序章-1:優しさの代償
書き溜めていたのを放出してます。
序章:優しさの代償
ある日の午後、空には薄い灰色の雲が広がり、街は少し冷たい空気に包まれていた。
結城優都は、バイトを終え、いつもの帰り道を歩いていた。特に特徴のないスウェットと、肩から提げたリュック。歩き慣れたアスファルトの感触に、今日一日の疲れが少しずつ押し寄せてくる。
繁華街の喧騒から少し離れた交差点に差しかかると、信号が赤に変わった。優都は歩みを止め、ぼんやりと目の前の人々を眺めた。忙しそうにスマホを操作する会社員、友達同士で笑い合う学生、子供の手を引く母親。そこにはそれぞれの生活があったが、優都にとってはどこか遠いもののように感じられた。
「……俺の人生、これでいいのかな」
そんな思いがふと胸をよぎる。5月、18歳、独身、ついこの間、高校を卒業後フリーターとして働いている。特に不満があるわけではないが、特別な満足感があるわけでもない。友達の中には彼女がいる者もいれば、仕事で成果を上げて昇進するために奔走する奴もいる。
だが優都は、出世や成功といったものに執着がなかった。ただ静かに、平穏に生きていければそれでいい。自分が損をしても、それで誰かが喜んでくれるなら、それで十分だと思っていた。
信号が青に変わり、人の波が一斉に動き出した。優都も何気なく足を踏み出したが、その瞬間、視界の端に違和感を覚えた。
一人の女性が、慌てて鞄をかき回しながら道の真ん中にしゃがみ込んでいる。彼女の手元には、化粧品や財布、小物が散らばっていた。通り過ぎる人々はちらりと視線を向けるが、誰も足を止めない。
「……大丈夫ですか?」
自然と声が出ていた。優都は急いで女性の元に向かうと、散らばった荷物を拾い始めた。女性は驚いたように顔を上げ、申し訳なさそうに言う。
「あ、すみません!ありがとうございます……」
「いえ、気にしないでください。急いで拾っちゃいましょう」
優しい声でそう言いながら、優都は次々と荷物を手渡した。しかし、彼女の鞄の口が完全に閉じきらないまま、次の瞬間、彼の耳にけたたましいクラクションの音が響いた。
振り返ると、交差点の先から猛スピードで突っ込んでくるトラックが目に入る。どう見ても止まる気配はない。暴走しているのは明らかだった。
優都はすぐに状況を理解した。女性の真横にしゃがみ込んだままだった自分たちは、トラックの進行方向にいた。間に合うかどうかはわからなかったが、咄嗟に女性の腕を掴んで声を張り上げた。
「危ない、早く!」
優都は立ち上がり、女性の身体を後ろに押しやった。同時に、彼の身体は交差点の中央へ大きく投げ出された。
その一瞬の行動が、彼女を危機から救ったことを確信する間もなく、目の前に迫った巨大なトラックのヘッドライトが眩しく光る。
「……あぁ、これ、ダメか」
優都の頭に浮かんだのは、意外にも後悔ではなかった。代わりに、女性が無事だったことにほっとする気持ちと、自分がこれで終わるのなら、それも悪くないかもしれないという奇妙な安堵感だった。
突然、耳鳴りがした。轟音とともに衝撃が全身を襲い、視界が白く染まる。身体の痛みも、時間の感覚も消えていく。意識が薄れていく中、彼は最後に微かに笑った。
「やっぱり……俺、普通の人生だったな」
次に目を覚ましたとき、優都を待っていたのは、もう一つの世界だった。
初めてですがよろしくお願いします。
この世界の情報
なし




