第十二話:就寝と寝ぼけ
風呂上がり、ユウトはベッドに腰掛けながら、深いため息をついた。
(気にしないでって言われても、気になるだろ、普通……)
リュシアが軽やかな足取りで部屋を出て行った後も、彼の頭の中はさっきのやり取りでいっぱいだった。
「……異世界の文化って、こういうもんなのか……?」
そうぼやきながら、ベッドに横になり、天井を見上げる。少し疲れが出たのか、まぶたが重くなり、意識が薄れていきそうだった――そのとき。
カチャッ。
ドアの音がして、リュシアが戻ってきた。バスケットを片手に持ち、丁寧に洗濯物を畳んでいる。
「お待たせしました。乾燥まで終わらせておきましたよ」
「あ、ああ……ありがとう」
リュシアは淡々と動作を続け、まるで何事もなかったかのように自分のベッドへ向かった。その無頓着な様子が、ユウトを逆に気まずくさせる。
(いや、もういい。早く寝よう……)
ユウトは布団を頭まで引っ張り、無理やり眠りにつこうとした。
どれくらい経っただろうか。ユウトは寝返りを打ち、ふと違和感を覚えた。隣から微かに聞こえる寝息。そして――布団の中に、確かな温もり。
(えっ……!?)
目を見開いたユウトは、布団の中で体を硬直させた。ゆっくりと横を向くと、そこには寝ぼけた様子のリュシアが、すっぽり布団に包まれている。
「え、ええええっ!?」
声を上げかけたが、慌てて口を押さえる。リュシアは微動だにせず、静かに眠っている。
(いやいやいや、なんでここにいるんだ!?)
ユウトは必死に思考を巡らせた。どうやらリュシアは寝ぼけて自分のベッドと勘違いし、こちらに潜り込んできたらしい。
(ど、どうする……起こすべきか?)
彼女を起こすべきか、それともそのままにしておくべきか。混乱するユウトをよそに、リュシアは安心しきった表情で寝息を立てている。
(いや、ここで起こすのはまずいだろ……でも、このままじゃ俺の心臓が持たない!)
ユウトは意を決して布団からそっと出ようとした。だが、その瞬間――。
「……に…ま…」
リュシアが寝言のような声で「にま」とつぶやいた。ユウトの動きが止まる。
(えっ、なに?にま?にまってなんだ?ていうか寝てるよな……これ、寝言だよな?)
リュシアは軽く寝返りを打ち、彼の方に顔を向けた。その顔はどこまでも穏やかで、安らかな笑みを浮かべている。
(こんな顔されたら、何もできねえ……!)
ユウトは顔を真っ赤にしながら、布団の端で縮こまるしかなかった。
朝になり、窓から差し込む陽光がユウトの顔を照らす。目を覚ました彼は、横にいるリュシアの存在を思い出し、慌てて体を起こした。
だが、リュシアの姿はベッドにない。
「え……どこに……?」
目をこすりながら周囲を見回すと、リュシアが窓際で髪を結っている姿が目に入った。昨日と同じ調停管理官の制服に身を包み、すっかり整った様子だ。
「あ、おはようございます、ユウトさん。よく眠れましたか?」
「あ、ああ……まあ……」
ユウトは曖昧な返事をしながら、心の中で安堵した。
(もしかして、寝ぼけて一緒の布団に入ってたこと、覚えてないのか……?)
リュシアはまったく気にする様子もなく、いつも通りの穏やかな表情だ。それが逆にユウトを動揺させた。
「さあ、今日も早く出発しないといけませんね。準備をお願いします」
「あ、ああ……分かった」
リュシアに背中を向けて荷物をまとめながら、ユウトは昨夜のことを思い出して心の中でつぶやく。
(……リュシアって、意外と抜けてるよな。いや、俺が勝手に焦ってるだけか?)
異世界での生活はまだ始まったばかりだが、この先も気の抜けない日々が続きそうだ、とユウトは苦笑いを浮かべた。




