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プロローグ

「瑠衣お姉ちゃん、ぼくと結婚して!」


 かつて七歳だった俺――三代林太みしろりんたの告白を、近所に住んでいた高校三年生のお姉ちゃん――青山瑠衣あおやまるいは、優しい笑顔と共に流し続けていた。


「りん君が大きくなったらね」


 と、毎度毎度頭を撫でてくれながら。


 当時の俺はそれを確かなものだと信じていたし、取り付けられた約束だと思っていた。


 何なら、ゲームでいう『ポイント』を貯めていってるような感覚でいたわけだ。


 ずっと言い続けていれば、早いうちに瑠衣姉と結婚できるかも、と。結婚できない未来を一ミリも想像せず。


 だから、「大きくなったらね」という言葉の本当の意味に気付いた小学校高学年の時は、結構落ち込んだ。


 瑠衣姉は、幼い俺の告白を本気にしておらず、男としても見てくれていなかった。


 その事実に胸が苦しくなったし、何よりも恥ずかしくて、情けなくて。


 瑠衣姉が大学生になり、帰省してきた時だって、俺はなるべく普通を装って接していたけど、それはどこかぎこちなかったかもしれない。


 でも、まあいい。


 特に何も言われることは無かったし、された心配と言っても、「何か考え事とか悩み事とかあるの? 話聞くよ?」くらいしか言われなかった。


 いっそのこと、「瑠衣姉が俺のことを男として見てくれないのが辛い」なんて打ち明けてしまおうかとも思ったけど、それはさすがに無理だ。反応を知るのが怖い。苦笑いで「ごめんね」なんて言われた日には、本気で死ねる自信がある。究極の失恋と言っていいだろう。耐えられない。精神が。


 そういうわけで、俺は自分の想いに蓋をした。


 報われない恋をいつまでも抱え続けるのは、いずれそれが毒となって体を蝕んでいく。良くない。


 それが故の決断だ。


 瑠衣姉のことは諦めた。


 瑠衣姉を好きだったのは、過去。


 今じゃない。


 そして、その諦めるしかない想いによる傷も、時間が確かに癒してくれた。


 俺はもう大丈夫。


 何があっても大丈夫。


 そう思っていた矢先のことだ。


 神様っていうのは、どうも人へイタズラを仕掛けてくるものらしい。


 高校二年に進級した春。


 俺たちのクラス担任として教壇に立つのは――




「青山瑠衣と言います。この一年間、皆のクラス担任を任されました。よろしくお願いします」




 信じがたいことに、あの瑠衣姉だった。


 初恋の、近所に住んでいたお姉ちゃんの。


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