序章-5:ラディナの仕組み
朝食の後、ユウトはリュシアに案内されて庭園に出た。手入れの行き届いた花壇や噴水が、温かな陽光の下で美しく輝いている。異世界に来たばかりの彼にとって、この静けさはどこか現実感が薄く、まるで夢の中にいるようだった。
「改めてすごい庭だな……こんなに広いの、初めて見たかもしれない」
感嘆の声を漏らすユウトに、リュシアは静かに微笑みながら隣に腰を下ろした。
「ありがとうございます。この庭も、リーデンハイル家が代々大切にしてきたものなんです。ゆっくりできそうですか?」
「そうだな……まあ、まだ全部が頭の中で整理できてないけど」
ユウトは苦笑を浮かべながら、目の前の花壇を見つめた。この穏やかな時間がいつまで続くのか、少し不安も感じていた。
「ところで……この世界のこと、もっと教えてもらってもいいか?君の家のことも含めて、俺、全然知らないままだし」
リュシアは少しだけ表情を引き締めると、ゆっくりと頷いた。
「ええ、もちろんです。まず、このラディナという世界についてお話ししますね」
「ラディナには、人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族といった多くの民族が暮らしています。それぞれの民族が独立した領土を持ち、そこに住む人々は文化や技術を発展させてきました。ですが……平和とはいえない時代が長く続いていたんです」
リュシアの言葉に、ユウトは首を傾げた。
「それぞれ領土を持ってるなら、そんなに争いは起きないんじゃないのか?」
「そう思いたいところですが、隣接する領土では摩擦が絶えませんでした。特に人間と魔族の領土が隣り合っていることが、長い争いの火種になってきたんです」
ユウトは自然と表情を曇らせた。この世界に来てまだ数日も経っていないが、人間と魔族の間には深い溝があるのだと感じた。
「それで……その争いはどうなったんだ?」
「約60年前、第二次ラディナ戦争がようやく終結しました。それまでは多くの民族が戦争に巻き込まれ、資源や領土を巡る争いが絶えなかったんです」
「60年前……」
「戦争は長期間続き、すべての民族が疲弊しました。どの種族も限界が近かったんです。このままでは戦争が終わっても、全ての民族が衰退してしまうと判断され、各民族の首長が集まり、和平協定を結びました」
「それで、争いは終わったのか?」
ユウトの問いに、リュシアは静かに首を振った。
「大規模な戦争は終わりましたが、小規模な争いは今も続いています。貿易摩擦や領土問題、民族間の文化の違いから起こる誤解……完全な平和を築くのは、簡単なことではありません」
リュシアは庭の一角に咲く花を見つめながら、続けた。
「だからこそ、私たちリーデンハイル家のような調停役が必要なんです」
「調停役…」
「ええ。私たちは争いが起きた際に、各民族の話を聞き、解決策を提案する役割を担っています。そして、この仕事を任されたのは、リーデンハイル家が戦争中、中立的な立場を貫き続けたからです」
リュシアは少しだけ悲しげな目をしていた。その理由を問う前に、彼女は続ける。
「戦争中、私たちの家はどの民族にも肩入れせず、争いを終わらせるための仲介をしていました。その結果、和平協定が結ばれた後も、その役割を任されることになったんです」
「なるほど……君たちの家がそんな重要な仕事をしてたんだな」
ユウトは彼女の背負う責任の重さを思い、言葉を選びながら返した。
リュシアはユウトを見つめ、柔らかく微笑んだ。
「ユウトさんも、私たちと一緒に調停役の仕事を手伝ってみませんか?」
「えっ、俺が?」
ユウトは目を丸くしてリュシアを見た。
「ええ。異邦人であるあなたが、この世界を知るためにもいい機会だと思います。それに、」
リュシアは微笑みながら続ける。
「それに、このまま行く宛もありませんよね。我々の仕事を手伝い、この世界で暮らす準備をしつつ、調停役の仕事を通じこの世界をもっと知りませんか?ユウトさんならきっとできます。」
「俺はただの普通の人間だよ……。でも、確かにこの先も君たちの世話になり続けるのも悪いし」
ユウトは少し悩むように視線を落とした。異世界に来た理由も、この世界で何ができるのかも分からない。だが、働くこともせず、リュシアのお世話になる訳にもいかない。今の自分にできることを探すためには、動き出すしかないのだろう。
「……分かった。俺も君の仕事についていくよ。この世界で生きるために、そして自分が何故ここに来たかを知るためにも」
リュシアの顔に、安心したような笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます、ユウトさん。それでは、今度、私の仕事についてきてください。ドワーフの鉱山での調停の仕事があるのです。」
「ドワーフ……ってあの、鍛冶のすごいやつらか?」
漫画やアニメの世界のイメージをそのまま口にする。
「ええ。調停内容は詳しくは聞いてませんが、人間との間で揉めているそうです。ただ、私1人で問題ないとのことなので、そこまで大きな問題ではないと思います。安心して着いてきてください。」
「ああ……」
リュシアの微笑みに安堵を抱きつつも、この世界での生活に不安を拭えないまま、ユウトは屋敷へと戻ることとした。
この世界の情報
ラディナ:この世界全てを指すようだ。
第二次ラディナ戦争:60年ほど前に終わった大戦争のようだ。




