第六話:対戦と異質さ
広場の中央、ユウトとレイドが向かい合う。村人たちが集まり、興味津々でその様子を見守っていた。子供たちは足元を走り回り、大人たちは腕を組んで笑いながら成り行きを楽しんでいる。
ユウトは手にした剣をじっと見つめ、肩の力を抜いた。レイドから渡された剣は少し重く、慣れない手にずしりとした感触が伝わってくる。
「おいおい、そんな顔すんなよ」
レイドが軽く木剣を振りながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべる。彼が持つのは、近くで遊んでいた子供から借りたおもちゃの木剣だった。
「攻撃してくるのはお前だけだ。俺はただかわすだけ――簡単だろ?」
「これって真剣だよな?怪我しても知らないぞ……」
ユウトは苦々しくつぶやき、剣を握り直した。
「怪我?お前の剣が当たる訳ないだろ。ほらさっさとかかってこい」
レイドの挑発に、ユウトは小さく息を吐いた。
「……分かったよ。どうなっても知らないからな」
その言葉を聞いたリュシアが、一歩前に出る。困ったような顔をしながら、レイドに話しかける。
「レイド、本当にやるの? 」
「ああ。俺に触れられないようじゃ、異世界から来た奴だろうがなんだろうが、リュシアに同行させるわけにはいかないな」
レイドは軽く肩をすくめた。
「心配すんな。ケガさせる気なんかねえよ」
村人たちの声援が響く中、ユウトが剣を構えた。ぎこちないながらも真剣な表情でレイドを見据える。
「いくぞ……!」
ユウトは地面を蹴り、勢いよくレイドに突進する。
「お、やる気はあるじゃねえか」
レイドは軽く身をひねり、ユウトの剣をあっさりとかわした。その動きはまるで風のように滑らかで、一切の無駄がない。
「くそっ!」
ユウトは連続して剣を振るうが、そのどれもが空を切る。レイドは木剣を軽く肩に担ぎながら、時折くすっと笑うだけだった。
「まだまだだな。攻撃する前にもっと相手をよく見ろよ」
余裕たっぷりの態度に、ユウトはさらに焦りを募らせる。
「がんばれー!」
「いけ! 兄ちゃん!」
村人たちの声援が広場を包む。子供たちは跳ね回り、大人たちも声を張り上げて笑顔を浮かべている。
「……何でこんなに盛り上がってるんだよ」
ユウトは息を整えながら、剣を握る手に力を込めた。
「さあな。お前が人気者ってことじゃねえの?」
レイドは軽く笑いながら再び身構える。
「さあ、次はどうする?」
(このままじゃダメだ。何か手を考えないと……)
何度も何度もレイドに斬りかかるが、一向に当たる気配はなく、ユウトはその場に座り込んでしまう。
「ハァハァ……」
「おいおい。これで終わりか?体力もないんだな」
レイドが挑発を重ね近づいてくる。
ユウトは剣を一度下げ、足元の地面に目をやる。その時、砂地に気づく。
(そうだ、これなら……)
ユウトは地面の砂を掴み、勢いよくレイドの顔に向かって投げつけた。
「うおっ、砂かよ!」
レイドが一瞬目を細めた隙を突き、ユウトは剣を振り上げる。
「これで決める!」
鋭い一撃がレイドの肩に向かう。しかし――。
「甘いな」
レイドは体をひねり、その攻撃をひらりとかわした。
「くそっ……全然当たらない!」
ユウトは剣を突き立てるように地面に叩きつけ、悔しそうに顔をしかめた」
広場の中央、剣を構えるユウトの息は荒く、汗が額を伝って地面に落ちる。
「はあ.....はあ.......」
レイドは肩をすくめながら、近づき、ユウトを見下ろした。
「最後のは良かったが、あれでかすりもしないようじゃダメだな」
「くそ.....まだ......まだだ!」
ユウトは立ち上がり、剣を握り直す。その目には悔しさと闘志が混じっていた。
レイドは軽くため息をつき、木剣を床に叩きつけるように立てた。
「もう諦めろ。約束通り軍に来るんだな。鍛えてやるよ、ビシバシとな」
「くそっ......俺は、諦めないぞ!」
ユウトは再び地面を蹴り、剣を振り上げた。しかし、その動きは先ほどよりも明らかに鈍い。
疲労が全身を支配していた。
「そうだ!にいちゃん、やってやれ!」
「もっとだ!」
(そうだ、村人のみんなも応援してくれてる…)
「早くやれ!」
「さっさと斬っちまえ!」
(ん……?)
「血を見せろ!」
「死ぬまでやれ!」
「殺し合え!」
(なにかおかしい…)
突然、村人たちの声援が妙な熱気を帯び始めた。
最初は応援のつもりだった声が、次第に異常な狂気へと変わっていく。
レイドが周囲を見渡し、険しい表情を浮かべた。
村人たちの目が血走り、顔には不気味な笑みが浮かんでいる。
「な、何だこれ......」異様な光景にユウトは剣を下げる。
「リュシア、みんな様子が......」
ユウトがリュシアを振り返ると、彼女もまた困惑した表情で村人たちを見ていた。
「確かに.....普通じゃないわ。まるで何かに取り憑かれたみたい」
「お前らがやらないなら、俺たちがやってやる!」
「行くぞオラ!」
突然、村人の一人が叫び声をあげ、木の棒を持ってユウトとレイドに向かって突進してきた。
それを皮切りに、他の村人たちも次々と手にした道具を振り上げ、二人に襲いかかる。
「ちょっと、待てよ!!」
ユウトが後退りしながら叫ぶが、村人たちはまるで聞く耳を持たない。
「全員正気じゃないな......!」レイドが呟きながら、一歩後ろに下がった。
「くそっ、仕方ねえ!」
レイドはユウトの背後に素早く回り込み、その体を抱え上げた。そしてそのまま大きく跳躍し、近くの民家の屋根へと飛び乗る。
「な、なんだ!?」
突然宙に浮いたユウトは、驚きで声を上げた。
「離すぞ」レイドが短く言い放ち、屋根の上でユウトを降ろす。
一方、リュシアも村人たちの包囲を抜け出し、屋根の上に飛び乗る。彼女の顔にも緊張が滲んでいる。
「これ......いったい何が起きてるの?」リュシアが下を見下ろしながら呟く。村人たちは屋根に向かって棒や石を投げつけ、狂ったように叫び声をあげていた。
「どう見ても全員おかしい。何かの催眠系の魔法かなにかか....」
レイドが険しい表情を浮かべながら、村人たちの動きを観察する。
「俺たち、どうすれば......」ユウトは不安げな声で問う。
「一度様子を見るし……」
そうレイドが声をかけた瞬間、背後に
「こんにちは」
声が聞こえた。




