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異世界の車窓から


 異世界の車窓から~。

 今日は、カーライル邸を出発し…


 なんて、言ってみたりして。

 ここまでのぐったりした気持ちをごまかしてみたりなんかしてね。ははは。

 カーライルさんのお屋敷のある街は、さすが、大教会のある街で、なかなかの大きさの都市だったのだと、身をもって実感させられました。


 どれだけ人がいるの?

 街の端まで行くのにどれだけ時間がかかるの?


 って、限界を感じて振っていた手を何度も、何度も、左右を入れ換えた私ですよ。

 ちょー頑張った。

 本当に、頑張った。

 誰か私に偉いねって言ってほしい。

 すでに筋肉疲労で両腕だるい。絶対筋肉痛の前兆だ。


 そんなこんなで、今はもう民家は1つも見えない自然の中に伸びる道の上だ。

 沿道の人々のすごさに町並みが全然楽しめなかったのが心残りだが、今流れている風景も、私の生きてきた世界のものと雰囲気が違っていてとても楽しい。

 林の中ではあるのだが、やはり植生が違うだけあって、とても新鮮な光景なのだ。

 針葉樹らしいものはほとんどなく、葉っぱの丸い木々が多いし、灌木も多い。

 たまに見かける動物の姿は、あちらで見たような姿のものもあれば、全然見たことのないような姿のものもいた。

 動植物について、図鑑とか見ておけばよかった。

 そうすれば名前がわかってより楽しめたのに。

 なんて感じで、今朝のことはすでに喉元過ぎれば状態になりつつあるけど、心の片隅で忘れてはならないと、自分を戒める。戒めつつも、私は風景を楽しんでいた。

 窓際に寄って通りすぎていく風景をただただ楽しんでいるだけで、あっという間に時間が経ったらしい。

 ひたすら走っていた林の途中だというのに、不自然にも木々が切られぽっかりと作られた空き地に騎士さんたちが整然と入っていき、馬車もそれにならい、停車した。


 停車してから暫し経って、ガチャリと開かれる扉。

 淑女として、その向こうから差し出された手に手を重ね、馬車を降りながら、私はその相手をじっと見つめた。

 さっきのパレード的なあれを黙っていましたね?という気持ちを込めて。

 相手もそれを後ろめたく思うところがあるのか、いつもは一般人離れした泰然とした空気を纏っているのに、今はそれが揺れている。


 ふふん。相手が私の心を読んでいるかのように先回りしてくれるように、私も多少相手の心情を読めるようになっているんですよ。

 そう、いつも硬質で静かな顔をしていてもね。アレクシスさん。


 私のじと目に気づいているのに何も言わず、手を引いていくアレクシスさん。

 その先には簡易的な椅子とテーブルが用意され、なんと、休憩の場が作られ始めている。

 ただ馬車に揺られているだけだというのに、皆さんすみません。


「今お茶の準備をさせていますので、ゆっくり休憩でも…」

「そうですね。想定以上に、大分、疲れました。」

「…」


 じーっとじと目を向け続け、強めの言葉をあえて繋げる私。

 少しばかり視線をそらすアレクシスさん。

 普段では絶対にあり得ない状況である。

 しかし、私はこれをやめるわけにはいかない。

 また同じことがあっても困るのだ。

 色々な状況を鑑みて、あえて私に言わなかったのだとしてもだ。

 きちんと抗議はしなくてはいけない。

 意思表示大事。


「聖女様、そのくらいにしてやってください。」


 無言でアレクシスさんを見上げ続けていると、後ろからカーライルさんの声がかかる。

 しかし、カーライルさんも同罪なのだけど。と、いう気持ちを込めてやはりうろんな目をそちらへ向ける…が、私は数度まばたきをし、違う意味でカーライルさんをじっと見てしまった。

 なにせ、カーライルさんはいつもは弛く肩口のちょっと下辺りで結っている髪を、今日は頭の高い位置でポニーテールのようにしばっているのだ。

 しかも、ただのポニーテールではない。

 もみ上げの辺りの髪には髪飾りを通し、緩く弛みをつけながらポニーテールに一緒に結い上げているし、ポニーテールに集約される前の横の髪の何ヵ所かに三つ編みや髪に通した髪飾りがちらほらと見えるのだ。

