転生します
心地よい微睡みから覚めると、そこには知らない天井が!!とはならなかった。
というか、屋外だったらしく天井がない。
一度やってみたかったのにな……。
私が寝ていたのは花畑に古代ギリシャの白い柱が並んでいるような場所。
これぞ天国!みたいな所だ。
まあ死んでるんだし、天国だとしても不思議じゃないよね。
柱が並んでる奥の方にドアがあるのが見えたから、とりあえずそっちに行くことにする。
サクサクと草を踏む感覚に死んでも五感はそのままなんだな~なんて考えていると、バン!と勢いよくドアが開いて人が現れた。
力強さを感じさせる赤い瞳。
鈍銀色のオールバックを少し崩した髪。
ガッシリしてるけど程よく筋肉がついてる上半身。
何でこのワイルドイケメンは上半身裸なの??
「お、起きていたか」
「起きてます。あの、初対面の方にこんな事を言うのもなんですけど服を着てくれませんか?」
「気にするな」
「無理です」
本気で気にするなの一言でいけると思ったの?
分かりました!気にしません!とはならないよ?
イケメンの裸とか多分誰でも気にすると思う。
「話を進めるぞ」
「無理です。服を着て下さい」
「取りに行くのも面倒だし、さっさと終わらせた方が早いだろ?」
「精神的にキツイです」
「慣れろ」
私が慣れるくらいそのままでいると?
ここ外だけどわかってるのかな?
いくら暖かいからって風邪引くし、誰かに見られたら変態だと思われるんじゃ……。
あ、でも野性的な魅力溢れるイケメンだからあんまり違和感がない??
……いやいや、騙されるな私。
例えイケメンだとしても許される事と許されない事が世の中にはある。
裸、ダメ、絶対。
「おい、戻ってこい。話を進めないといつまでも終わらないんだからな?」
「ごめんなさい。慣れないからつい色々考えてしまって。私は勢野出雲、貴方は誰ですか?」
「俺はレイガルド、最高神の一柱だ。」
「最高神って一番偉い神様の事であってますか?」
「そうだな、間違ってはいない。ただし俺の他にも二人、最高神がいるから一番ではないがな。さてそろそろ本題に戻ろう。お前は自分が死んだって事を理解しているか?」
「はい。まあ思っていたより早く死んじゃいましたけど」
「そうだろうな。本来お前はアストランタで産まれるはずだったのが違う世界に産まれてしまったんだぞ?魂が拒絶反応を起こし、その結果短命だったとしてもおかしくない」
待って。
私が元々アストランタっていう所で産まれるはずだったとか、魂が拒絶反応を起こすとか理解できない話をしてる……。
私、魂に拒絶反応なんてあるの知らなかったよ?
「ごく稀にあるんだよ。何百年何千年に一度あるかないかくらいの確率で他の世界と共鳴したり、何かと引かれあったりして違う世界に産まれてしまう事が。しかも産まれてしまった魂に他の世界の神は干渉する事ができない。その世界の理を壊してしまうかもしれないし、そもそも世界が俺達の力に耐えられないこともある」
「その稀に私が当てはまったと」
「そういうことだな。お前の本来あるべき所へ戻るだけだ、アストランタという新たな世界を楽しんで来ればいい。」
楽しむ……か。
確かに前の人生は楽しむ暇なんてなくて何もかも面倒くさかった。
ただ生きる為に働く日々がいつの間にか当たり前になってた。
唯一の楽しみは読書やゲームをしていた時だけ。
まあ、睡眠時間を削ってやってたから健康状態も悪くなるよね。
そんな生き方だったから友達なんてできなかったけど、新しい世界ではできるかもしれない。
一緒に買い物行ったり、勉強をしたり、恋愛の話で盛り上がったり。
時には喧嘩をしてぶつかる事もあるかも。
なんて考えただけで面倒になってきた。
もうさ、この面倒くさがりな性格は絶対私の魂に刻まれているわ。
死んでも治らんとかそれしかないよね。
勿論楽しそうだなとか思うんだよ?
思うんだけど面倒が勝つ。
「楽しむのもいいですけど、私は面倒なのは嫌です。出来れば自由に過ごしたいし飽きるまで寝たい」
「お前本当に面倒くさがりだよな?そこまで面倒くさがりな奴は滅多にいな…………あー。なる程」
「?なんです?」
「いや、転生したらわかることだろうし今教えるのは面白くないから言わないでおく」
「そう言われたら気になるし、面倒くさい事が起こる予感がするので全力で拒否してもいいですか?」
「無理だな。まあ頑張れ」
「まじか」
何が起こるの??
転生する前からイヤな予感しかしないとか、このまま此処にいてもいいですか?
「駄目だ、転生してこい」
「え?声に出してました?」
「顔に此処にいたいって出てた。うまくいけば自由に生きれるし、寝て過ごす事も出来る」
「うまくいかなかったら?」
「転生してすぐ死亡」
「は?」
そんなことある?
産まれたと思ったら死んでるの???
それってどんな状況??
「冗談だ。ちゃんと安全な場所で産まれるようにしといてやる」
「それがなかったら本当にあり得たって事ですよね?」
「気にするな」
「……。転生といえば、小説とかで良くある1つだけ望みを叶えてくれるとかはないんですか?」
「やってもいいんだが、俺の予想通りなら力・魔力・地位どれも最高レベルで産まれると思うぞ?」
「え、そんなのいらないです。平穏でダラダラ自由な生活から遠ざかる気しかしない。もっと寝ている間は誰であろうとも邪魔はできないとか、寝ている間はかすり傷一つつけられない結界とかが欲しいです」
「寝る事ばかりだな。欲望に忠実でなによりだが面白くないから却下」
「面白くないからって理由酷いと思います。私にとっては大事な事なのに」
「転生する時、お前の魂にあわせた能力が宿る。それがどんな能力なのかは俺にもわからない」
「じゃあ知識や情報を下さい」
知識は力や能力を自由自在に操る為に必要になるだろうし、あって困るものじゃないから。
武器にも防御にもなるし最初から持っていた方が楽。
勉強しなくていいからその分寝れるし。
「知識な、それくらいなら大丈夫だ。後はないか?」
「ないです」
「前に転生した奴とか色々言ってきたとか聞いたがお前はないのか……。それなら俺からのプレゼントとして少しいじっておく」
「いらないです」
「遠慮するな」
「してないです」
どうせそういうのって私最強!みたいになって戦ったりするんでしょ?
オレツエー!みたいな。
そんなのやりたくないしダルい。
「よし、それじゃあ行ってこい」
「行きたくないです。此処で寝ていたいです」
「頑張れよ」
「無視ですか?」
「まあこれが最後じゃないからな。それと長い付き合いになりそうだし今度からは敬語じゃなくていい」
そう言ったレイガルドの顔は見守る親のような優しい笑顔で。
なんだかくすぐったいような変な感じがした。
レイガルドが私に手をかざすと暖かな光が溢れて、その光に包まれながら私の意識は途切れたのだった。