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序章-3:異世界に飛び出して

「ここでじっとしていると危険です。私の馬が近くにいますから、すぐに移動しましょう」


リュシアの言葉に促され、ユウトは彼女の後について森を進んだ。森の中は相変わらず不気味な静けさが支配しており、奇妙な植物がうごめいているような錯覚を覚える。そのたびにリュシアの背中を見ることで、ユウトは何とか安心感を保っていた。


やがて木々の間に白い馬が見えた。その馬は優雅な体つきで、陽光を浴びて純白の毛並みがまばゆく輝いている。しなやかな動きと澄んだ瞳にはどこか品を感じさせた。


「……この馬、君の?」


「ええ、長い間一緒に過ごしている子です」


リュシアが馬に近づくと、馬は彼女を見つめ、静かに嘶いた。その様子にユウトは感心したように頷いた。


「優しい目をしてるな。すごく賢そうだ」


「そうですね。とても聡明で、私の言うことをよく聞いてくれるんです」


リュシアは馬を撫でながら微笑み、鞍に手をかけて軽々と乗った。その動きは自然で洗練されており、ユウトは少し圧倒されながらも彼女を見上げた。


「さあ、あなたも乗ってください」


「えっ、俺も?」


ユウトは目を丸くして馬を見上げた。高さに少し尻込みしつつ、手を伸ばしかけて止まる。


「馬なんて初めてだし……俺、大丈夫かな?」


「大丈夫ですよ。私が手伝います」


リュシアは優しく微笑むと、手を差し出した。その手を見たユウトは、一瞬ためらいながらも握り返した。


「……頼む」


リュシアは彼の手をしっかり握り、そっと引き上げる。ユウトはぎこちなく馬にまたがり、何とか座る位置を安定させた。


「どうですか?怖くないですか?」


「いや……ちょっと高いけど、何とか大丈夫……たぶん」


リュシアはくすっと笑いながら、馬のたてがみを軽く撫でた。


「それならよかったです。しっかり掴まっていてくださいね」


馬がゆっくりと森を抜けると、視界が一気に開けた。小高い崖の上にいるユウト達の目の前には陽光を浴びて一面の草原が美しく輝いている。風が吹き抜け、草が波のように揺れ、その先には遠くに街並みが見えた。


「すごい……こんな景色、現実にあるのか?」


「ここは私のお気に入りの場所です。いつ来ても心が穏やかになります」


リュシアが穏やかに微笑む。その表情に、ユウトは思わず見とれてしまった。


「でも、ゆっくり眺めている時間はありませんね。街まではまだ距離がありますから」


リュシアは手綱を軽く引くと、馬は草原まで下り始めた。草原へ着くと更にリュシアは大きく手綱を引く。その瞬間、馬は一気に駆け始めた。風が顔に当たり、草の香りが漂ってくる。心地よい感覚に包まれながら、ユウトは初めて異世界を旅していることを実感していた。


ーーー


街に近づくにつれ、石造りの城壁が見えてきた。門の前には衛兵が立ち、馬の足音を聞いてこちらを注視している。リュシアが軽く手を挙げると、衛兵たちはすぐに反応した。


「リュシア様、お帰りなさいませ」


「ただいま。少し遅くなりましたが、問題はありません」


衛兵たちはリュシアに敬礼し、門を開けた。


街の中に入ると、石畳の道と整然とした建物が並んでいた。明るい陽射しが差し込み、窓には色とりどりの花が飾られている。人々が行き交う中でも、どこか落ち着いた雰囲気が漂っていた。


通りを進む馬の足音が響き渡る中、リュシアはやがて大きな屋敷の前で手綱を引いた。目の前には、白い石造りの豪華な邸宅がそびえている。高い塔がいくつもあり、門には細かな装飾が施されていた。


「ここが私の家です」


ユウトは目の前の建物を見上げ、しばらく言葉を失った。しばらく黙ったまま立ち尽くしていたが、やがて彼は声を絞り出した。


「これが……家?大きなお城じゃないか。君は一体何者なんだい?」


リュシアは少し驚いたように目を見開き、それから控えめに微笑んだ。


「実は私......貴族の生まれなんです。驚かせてしまいましたか?」


「そりゃあ驚くだろ……でも、何か納得もしたよ。君の落ち着きっぷりとか、普通じゃなかったし」


リュシアの微笑みは少しだけ柔らかくなった。


「どうぞ、遠慮せず中へ」



邸宅の中は外観以上に豪華だった。大理石の床に、天井から吊るされた大きなシャンデリア。壁には絵画や装飾が飾られ、暖かな光が部屋全体を包んでいる。


リュシアが召使いたちに声をかけると、彼らはすぐに駆け寄り、彼女を迎え入れた。


「リュシア様、お帰りなさいませ」


「ただいま。この方を森で助けました。しばらくお世話をお願いしたいのですが」


「かしこまりました。すぐに準備いたします」


召使いたちの流れるような動きに、ユウトは圧倒されていた。こんな環境で生きているリュシアが、ますます遠い存在に思える。


「君、本当にすごい人だったんだな……俺、知らずに失礼なこととか言ってないか?」


「そんなことありませんよ。あなたが無事であれば問題ありません。それより先程の傷は大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫。少し痛むけど問題なさそうだ」


「それは、よかったです」


リュシアの紅い瞳がユウトを見つめる。その優しい眼差しに、ユウトはふと胸が締めつけられるような感覚を覚えた。


「……ありがとう。本当に助かったよ」


「どういたしまして。さあ、疲れたでしょう。とりあえず、きちんと先程の傷の手当をして、ゆっくり休んでください」



リュシアの案内でユウトは一室に通された。広いベッドや暖炉が備え付けられたその部屋は、これまでの生活では考えられないほどの快適さを備えていた。


「すごい……ここを借りていいのか?」


「もちろんです。客人ですから、遠慮しないでください。後ほどお医者様を呼んできますので。ゆっくり休んでてください」


リュシアは静かに微笑むと、部屋を後にした。その後ろ姿を見送りながら、ユウトはふと窓の外を見た。広がる景色の中で、この異世界での生活がどのように展開していくのかを思いながら、彼は一息つくこととした。

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