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ふたつ目の町 イノチダイジニ


 この世界に来てだいぶ引きこもりをし続けた私だが、狭くて光もあまり入らないような場所に一人っきりで三角座りして引きこもるという、本格的な引きこもりをしたのは初めてだった。

 いや、普通に考えて、その引きこもり方はよくないので、初めてで正解なんだけど。

 それから、エレイフ、カーライルさんと、それぞれにくれた優しさをしっかり受け止めて、私は昼食の前にはそっと厚手のカーテンを開き、皆と一緒にご飯を食べた。

 髪の毛はせめてもの感じで、右肩の辺りでゆるくくくって垂らしている。ちゃんと自分で結いましたよ。


 町に入るときは無理はしないけど、完全に閉じてしまうのも気にしてしまう自分がいるのがわかっていたから、薄手のカーテンと、頭からレースを被って馬車に揺られて町に入った。

 町の人には申し訳ないけど。

 それでも人々は嬉しそうにうっすらと見えるだけであろう馬車の中の私に、キラキラとした視線を送ってくれる。

 三つ目の町までは、カーライルさんの管理していたあの大教会の管轄だと聞いている。

 そこまでは、きっと同じ反応が来るのだろう。

 人の目があるという事は、曲解されてあらぬ誤解が広まりやすいのだと、身をもって知りました。こんなの初めてだよ!

 あたりまえだけど。


 芸能人とか有名人って大変なんだなぁって、心底思いますわ。

 私にはやっとれんです。

 なので、この、聖女様万歳な状態を、私はそう長くは続けられないだろうなと思うわけだ。

 きっとどこかで破綻する。それは予感じゃなくて確信だ。

 絶対に、そうなる。

 そうなると、私は一つ所に住めないってことだなぁって思うんだよね。

 だって、この世界全体が、神様と人とのつながりで生きてるんだもん。

 いつか、私自身も感謝を忘れてしまう可能性はあるんだけど、現状、神様を呼ばないように頑張る。という、普通逆だよ?っていう生活しているから、そうなるまでにはまだまだ時間がかかりそう。

 だから、今は、この大歓声に耐えながら頑張るしかないのだ。ただし、自分の精神を保てるラインで。

 馬車の動きが止まり、扉が開く。

 ベールのおかげで周囲を直視しなくていいのはありがたい。

 が、そのせいで、普段はしない大失態をしてしまった。


 がっ と、馬車の淵につま先をひっかけてしまい、ぐらっと体が前のめりになる。


 あっと思った時には、さっきまで手を差し出して待ってくれていたアレクシスさんが私の肩を支えてくれていた。

 驚きに2度、目を閉じ、また開き、心臓の鼓動を何とか鎮める。


 大丈夫大丈夫。転んでない。無様には転んでいないぞ。大丈夫。

 そして今はあれです、大観衆の眼前なのです。

 落ち着け。まだ慌てる時間じゃない。顔を上げ、微笑め、そして、早々に部屋に引き上げるのだ。そうだ。

 アレクシスさんに褒められた、笑顔という名の圧力を今こそここに!


「長旅で足がもつれました。ありがとうございます。アレクシスさん」


 ゆっくり体を離し、しゃんと立つと私は笑って見せた。きっと目は笑ってないが。

 アレクシスさんが瞬時に反応できずに一瞬体を強張らせるも、私はその手に自分の手を重ねて、楚々とカーライルさんへと歩を進める。

 完璧な紳士であるアレクシスさんもまた、自動的に歩き出し、いつも通りスマートにエスコートしてくれる。

 私の目標はただ一つ。

 この業務をさっさと終わらせて、引きこもるのだ。

 という強固な意志の元、私はこの町の代表の方々の前へと合流を果たす。


「聖女様、大丈夫でございますか?」


 あぁ、この町の代表の方も親切だなぁ。

 優しさがしみいるけどすみません。


「はい。長らく馬車に揺られていたため、足がもつれてしまったようです。お恥ずかしいところをお見せしました。」

「それはいけません。」

「すぐに休まれたほうがよろしいですな。」

「お気遣い痛み入ります。そうさせていただけますか?」

「もちろんです。ささ、こちらへ」


 私と、カーライルさんと、町の代表の方とでスピーディーにまとまる話。

 ありがたい。

 こんな時、役に立つね。聖女ボディ。

 10代の少女のこの見た目で旅の疲れを言われれば、お休みくださいと言わないわけがないのだよ。

 人の優しさに付け込んで…本当に、心の底から申し訳ないと思っております。

 思っておりますが、ひとつ目の町で思い知りました。

 無理は禁物。

 作戦名は、イノチダイジニ。これしかない。

 あぁ、でも、せっかく町を見れるチャンスだったのになぁ。

 それだけが私にとって心残りだった。



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