002 最弱の男
まだ物語は始まったばかりですが、読み進めていただければ幸いです。
吹けば飛びそうな、というか、既に何度か飛んだあとが見られるボロボロの小屋の中から、のっそり出てきたのは、建物と同じくらい汚らしい男だった。
伸び放題の髪、髪とつながった髭。風呂などにはしばらく入っていないのだろうし、爪なんて、都の娘たちが見れば卒倒しそうな不潔さだ。服も、着古した、とかそんなレベルではない、ほとんど布切れ一枚。海藻をひっかけただけと言った方が正確だろう。
そんな姿を、自分の背丈ほどもある草のすきまから見たリョウは、呆れたとばかりにため息をついた。
「あれが救世主ユキムラ、ねえ……確かに仙人みたいな身なりしてますわ。もしかしたら神通力とか使えるかもしれませんね~」
「ふざけたことを言うのをやめて。せっかくここまで来たんだ。話しだけでも聞いておきましょう」
「へいへい……(真面目なこって……)」
小声で打ち合わせを終えた二人は、息を合わせて草むらから飛び出した。
「ユキムラ様……。お覚悟!!」
モニカは抜いていた剣を、まっすぐ汚い男に向けて飛び込んだ!!
天賦の剣才に、自信の魔力を掛け合わせ、鍛錬に鍛錬を重ねたモニカの突きだ。
その速さは、並みの戦士なら目の前に来るまで気づくことができないだろう。
不意打ちならばなおさらだ。
しかし……。
(この男が本当に救世主なら、躱せるはずだ!!)
寸分の狂いもなく、モニカの剣はユキムラの首を捉え……!!
「モニカさん! 駄目だ!!」
リョウが大声で叫ぶ。その声で、目の前のユキムラは初めて自分が襲われていることに気が付いた。
「ぶわおおおおぉぉぉぉおおお?!」
掛け声とか、詠唱といった類でない、単なる驚き、もしくは悲鳴を無様に挙げ、尻もちをつくユキムラを見て……。
「くそっ!!」
モニカは剣が当たらないように調節、二段ジャンプの要領でユキムラを避け、空中で一回転。自分の勢いを殺して着地した。
「お見事~。流石、史上最速でレベル200に到達した都最強の聖剣士様~」
やる気のない拍手をしながら、リョウが茂みから出てくる。
目の周りには紋章が描かれた陣が現れている。リョウの「解析」は既に始まっているらしい。
「……どう? この男は」
「いやー。分かってるくせにー……駄目っすね」
驚いて腰を抜かしてしまっている、汚い毛に覆われたユキムラを紋章越しに見て、リョウは言い切った。
「救世主どころか、この人、レベル1です」
感想や、評価をいただけると励みになります!!
何卒よろしくお願いします!!