届かないかも知れ無い手紙
奈々子は夏休み前の期末試験が終わった翌日から、学校に来なくなった……。
「あいつの事が気になるなぁ」
少なからずあいつの事を好意的に思っていた。
そんなに可愛い顔をしている訳ではない。でも間違った事が嫌いなあいつは、生意気な男子たちが気の弱い子に嫌がらせをする所を見るたび、「あんたたち、何してんのよ!」と毅然と立ち向かう。
そんなあいつだが、普段はとても優しい顔をしている。時々見せる、さりげない笑顔を見るのが俺は好きだった。休み時間や帰り際に話もしたが、なぜか授業が終わるとすぐに帰った。
そんなあいつが、急に学校に来なくなった。
「……何かあったのかな?」
気になって、俺の幼馴染であいつの女友達の恭子に聞いてみた。
「奈々子は何で学校に出てこないんだよ」
「……悠太君、誰にも言わないでね。彼女は白血病で入院してるの、もう長くないってお母さまが言ってたわ」
「え、白血病!」俺は目の前が真っ暗になった、
「もう二度とあいつと会えないのか……」
恭子から入院先を聞く。あいつがこの難病に打ち勝って欲しいと本気で思い、ひまわりの花と手紙を持ってお見舞いに行った。
受付で奈々子の病室を聞き、冷たい石の階段を足取り重く上りきり、三階の病室にたどり着く。遠くに海が見える窓の近くのベッドに寝て、本を読んでいる奈々子を見つけた。
「奈々子、元気?」
「あら、悠太君……」
奈々子はパジャマ姿を見られまいと、あわてて本をたたみ、布団を掛けた。その顔は少しやつれて見える。
「急に来ちゃって、ごめん」
「ううん、だいじょうぶ」
「これ、ひまわり」
「まあ、綺麗! そこの花瓶に刺してくださる」
「ああ」
俺は窓辺の花瓶にひまわりの花が奈々子の方を向く様に刺した。
「体の具合はどう?」
「ええ、母はあまり教えてくれないけど、難しい病気らしいの」
「きっと良くなるよ、俺は信じてる」
「ありがとう悠太さん……」
「あと、手紙も持って来たんだ」
「え、手紙?」
俺は封筒に入った手紙を差し出した。
「今ここで読んでもいい?」
「ああ、いいよ」
奈々子は封筒を開けて、中に入っている手紙二枚を取り出し、折り目を開く。
「あら、何も書いてないじゃないの!」
「あはは、これは特殊なインクで書いたんだ」
「特殊なインク?」
「一年後に文字が浮かんでくるんだ、二枚目は俺が帰ったら読んでくれ」
俺は病室をあとにした――。
その二枚目には、
『一枚目に俺の告白が書いてある、必ず読んでくれ!』。 (了)