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希望をいうなら壁か床になりたい…


 あの後、ドン引きしながらもカーライルさんと少しお話をして、私に礼儀作法やお嬢さんとして必要なあれこれを教えてくれる口がかたーーーい人を連れてきてもらうことになった。

 家庭教師だよな…って、申し訳無さすぎるので最初はお断りしたんだけどいろんな理由でそれが一番だからと押しきられた。


 曰く、カーライルさんだときちんと定期的な時間を作れないし自分に聖女様が予定を合わせるなんてもっての他と。

 自責の念で死にそうな顔してたな…

 曰く、邸の者では身分の高い方の詳細までは語れないと。

 ごもっともです…

 曰く、異界から来た事を滅多なものには明かせないと。

 そこら辺明かせる相手の見極めなんてわからないしなぁ…

 曰く…曰く…


 カーライルさんは見た目の硬質さ通り、理論立てて真面目に正論でぶん殴ってくるタイプでござった。お堅い方だぜ…まったく。

 致し方なく白旗上げて、家庭教師を受け入れ、他に不備はありませんでしたか?という言葉に首を横に振ると、カーライルさんは退室していった。ひと安心…かな?

 ばふぅんっと、ベッドにダイブしてから、肩にかかったままの上着に私は気が付いた。

 おっといけない。シワになってしまう。

 慌てて立ちあがり、上着をバサリと、目の前に広げた瞬間、水のような涼しげな香りが鼻を掠めた。

 思わず、息をのむ。

 これは、その、何というか、あれじゃん…?

 あの、その、カーライルさんの、香り…ってやつ…ですね。

 顔が赤くなる。心臓がバックバックなる。勝手に頭が考える。ずばぁぁぉっと一気に記憶が時間をかけ上がる。

 つまりはこの香りに先ほど包まれてたってことで。スマートに、彼が、私に、上着を、その前に、薄着に照れられて…それで…


 う…うわぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!

 勿体ない!!!!!!!!!!!!


 なんで!なんでや!理想の聖女様姿の少女に硬質神職美青年が頬染めながら上着かけるとか!スチルじゃん!貴重スチルじゃんんんんんんんん!ばっきゃろー!モッカイやり直せっ!そして、私を壁か床か天井に生まれ変わらせろぉー!!

 おまっほんと!

 お前そこどけ!

 そう、そこの、というか、この体の中の私のことなんだけどぉー。もぉー。


「もっだいないぃぃ…」


 じょばーっと涙を流して私は上着を掲げる私の姿を鏡越しに見た。

 こんな儚げ美少女のパジャマ姿に頬を染めて、自分の上着をそっとやらしくなくかけてくれたんですよ。全身スチルください。

 そんでもって落ち着かせようと軽く肩に手を置いたと。差分を要求します。

 もぉもぉもぉもぉぉ…

 私がヒロインじゃ萌えないやないかーい!三十路聖女なんて萌えない。中身清楚じゃない清楚系ガワの聖女とか、私の地雷じゃーん!

 かーみーさーまー!

 今こそここに来て!私の声を聞いてくれよ!!


 私はカーライルさんの上着を汚さないようにバッチイ私の顔からなるたけ遠くに離しながら畳んで机に置いた。

 ところでどっかにティッシュ無いか?と、つまりきった鼻からこれ以上鼻水出さないように気を付けながらうろついたが見つからなくて仕方ない、心を痛めつつもさっき使ったタオルで涙と鼻水をぬぐった。

 まさかこんな傷を負うことになろうとは…

 タオルという心強い味方を得たことで私はまたダバァと涙を流した。


 私は、私は、推しの部屋の一部になりたい系ヲタクなんだよぉー!



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