」


「証拠って……そんなものあるわけないだろ?」


「ふーん。じゃあさ、私の手を握ってみてよ!」


「えっ?」


突然の提案に、ユウトは目を丸くした。


「握ってどうするんだ?」


「特に意味はないけど、なんとなく!早くしなさいよ!」


押し切られる形でルティナの小さな手を握るユウト。しかし、その瞬間――。


「きゃー!この人、私の手を握ったわ!異邦人(イストリア)ってやっぱり図々しいのね!」


「はあ!?お前が言ったんだろ!」


ルティナは笑いながら後ろに飛び退き、ユウトの反応を楽しむように手を叩いている。その様子を見て、ユウトはようやく彼女が楽しんでいるだけだと悟った。


「……完全に俺で遊んでるだろ」


「ばれた?まあいいじゃない、暇つぶしにはちょうどいいんだから」


ルティナは悪戯っぽく笑い、椅子に腰掛けた



「でもさ、あんたも大変そうね。お姉ちゃんに助けられて、異世界に来て……これからどうするつもり?」


ルティナが不意に真剣な表情で問いかける。そのギャップに驚きつつ、ユウトは少し考え込んで答えた。


「それを今、模索中ってところだ。でも、これからはリュシアの調停役の仕事を手伝うことにしたよ。この世界のことをもっと知るためにも、自分が何をすべきか考えるためにもね」


ルティナは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに先までの生意気な表情に戻った。


「へえ……お姉ちゃんの仕事を手伝うんだ。それなら、しっかりやりなさいよね!あの仕事、大変なんだから!」


「わかってるよ。でも、正直言うと、まだ不安なんだ。俺がどれだけ役に立てるのかもわからないし……」


ユウトが苦笑しながら答えると、ルティナは軽くため息をつき、じっと彼を見上げた。


「ふーん……まあ、頼りないのは否定しないけど、お姉ちゃんの役に立つなら認めてあげる。私の自慢のお姉ちゃんなんだから!」


最後の言葉は少しだけ照れくさそうで、頬を赤く染めたルティナの表情に、ユウトは思わず笑みを浮かべた。


「ありがとう。心配しなくても大丈夫だよ。俺も、リュシアが頑張れるように全力で手伝うから」


「ほんと?なら、ちょっとだけ期待してあげる!」


ルティナはツンと顔をそらし、悪戯っぽい笑みを浮かべながら部屋を後にした。その背中を見送りながら、ユウトはふと口元を緩めた。


「……なんだかんだで、可愛い妹だな」


一人になった部屋には、ルティナが残していった賑やかさがまだほんのり漂っているようだった。彼女の生意気な態度の裏に隠された優しさを思い返し、ユウトは肩の力が抜けるのを感じた。



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