 出発の時、カーライルさんは忙しくしていて顔を会わせられなかった。

 なので、代わりに朝の挨拶に来てくれたのがアレクシスさんだった。そして、カーライルさんの代わりにお薬を渡してくれて出発したのだった

 いつもと違うのは髪型だけではない。

 服装もだ。

 普段は教会の職員の皆さんが一様に着ているローブのようなゆったりとした服装なのに、今日はかっちりとした服装をしていて、首元にはジャボがヒラヒラと優美に重なりあっている。

 貴族的な出で立ちのカーライルさんに、私は衝撃を覚えた。


 え、いや、いきなりギャップ萌え持ってくるのやめてくれませんか!?


 心の中だけで、心の底から叫び声をあげる。

 正直、睨み付けてる場合じゃないよ!

 違う意味で視線が釘付けですよ!

 カフスボタンとか、ブラウスにかっちりとした上着とか、すてきですね!って違う違う、そうじゃないから。

 アレクシスさんもカーライルさんも、たまにこうやって顔面偏差値で人の事ぶん殴ってくるのやめてくれませんかね。

 今私、怒ってるんですって。

 それなのに、銀髪と黒髪のそろいのお人形みたいな美しさを私にぶつけるの、ほんと、良くないですよ!?


「その、申し訳ありませんでした。」


 しかし、私の視線の意味をカーライルさんは勘違いしてくれて、困り顔の末、謝罪を口にした。

 よほど私の視線が強すぎたらしい。

 いや、それより、私も今どこに自分のテンションの高さを持っていったらいいかわからなくてまごついてしまう。

 そのせいで三人の間に流れるのは静寂。

 私たちの様子のおかしさに、周囲はそそくさと遠くへ移動してしまうし、うおお、な、何か言わなければ。

 何か…しかし何か言おうと思うと、頭の中には二人の顔面偏差値の高さとか、姿勢の良さとか、挙動の美しさだとか、何よりやっぱり、いつもと違うギャップっていうあれそれが思考の邪魔をしてくれるのだ。


「ああ、やっぱり主様に怒られましたか。」


 そこへ爽やかに割り込む朗らかな声。

 まさかの救世主。

 君が救世主になる日が来るとは、人生とは発見の連続だね。

 私は声の方に救いを求め、顔を向けた。


「あはは、すみませんアオ様。街の方々の規模も読めなかったので、変に緊張させるのは得策ではないと、アオ様にお伝えしない方向で満場一致に…やはり、お怒りですよね。」


 そう言葉にしながら後頭部をがりがりとかき歩み寄ってくる第4大隊隊長殿。

 最初は明るく笑いながらやってきたというのに、最後はやはり困り顔をしたこの場の救世主エレイフは、どうやら気まずいのも嫌だからという考えのもと、殊更明るく声をかけてくれたようだ。

 しかし、そんなに私の怒りを恐れなくてもいいのでは?

 私、そんなに怖くないよね。


「…三人でそう決めたと?」

「そうですね。…その、すみません。」


 とりあえず、状況確認のため、秘技、おうむ返しを発動する。

 それをすることで、ほんの数秒でも私自身にも気持ちを建て直すための時間を稼ぐのである。社会人で身に付けた大事なスキルである。

 それにしても、三人で話し合ったという事に何だか驚いてしまう。

 いや、仕事なんだから、そういう場を何度も設けていただろうけど。

 ぐるりと三人を見回すと、三者三様ではあるが、それぞれにばつの悪い顔をして私の顔を見返している。


 あーもう。なんか、色々気持ちの置き所に困るなぁもぅ。

 いや、カーライルさんの姿にかっこいーとか思ってしまった時点で最初のトピックを引っ張る事はできなくなっていたんだから、それは私が悪い。

 二次元ばりの男性陣に囲まれた時点で、この世界に於いて私の敗北は予定調和のようなものなのだ。きっと。

 はあ、と、小さく息をはくと、色々な気持ちを保持することを諦め、三人に苦笑を投げ掛けた。


「とりあえず、三人もお疲れでしょ。まずは座りませんか。」


 ちょうどテーブルに暖かいお茶を用意してくれている執事さんがいらっしゃる。

 視線が合うと、ちょっとおびえられた気がするけど、気にしてはいけない。


「お茶を飲んで、それから話を伺いましょう。」


 


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