006「堕落」
モニカが目覚めて最初に目にしたのは、妙に毒々しい色をした大きな葉だった。
「……ここは?」
「あ、目が覚めました?」
モニカの隣に座っていたのは、リョウだった。
リョウも、その辺の植物を使った謎の応急処置がなされている。
「看病は、ユキムラがしてくれました。あいつは、吹き飛んだ家の代わりになるような木材を探しているみたいです」
「そう……。何があったか、私に説明してくれるかしら」
「いや、オレにもさっぱりですよ。急に主人公っぽく走り始めたと思ったら、モニカさんとでっけえ声で口論して、いつの間にか怪鳥がどこか行っちまって……ぶっ倒れたモニカさんとオレを看病し始めたって感じです」
モニカはため息をついた。
「じゃあ、私は、あいつに助けられたってことね……あの雑魚に」
モニカの言い草に、リョウは頭をかきながら言った。
「そういうこと、助けてもらっておいて言うもんじゃないと思いますよ。誇りは大切だと思いますけど、それに囚われたら足枷にしかなりませんし」
「……そうね」
「(あれ、妙に素直だな……今回のことはいい薬になったのかもな)」
「王都に戻って、修行のし直しね。私もまだまだってこと分かったし」
妙に清々しい顔をしているモニカをみて、リョウはほっと胸をなで下ろした。
「(責任感強すぎなんだよな。昔からこいつは)」
「あ……モニカさん、起きたんですね……」
ユキムラがどこからか調達した木材を抱えながら帰ってきた。
「ええ。……助けられちゃったわね」
「……」
「何か、いいなさいよ。あなたは恩人なんだから。特別大サービスよ。『ざまあみろ』でも、雑魚呼ばわりでも、今なら素直に受け入れてあげるわ」
そう言ってモニカは不器用に笑った。少年のような笑みだった。端正な顔立ちのモニカのそれは、一種独特な魅力を放った。
そんな顔を見て、ユキムラは……。
「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」
ボロボロと大粒の涙を流した。声はかすれきっている。顔は相変わらず伸び放題の黒い髪で見えなかったが、その顔が悲しみで歪み切っていることはわかった。
「な、なんであなたが泣くのよ! プライド吹き飛ばされて泣きたいのはこっちなんだけど!!」
「違うんです。違うんです……」
「何が違うっていうのよ……あ、ていうか、あのバカでかい鳥、どうやっておっぱらったの? 凄いじゃない、あなた!!」
モニカのねぎらいの言葉にも、涙を流しながら、ユキムラは首を振るだけだった。
「何なのよ……全く……」
「さあねえ……ん?」
様子を見ていたリョウの視界に何かがうつった。
「あの鳥、さっきのでかい鳥と似てませんか?」
「……そうね。あのぐらい小さいとかわいいものね」
その鳥は、ほとんどニワトリくらいの大きさで、先ほどの怪鳥のような迫力はほとんどなかった。よたよたと草をかきわけながらこちらに近づいてくる。
「ねえ、リョウ。あのくらいの大きさだと、レベルいくつくらいなの?」
「はい? ああ、見てみますか? ……ああレベル1ですね。ほぼ生まれたてです。これがあんな馬鹿でかいサイズになっちまうんですから、マナってのは恐ろしい……」
その時、モニカは違和感を覚えた。鳥の額の部分に、目立つ切り傷がある。
これは、そっくりそのまま、先ほどの戦闘でモニカが怪鳥に付けた傷だった。
「……リョウ。おかしいわ。この鳥……」
「……ええ、言いたいことはわかります。これ、完全にさっきと同じ怪鳥です。マナの量は全然違うけど、波長は一致してます」
「じゃあそれって……」
「「レベルが下がった……?」」
そんな現象、聞いたことが無い。
しかし、これで納得がいく。つまり、先ほどユキムラがやったのは……
「レベルダウン? しかも、初期値までレベルを下げられるってこと……?」
モニカはひそかに興奮した。これは……信じられないほど強力な能力だ。まさしく救世主。我々のレベルを上げずとも、相手のレベルを下げることができれば……
「これは、大収穫ね……。急いで王都に戻って報告しましょう!! リョウ!!……リョウ?」
リョウは言葉を失っていた。目には「解析」を展開したままだ。
そして、その視界の中では……。
【モニカ・ブラウン】
マナ属性:光 職業:見習い剣士 特性:なし スキル:なし 魔法:なし
レベル:1
言葉を失ったリョウを見て、モニカはみるみる青ざめていった。
「うそ……でしょ?」
モニカの顔は、絶望に覆われた。リョウの表情は何が起きているかを雄弁に語っていた。
「ねえ、うそだって言ってよ。ねえ、リョウ?」
リョウの肩をゆするモニカ。
しかし、リョウは何も言わない。
何も、言えなかった。
「……きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ほとんど半狂乱になったモニカの悲痛な叫びが響きわたる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ユキムラはその間も泣きながら、つぶやくように謝り続けていた。
とりあえず、導入部はこれで終了です。今後は二日に一度くらいのペースで更新できれば、と思います。
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