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プロローグ2 四職兼業

説明多めです。

 発見された冒険者の死因は首筋の傷からの失血死。

 そして、傷口は人間の歯(・・・・)で食いちぎられたものだった。


「十中八九、食屍鬼(グール)だ。

 本来C級冒険者の受けられる仕事じゃないが、いまデルッタはB級が出払ってる。俺達はC級チームだが、不死族(アンデッド)相手には相性がいい。

 ギルドもそう思って俺達に声かけたんだろ?」


 タイミングが悪いと言えば悪い。


 人の住まう領域の東端――極東のジャイド王国は、四大魔王の一人、東の魔王ジェントリクシアの領土に接していた。

 その東の魔王領が不穏な動きを見せたとかで、B級以上の冒険者が軒並み王都に召集された矢先だったのだ。


 今この街でこの依頼を果たせるのはカイ達だけだ

――そう一昨々日(さきおととい)の夜に打診があり、今日正式に受注した。

 明日の朝にはもう討伐に行く予定だ。


 ケントが言いにくそうに視線を逸らした。

「……動けるB級チームにアテがあるっつってもか?」


「ギルドはそんな話してなかったぞ。そのアテ(・・)、確実じゃないんだろ? 勝算はあるって言ったぜ。心配すんな。」


「分かった、もう言わねえ。恩にきる。だが本当に無理だけはすんなよ?」

「当然だ」


 ケントはようやく微かに笑った。俺達が使命感に駆られて高難度の依頼に挑んだのかと思っていたのだろう。

 生憎そこまでお人好しではない。

 カイの返事に、ケントは少しスッキリした顔で『じゃあな』と手を振ると、マヨネーズのついた指をなめながら階段の方に立ち去った。


 どうやら本当に忠告のためだけに俺を探しに来たらしい。悔しいくらいいい奴だ。


 何気なく階段から下を見下ろすと、店を出るケントに少女が駆け寄るのが見えた。たしか奴の下の娘だったはずだ。

 二言三言話してまた友達のもとへ駆けていく。遊びに来て偶々ケントを見かけたのだろう。


 カイは毒気を抜かれて、左手に抱えていたエロ漫画を棚に戻したのだった。



「あれ、カイさん?」

「のわあぁぁあっ!!!」


 カイの背後にいたのは、分厚い本を数冊抱えた女性だった。


 胸元の開いたセーターを大きく持ち上げる胸と、腰近くまでのスリットからスラリと伸びた脚をつつむガーターは煽情的で、大人びた顔立ちと対照的に大きめの丸眼鏡をかけて無邪気にきょとんとした表情とのギャップがいっそエロい。


「ゾ、ゾフィか。こんなところでどうした?」

「今度のクエスト用に探査系の魔法を補強しようと思って魔道書を探しに来たんだけど……もしかして何かえっちなの見てました?」


 彼女は緩く波打つ栗色の髪を弄りながら、ニヤリと悪戯っぽく笑った。


 ゾフィリア=チッタ=リッタ。同じ冒険者チームに属する『魔術師』だ。本職は宮廷魔術師である。

 年齢は21歳――ちょうどカイの半分だが、チームメイトでカイと一番話が合うのが彼女だった。


 人間の能力は大きく四系統に分類できる。魔力、闘気、聖気、理力だ。


 四系統のどの能力を使えるかは生まれつき決まっており、普通は一系統しか使えない。

 それによって職業(クラス)も決まる。


 魔力が使える者は『魔導師(ウィザード)』系、闘気が使える者は『戦士(ウォリアー)』系、聖気が使える者は『僧侶(プリースト)』系、理力が使える者は『野性(ローグ)』系だ。『四大系統』はこちらを指すこともある。


 だが、ごく稀に複数の能力を使える『兼業(マルチクラス)』がいる。

 カイはその中でも極めて希少な『四職兼業(クワドラプルクラス)』――つまり全ての能力を使える兼業だった。


 尤も希少だから良いというものではない。むしろ大外れだ。『兼業』は経験値が分散するためレベル上限が低いのである。

 まして四職兼業であるカイは、各職ともレベル3が上限だった。勿論とっくに上限に達している。

 一般人がレベル1で、C級冒険者が概ねレベル10以下程度、と言えばカイがどれほど悲惨なレベルか分かるだろうか。

 素質で言えば間違いなく『世界最弱』と断言できる。


 四職兼業であるがゆえに、一生B級冒険者に成れないことが確定してしまっているのである。

 だが、カイは諦めきれなかった。


 そのため、カイは能力を使いこなす方向に可能性を見出した。

 というのも、四大系統はさらに細かい専門職(キット)に分かれるのである。


 カイが四大系統でそれぞれ選んだ専門職は戦士系『剣聖(ケンセイ)』、野性系『深淵(エニグマ)』、僧侶系『神官(クレリック)』、魔導師系『魔術師』だ。

 神官だけはオーソドックスな職業だが、それ以外の三職は、能力を使いこなすことに重点を置いた職業である。


 たとえば『魔術師』は、魔法をいかに上手に使うか、使いこなすかに重点を置いた職業であり、開発や理論は重視しない。

 尤も、単に『魔術師(メイジ)』といえば威力重視の職業だが、カイは詠唱スピード重視の『軽魔術師(マジシャン)』と呼ばれる職である。


 ゾフィも同じく『魔術師』である。ただし、修得魔法数重視の『賢魔術師(セイジ)』だ。

 彼女は宮廷魔術師のホープとして正規の職能教育を受けていたが、カイのマニアックな魔法知識は彼女に匹敵した。

 そこが彼女との会話が弾む理由である。


 が、だからといって、性癖の話などはしたことはない。


「チ、チガウ、友達に会ったから話してただけダヨ、だよ?」

「あー、やっぱりさっきのケントさんですか? 何の話だったんです?」

「ああ、それは今度の依頼のはな「これさっき手に取ってた本ですね?」


 ぎゃあああああーす!!!


 ゾフィは、話が逸れたとカイが油断したタイミングをついてひょいと本を取り上げた。瞬間あきらかにドン引きする。

 引くくらいなら最初から追及しないでほしい、と思ったのも束の間、カイも思わず固まった。


 彼女の手に握られていたのはガチホモ本「淫乱デッドリーベア」の133巻だったのだ。


 違う。俺が買おうとしてたのはその隣の本だ。と言った方がマシなのかどうか咄嗟に判断できずに、カイは一瞬固まってしまったのだ。

 買いかけていた本が巨乳魔導士もの――ヒロインがゾフィに似ていたのも運が悪かったと言えよう。男に欲情するのと、友人(しかも本人の前で)に欲情するのはどちらがマシか。


 カイの頭脳は嘗て無いほど回転したが、どうにも手遅れであったと言わざるを得ない。

 異様に優しい目をしたゾフィがカイの肩をポンと叩くと、「とりあえず、みんなには黙ってるから」と言わんばかりに親指をぐっと立てたのだった。


 いかなる言い訳も何の意味もなさなかったのは言うまでもない。

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