005 強者のプライド
「う……クソっ。何があった……」
激しい頭痛を感じながら、身体を起こそうとする。
まだリョウは茂みの中にいた。
「あの、今は出ていかない方がいいです」
「ユキムラ、か?」
倒れたリョウの横にはユキムラが正座していた。
「モニカは? あのでけえ鳥は?!」
ユキムラがそっと指さした。
急いでそちらを見ると……。
「はあああああ!!!!!」
激しい掛け声とともに、銀色の閃光が飛び回っている。
モニカだ。自身からマナを放出し、高速移動しながら怪鳥の周りを旋回している。
「あいつ……あんな大技、スタミナは……?」
リョウは「解析」を展開してモニカと怪鳥を視界に捉えた。
「くそ……ほとんど限界じゃねえか……なのに鳥の方は余裕がありやがる……」
「……」
状況は絶望的、今はぎりぎりモニカが耐えているが、戦力差は歴然……。
「どうすりゃいいってんだよ……」
「……モニカさん本当に限界なんですか?」
ユキムラが妙なことを聞いてくる。なぜこいつは逃げなかったんだろう。
「そうだよ……オレはもう動けねえ、せめてお前だけでも逃げてくれ、ユキムラ」
「……モニカさん、このままだと死んじゃいますか?」
ユキムラがさらに奇妙なことを聞いてくる。
リョウは自分の脳が沸騰するのを感じた。痛めた身体を無理やり動かしてユキムラの胸倉をつかむ。
「てめえ……何が言いたい?! モニカが死ぬのがうれしいってのか?! お前を罵倒した、モニカがひどい目にあって、このまま死んでいくのに、ざまあみろとでも思ってんのか?!」
「……違います。確認です。モニカさん、殺したく、ないですよね?」
「だから何言って……?!」
この時、リョウの目はユキムラの、鬱陶しい髪に隠れていた目を捉えた。
まっすぐな目だった。モニカの不幸を願っているような、卑劣さは感じなかった。
その目に、気圧されてしまった。
「……だったらなんだってんだよ」
「……助けに行きます」
「はぁ? お前にゃ無理だ!! 一瞬で粉々にされて終わり……」
「いいから、リョウさんはここにいてください!! 絶対に僕に近づかないでください!!」
そういうと、ユキムラは戦場へと走り出した。
「どういうことだよ……」
リョウのつぶやきは、もうユキムラには聞こえなかった。
「……はぁ……はぁ……(さすがに……しんどいわね……)」
モニカの体内のマナは限界に近かった。ガス欠寸前、そのくせ、目の前の鳥はぴんぴんしている。怪鳥の額の部分に大きな傷跡が残ったが、あまり効いていないみたいだ。
「諦めるわけには、いかないわよね……」
モニカの剣はもう何か所も刃こぼれしている。大技の連続で剣自体も疲弊していた。
「次の一撃が、限界ね……」
ラストチャンスにかけるために、怪鳥から距離をとる。もう一度切れかけのマナを剣に集める。しかし、最初のまばゆい閃光とは程遠い、ぼんやりした光が剣に灯っただけだった。
「それでも……私の全力……死なばもろとも!!」
ふり絞った一撃を、怪鳥に……!!
「モニカさん!! 下がって!!」
「GAA※※A※XXXX※※※※XXXX※※※AAA※!!!」
ユキムラの声と、怪鳥の反撃はほぼ同時で、我に返ったモニカはぎりぎり怪鳥羽を躱すことができた。
倒れるように緊急回避したモニカのすぐ横に、ユキムラが走り寄ってきた。
そして、モニカをかばうように怪鳥との間に立ちふさがった。
「あなた……なんでこんなところに!! すぐ逃げなさい!!」
「逃げるのはモニカさんです。もう限界でしょ?」
「うるさい!! あんたみたいな雑魚に何ができるっていうの?!」
「今はあなたも雑魚です」
ユキムラははっきりそう言い切った。
「……私が、雑魚ですって?」
「そうです。もうぎりぎりじゃないですか。早く逃げてください」
「ふざけるんじゃないわよ!! 私は強いの! ずっとずっと強くなきゃいけないの!! 私が守ってあげなきゃいけないの!!!」
レベル1の小汚い男に守られる? 私が? ありえない、ありえない!!
私は、誇り高き聖剣士。そうやって育てられた。
弱いものは守れ、それが強いものの宿命。
みんなそうやって、私を頼って、使って、全部任せきりで……。
なのに……この男は……!!
「この、わからずや!!このままじゃ全部なくなっちゃいますよ!!」
「ばか!! あんたに何ができるって言うの!!」
「GAA※※A※XXXX※※※※XXXX※※※AAA※!!!」
怪鳥が叫ぶ。とどめの一撃を狙っていると、モニカの直感が語る。
もう、ダメだ。そんなあきらめがモニカの頭をよぎる……。
「忠告はしましたからね!!」
ユキムラがそう叫んだ。
そして……
「……堕落<フォーリンダウン>!!!」
強烈な踏み込みを地面にたたきつけた。
すると、禍々しい波紋がユキムラの足から広がる。
その波紋の内側に入った瞬間、モニカの視界は暗転した……。
ユキムラの能力発動です!! 大分ライトノベルっぽさ出てきたような気がする!!
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