プロローグ8 パーティ全滅
プロローグ長すぎた。
一章扱いにすればよかったですよ。。。
単純な物理罠であろう。
だが、ここまでの道筋で罠は一つも仕掛けられていなかったし、何よりフィンブレンは頭に血が上っていた。
だからあっさりかかってしまったのだ。かなりの重傷である。
聖騎士が闘気に聖気の効果を持たせられるといっても、それは攻撃と防御だけだ。回復は使えない。
カイは咄嗟にフィンブレンを回復しようとして、彼の喉に牙の跡があるのに気付いた。
既に吸血されている。治療には聖水が必要だ。
背嚢を下ろそうとした時、フィンブレンが瀕死とは思えない速度で剣を振るってきた。
振り返った目が正気ではない。吸血鬼の魅了を食らっているのだ。
不気味に微笑んだ口からゴボリと黒味がかった血塊がこぼれた。
フィンブレンの食屍鬼化が始まっているなら、もう聖騎士の能力『聖気の効果を併せ持つ闘気』は使えない。聖気は食屍鬼となった自分自身の体も灰にしてしまうからだ。
だが、通常の闘気は使える可能性があった。
そしてフィンブレンの能力はカイより遥かに高い。
カイが一瞬怯んだ瞬間、フィンブレンは身を翻して駆け出した。
傷口から血がバタバタと流れ出るが、意に介した様子もない。
先ほど以上に闘気を全開にした、身体の限界を無視した全力疾走であった。
明らかにもう手遅れである。
「カイさん!」
流石に途方にくれたカイに声をかけたのはゾフィだ。おかげで少し冷静になる。
とにかく残された戦力で撤退しなければならない。
戦闘を避けて全速で逃げるならゾフィの魔法は頼りになるし、グランデルの闘気は……
「……グランデルはどうした?」
「え? あたしより先に……
二人は同時に状況を理解した。
瞬間、カイの頰が高い音を立てた。
「し、信じられない……! あなた、あなたやっぱりわざとみんなを死なせたんでしょう!?」
まて。なんでそうなる。
「いつ聞いたの!? あなた、この依頼が終わったらパーティからあなたを外すって知ったんでしょう!?」
まて。なんでそうなる。
「逆恨みじゃない! 自覚ないの!? あんたとっくにあたし達のレベルに着いてこれなくなってんのよ!!!」
少なからず衝撃だったと言って良い。初心者だった彼らに冒険者のイロハを教えたのはカイだ。
勿論、彼らのレベルが早々にカイを超えたのは事実だ。いずれパーティを離れる覚悟もしていた。
だが、彼らがカイに黙ってそんな決定をしていたのは衝撃だった。
カイとしては、彼らを出来の良い弟、あるいは年下の友人程度に思っていたのだ。
「みんなを返してよ! あんたキモいのよ! おっさんのくせに色目使って!!」
泣きそうである。カイのライフポイントはとっくにゼロだった。
正直、ゾフィのことはちょっといいと思っていた。ちょっと脈があるのではと思ったこともある。
それが実はボロクソだったのだ。
だが、そんな言い争い自体が現実逃避に過ぎない。
ゾフィの背後に、例の女が立ってニヤリと微笑んだからだ。
◆
二人の体が動かなくなる。吸血鬼の持つ魅了の能力だ。
ゾフィは既に歯の根が合わない程ガチガチと震えている。
改めて吸血鬼を見るが、奴から感じる妖気は然程強力ではない。
パーティが機能していれば、真正面から戦えば、充分勝てる相手だっただろう。
だが完敗だった。
女がゆっくりゾフィの背後から喉に牙をたてると、恐怖に震えていたゾフィの貌がやがて上気したものに変わる。
が、裏腹に女は不機嫌な様子になった。
「この街、ちょっとアタリ少な過ぎじゃないかしら。」
初めて聞いた女の声は、鈴の音のように透き通っていた。
糸が切れたようにゾフィが倒れ、女はカイを一瞥すると、深いため息をついた。
「このおっさんは……どう見てもハズレよね。しかも聖気使いだし、試すのも面倒。」
カイの背中を嫌な汗が伝う。最後の悪足掻きとして、噛まれる瞬間に全力の聖気を顔面にぶつけてやろうと思っていたのだ。
噛んでもらえなければ、それさえ出来ない。かと言って無事に解放してもらえる筈もない。
何もできずに殺されるしかないのか。
女はカイの方へ歩いてくると――そのまま通り過ぎた。
カイは振り向く事もできない。予想外の肩透かしに、ありえないと分かりつつも、つい助かる可能性に期待してしまう。
だが、次に聞こえてきた音に、心臓が跳ね上がった。
霧の向こうから聞こえてきたのは、濡れた何かを引き摺る音だ。
予想が外れていることを全力で祈るが、冒険者風の食屍鬼が引きずってきたのは、当然リサとフィンブレン、グランデルの死体だった。
いや、死体なはずがない。
鈴の鳴るような声は、カイの首のすぐ後ろから聞こえた。
「腹立つから、お仲間の餌にしてあげようかな。」
今度こそカイは総毛立った。
反撃を考えたことを全力で後悔した。