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初陣

霧の森を奥に進む。

次第に響く音が大きくなってくる。

金属のぶつかる音、爆発のような音。

この先が戦場であることは明白だ。


暫く歩くと一寸先に民家と人影が見えた。

俺は声をかけようとしたが、すぐに気づいた。


()()()()()()


人骨が動いている。

手には剣を持ち、ぎこちなくこちらに振り向くと、ゆっくりとそれは動き出した。

この瞬間、もう俺の中に存在した予感は略確信に変わる。

『ここは現実の世界ではない』


俺は咄嗟に手を骸骨に翳す。

詠唱の感覚は覚えている。

心の中でそれが符合した瞬間、俺の手のひらは暖かなオレンジ色の光に包まれる。

熱の収縮を感じ、ソレを骸骨目掛けて、発射した。

鈍い音とともに、骸骨はバラバラになり、文字通り爆散した。


後ろに気配を感じた。

振り向くと、今倒したのと同じ骸骨の魔物が二体。

一体からは既に距離を詰められていたものの、俺は落ち着いていた。

剣の軌道を読み、その魔物の動きを予測して身を翻す。

俺を裂くはずの剣は空振り、魔物は勢いづいて俺の横をすり抜ける。

奴が動いた先に手のひらをかざし、撃つ。

砕け散る音。目で追うのはもう一体。

俺に一直線上に向かってくる魔物に手を向ける。

俺に剣が届く一寸前に、炎がその魔物の腹に直撃し、火の粉をまき散らし勢いよく吹き飛んだ。


周囲にはもう動く魔物はいない。息をつく。

闘いの興奮でアドレナリンが出ているのを感じる一方、俺はどこか落ち着いていた。

よく見渡すとここら辺は木々が少ない。

畑の跡、それに踏み慣らされた道が敷かれている。その先には他の家が朧気にだが見える。

霧で分からなかったが、ここは村なのだろう。


嫌な予感がして先ほどの民家を確かめたが、壁や扉は無残に破壊されていた。

中には若い女性と見られる人間だったもの。衣服の裂けた腹部の箇所には、そこにあるはずの皮膚は無く空洞が覗いている。


全身の血が引いていくのを感じた。

この村は魔物に襲われている。そして既に被害者が出ている。

だが、闘う音が聞こえるということはまだ、生存者がいるということだ。そして。


俺は、今魔法を使える立場にある。

正直こんなことに関わるのは御免だが、今の俺には魔物を蹴散らす力があるのだ。

それは先の闘いで確信している。

目の前の惨状を横目に逃げだした方がいいかもしれない。

でも逃げてそもそもどこへ向かうつもりなのだ。もしこの先に生存者がいて、魔物と対峙しているなら……。


俺は目を強く瞑り覚悟を決め、村の奥へ走り出した。



村の中央付近は霧が晴れていた。

正確には、霧が覆うこの場所だけ不自然に視界が開けている。

あの「巨大な魔物」を中心として……。

そいつの周りには付き従うように多くの魔物がひしめいている。そして。

残された生存者と相対している。


「囲まれているな……」


銀髪の男性。彼の身長程の大きな直剣を構えている。

「オラァッ…!」


飛び掛かる魔物を、カウンターの如く切り捨てていく。

但しじりじりと囲む魔物が描く円の面積は縮まっているようだ。

彼から死角の位置にいる魔物が発光しだす。

魔法での()()()()を仕掛けるつもりだ。


「不味いな」


彼は剣士だ。

近接戦の中での魔法での不意打ちは、致命打になる可能性がある。

こんなに囲まれていれば、ソレを避けられてもバランスを崩すしジリ貧になるのは目に見えている。

俺は咄嗟にその魔物目掛けて"火"を放つ。


「グオオオオオオ!!」


倒した。だが、多くの魔物の注目を集めてしまった。

もう後には引けない。


「大丈夫か!!」


俺は叫ぶ。

その剣士はこちらに気付く。

「誰だッ……! いや、誰かはどうでもいい。コイツ等の掃除の、助太刀を願えるか?」


細い眼をさらに細めて俺を見る。余裕はなさそうだ。

俺は答える代わりに、魔力を凝縮させる。

両腕はオレンジの光に包まれる。

「やるぞ!」


彼の後方の魔物は一斉に俺目掛けて動き出した。

俺の脳裏には、先ほどの詠唱ではない、単語の羅列が浮かんでいた。

「《火の牢獄》(ラビリンス)!!」


自分の周りが、突然暖かな球に囲まれる。

俺はその空間内を自分の手に取るように感じ取ることができた。

球の中にいる魔物は7体。内4体は、眼下にあるように俺目掛けて走り出している。


俺は()()()()詠唱を唱える。

「其れは不動の王なり。城下に跋扈する仇敵に火の雨を。《炎冠の咆哮》(ヴェル・フェゴール)!!」


球内の7体の魔物が発火する。

火柱が上がった。そして炎の雨が降る。

魔物だった肉片と火の粉の混じった、焼け付く匂いが立ち込めた。



「波動・一閃……ッ!!」


あの剣士は、居合のような速度で魔物達をすり抜ける。

斬られる瞬間も認知せず、奴等は地に崩れ落ちた。

形勢を崩された魔物達は剣士の敵ではないようだ。

そうして俺たちは、俺の登場により劣勢を覆し、ほぼ全ての魔物を駆逐した。

あの()()()()を除いて。


「グオオオオ……。」


同胞を殺された執念かは知らぬが唸り声をあげる。

捻じれた角を生やし、馬のような顔の魔物だ。

身長は七メートルはある。

その筋骨隆々の体躯に負けず劣らずのドデカい斧を持っている。


「気を付けろ! コイツは並みの魔物とは違うぞ……!」

奴は斧を構えた。様子見していた今までと違い、仕掛けてくるつもりだ。


奴の雄叫びに周囲の空気が震える。

俺たちはコイツを倒さねばならない。

生きて、聞かなくてはいけないことが沢山ある。


「来るぞッ」

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