第三話:食事休憩と魔獣
馬車は緩やかな道を進みながら、木漏れ日を浴びて森の中を進んでいた。外の景色は穏やかで、鳥のさえずりや葉擦れの音が心地よい。ユウトは窓の外を眺めながら、小さくため息をついた。
「……静かだな」
「はい。ですが、この静けさも旅の醍醐味です」
向かいに座るリュシアが、静かな微笑みを浮かべて答える。その落ち着いた雰囲気に、ユウトは少し肩の力を抜きつつも、不思議な気分を抱いていた。
「でも、これが異世界ってやつなのか……俺、正直まだピンときてないんだよな」
「そうですか?この世界に来てまだ少ししか経ってませんし、それも仕方ありませんね」
「いや、こんな森の中を馬車で移動するなんて、俺の世界じゃありえないし。そもそも、馬車が揺れるのが普通なのかもよく分かんない」
ユウトが言うと、リュシアは興味深そうに首を傾げた。
「あなたの世界では、移動はどうするんですか?」
「俺の世界じゃ、電車とか車だな。馬車みたいに揺れたりしないし、エアコンもついてるし……なんなら移動中はスマホで映画も見れるし」
「……すみません、半分くらい何を言っているのか分かりません」
リュシアが真剣な顔で答えると、ユウトは思わず吹き出した。
「だよな。俺もこの世界のこと、全然分からないし」
二人の間に自然と笑いが生まれる。
しばらく進むと、リュシアは手綱を引いて馬車を止めた。広がる森の中で、木陰が広がる小さな広場が現れた。
「ここで少し休憩しましょう」
リュシアが馬車から降りると、ユウトもそれに続いた。彼女が手にしていた包みを広げると、中には焼きたてのパンやチーズ、ドライフルーツなどの簡単な食事が詰まっていた。
「ライラが用意してくれた食事です。簡単ですが、旅にはちょうど良いですね」
リュシアが微笑みながらパンを差し出す。ユウトはそれを受け取ると、一口かじった。
「おっ、これ、うまいな。外でこんな味が食えるなんて、とても簡単な食事とは言えないな」
「ライラは食事にこだわりがありますからね。旅の準備でも、料理は絶対に手を抜きません」
リュシアがそう言うと、ユウトは笑いながら肩をすくめた。
「俺なんて、インスタントラーメンとか、冷凍食品ばっかりだったけどな。こんなちゃんとしたご飯、本当ありがたいよ」
「いんすたんとらーめん……?」
「ああ、簡単に作れる麺だよ。お湯をかけるだけで完成するんだ。安いし手軽で美味いんだよ」
「お湯をかけるだけで完成する……それって料理なんですか?」
リュシアの真剣な表情に、ユウトは思わず笑いをこらえた。
「料理……と言えるかどうかは微妙だけど、手間がかからないのがいいんだよ。忙しい時とか、疲れてる時には最高だ」
ユウトが苦笑すると、リュシアは小さく頷いた。
「確かに、手間がかからないのは便利ですね。……あなたの世界の食事も食べてみたいです。」
リュシアの真剣な顔に、ユウトは微笑んだ。
休憩を終えた後、再び馬車に乗り込み、道を進み始めた。周囲は相変わらず穏やかで、リュシアも静かに目を閉じていた。
「……いいな、この雰囲気。異世界らしい」
ユウトが呟いたその時、リュシアがふと目を開けた。彼女の表情が一瞬で引き締まる。
「どうした?何かあったのか?」
「……周囲が静かすぎます。これは、魔獣が近くにいるかもしれません」
その言葉に、ユウトは緊張を覚え、外を見渡す。
すると、森の奥からかすかに揺れる影が見えた。
次第にその影は大きくなり、黒い熊のような魔獣が姿を現した。鋭い爪と赤い目が異様な威圧感を放っている。
「やっぱり……魔獣ですね」
リュシアが冷静に言葉を発し、馬車を止めるた。その左手の指輪が、淡い光を放ち始める。
「…リュシア、その指輪?」
「これは霊器です」
「れいき……?」
リュシアが静かに馬車を降りると、魔獣は低く唸りながら一歩ずつこちらに近づいてくる。
「ユウトさん、ここで待っていてください。すぐに追い払いますから」
彼女の落ち着いた声が響く中、ユウトはその背中を見つめながらごくりと唾を飲み込んだ。




