第八話:王都とお守り
「なんだったんだ?人間か、それとも魔族なのか……」
屋根の上で剣を構えたまま、ユウトは息を整えながら呟いた。
「わからない。ただ何か良くないことが起きそうなのは間違いないわ」
リュシアは目を細めながら、男が消えた空間をじっと見つめている。
「それより、村人たちは……?」
ユウトが下を覗き込むと、先ほどの狂気に満ちた村人たちは地面に倒れ込んでいた。
「みんな……眠ってるみたい。意識を失ってるだけのようね」
リュシアが慌てて屋根から飛び降り、村人たちの様子を確認する。倒れている者たちの顔は平静を取り戻しており、あの狂気が嘘のように感じられる。
「良かった。怪我はないようだ」
レイドはユウトを連れ、地面に降り、村人たちをざっと見渡しながら低く呟いた。
その時、遠くから部下たちの慌ただしい足音が聞こえてくる。
「分隊長、王都より急報です!不穏な人物が現れたとの情報で、すぐに戻るよう命令が下っています!」
敬礼しながら伝える部下の声に、レイドは眉をひそめ、考え込むように顎に手を当てた。
「王都で……?」
彼の顔に浮かぶ険しい表情が、事態の深刻さを物語っている。
「わかった。すぐに戻る準備を整える」
短く答えたあと、レイドはユウトとリュシアの方に振り返った。
「お前も異邦人で、不穏な人物がお前に興味を示している以上、ここでリュシアから離れろと言いたいところだが……」
「俺はついていく」
ユウトはきっぱりとそう答えた。その瞳に迷いはなく、リュシアも驚いたように彼を見た。
「……まあそうだよな」
レイドは苦笑を浮かべながら、腰のポーチを探り、何かを取り出した。
「わかった。ならせめてこれを持っておけ」
彼が差し出したのは、小さな金属製のプレートのついたネックレスだった。丸い形状で、中心には奇妙な模様が刻まれている。
「これは?」
ユウトはそれを受け取り、じっと眺めた。
「大したものじゃない。ただのお守りのようなものだ」
レイドはそう言って軽く肩をすくめた。
「お守りって……そんなもの――」
言いかけたユウトだったが、レイドの真剣な表情を見て言葉を飲み込む。
「……ありがとう。大事にする」
ユウトはネックレスを首にかけ、軽く礼をした。
レイドは一度息をつき、リュシアに視線を向ける。その瞳はどこか兄のような暖かさと、不安を隠しきれない鋭さが混じっていた。
「リュシアが簡単にやられるとは思わないが、とにかく気をつけてくれ。何かあれば、とにかく逃げることを最優先に」
「ええ、レイドも気をつけて」
リュシアは穏やかに微笑み、しっかりと頷いた。
「じゃあな。お前たちの旅路が無事であること、無事に調停できることを祈ってる」
レイドは部下たちを引き連れ、村を後にする。その背中は頼もしくも、どこか寂しげだった。
「ユウトさん。私たちも、テルマリックへ向かいましょう」
リュシアの言葉に、ユウトは小さく頷きながら歩き出す。
首にかけたプレートが、ほんのりと暖かさを持っているような気がした。




