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序章-4:貴族の家

ユウトは豪華な部屋のベッドで目を覚ました。異世界に来た初日、緊張と興奮の中で眠りについたが、久しぶりに深い眠りを得たようだった。柔らかなシーツに包まれ、心地よい静けさが続いている。


「……本当に、ここに来ちゃったんだな」


窓の外を見ると、庭園が広がっていた。手入れの行き届いた花壇と噴水があり、その奥には青空が広がっている。


ユウトは身支度を整え、部屋を出た。廊下を歩いていると、リュシアが待っていた。


「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」


「おかげさまでね。君の家、すごいな……まるで王族みたいだ」


「王族ではありませんが、似たようなものかもしれませんね」とリュシアは微笑んだ。「今日は家族に紹介しますので、どうぞ緊張せずに」


リュシアに案内され、大きな食堂に入ると、長いテーブルの中央に二人の男女が座っていた。男性は背筋を伸ばした堂々たる姿で、女性は気品に満ちた微笑みを浮かべている。


「お父様、お母様。昨夜、森で倒れていた方をお連れしました」


リュシアが頭を下げて紹介すると、男性がゆっくりと立ち上がった。


「話は聞いている。私はリュシアの父、カイゼン・リーデンハイルだ」


「私は母のセレスティアです。遠慮なくおくつろぎくださいね」


二人とも落ち着いた声でユウトを迎えたが、その眼差しにはどこか鋭いものがあった。特にカイゼンの視線は、ユウトを見極めようとしているかのようだった。


「その……ユウキ・ユウトといいます。突然こんな状況になって、正直、何が起きているのか全然わかっていません」


「当然だろう。この世界に迷い込んだばかりなら仕方あるまい」

とカイゼンが頷く。


「だが、ここは安全だ。まずは落ち着いて状況を整理することだな」


朝食が進む中、リュシアの両親からこの家の役割について語られる。


「私たちリーデンハイル家は、この地域を治める貴族の一つだ」とカイゼンが言った。「長年、人間と他の民族との間の調停役を担ってきた」


「民族との調停役?」ユウトは聞き返す。


「ええ」とセレスティアが微笑む。「この世界には多くの民族が共生して生きています。しかし、長い歴史の中で常に平和に暮らしてきた訳ではなく争い合う時代もありました。そして、人間と一部の民族の間には、今もなお確執が残っています。でも、私たちは両者の間で争いを防ぐための役割を果たしています」


「それって……大変そうですね」


「そうですね」とリュシアが静かに答える。「争いは完全に止むことはありません。でも、それを少しでも減らすために、この家があるんです」


会話が進む中で、ユウトの「異邦人イストリア」という立場についても触れられる。


「あなたが異邦人イストリアである可能性は高いわね」とセレスティアが言う。「異邦人イストリアは稀に現れ、この世界に大きな影響を与える存在として語られています。英雄となる人もいれば、混乱を生む者もいたとか……」


「でも俺には、そんな力もないし……変化を起こすなんて無理だと思う」


ユウトは弱々しく笑いながら答えるが、カイゼンは真剣な表情で言葉を続けた。


「力はこれから明らかになるかもしれない。異邦人イストリアの存在がどれだけ大きな意味を持つか、私たちもまだ全てを知っているわけではない」


「そうか……俺が……」


ユウトは自分の立場を噛みしめるように呟いた。自分にそんな大それたことができるとは思えないが、少なくともこの状況を受け入れるしかないのだ。


朝食の後、リュシアがユウトを庭園に案内した。色とりどりの花々が咲き乱れる庭園を歩きながら、彼女は言った。


「ご両親、緊張しましたか?」


「そりゃあ緊張するだろ。君の両親、どっちもすごく威厳があるし……」


ユウトは少し疲れたように肩をすくめたが、リュシアは微笑んで首を横に振った。


「でも、優しい人たちです。きっとあなたのことも理解してくれるはずです」


彼女の言葉に、ユウトは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。



庭園の奥で、ふとユウトはリュシアに尋ねた。


「君は、この家で調停役を引き継ぐことになるのか?」


「……ええ。そのつもりです。でも、まだ私にはその力が足りません」


リュシアの紅い瞳が揺れた。その表情に、彼女が抱えるプレッシャーの大きさを感じ取ったユウトは、何も言えなくなった。


その時、後ろから元気な声が響いた。


「お姉ちゃん、また真面目な話してる!」


ユウトが振り返ると、そこには中学生くらいの少女が立っていた。リュシアによく似た銀髪に、大きな瞳が印象的だが、少し拗ねたような表情が可愛らしい。


「ルティナ……勉強しているんじゃなかったの?」


リュシアが優しく声をかけると、ルティナはツンと顔をそらした。


「だって、退屈だったんだもん。それに、知らない人がいるって気づいたら、気になるに決まってるでしょ?」


ユウトは突然注目され、少し戸惑いながら名乗った。


「あ、えっと……ユウキ・ユウトです。森で彼女、リュシアに助けられて――」


「へえ……お姉ちゃんに助けてもらったんだ。ふーん……ダメダメ、全然カッコよくない!」


ルティナは小さな手を腰に当て、ユウトを見上げながらふんっと笑った。その一方で、どこか興味深そうな目をしているのを、ユウトは見逃さなかった。


「まあ、否定はできないかな……」


「でしょ?でもね、それじゃあお姉ちゃんを守るなんて無理だから、これからしっかりしなさいよね!」


ルティナは少し頬を膨らませ、ツンとした態度で言い放つ。その言葉に、ユウトは苦笑した。


「……努力してみるよ」


「ふふん、それならいいけども!」


そう言いながら、ルティナは小さく鼻を鳴らしながら庭の花壇の方へと足取り軽く歩いていった。


「ごめんなさい、ユウトさん。妹は少し言葉がきつくて……」


リュシアは困ったように微笑む。


「いや、全然可愛いと思うよ。それに、ああやってはっきり言ってくれるのは、素直に嬉しいかも」


ユウトが言うと、リュシアは安心したように頷いた。


「ありがとうございます。あの子なりに、いつも私を気遣ってくれているんです」


「そっか……優しい妹さんだな」


「家族のためにも、早く立派な調停役になりたいですね」


リュシアの言葉に、ユウトは小さく頷いた。この異世界での生活がどのように展開していくのか、彼にはまだ分からない。だが、目の前のこの少女が優しさと責任を背負っていることは確かだった。



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