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広がる誤報とロマンスグレー?


 意味がわからない。


「今、なんて?」

「口調、宜しいので?」


 すねた口調はそのままに、そっぽを向きながらも突っ込みをいれてくるエレイフ。

 今は、そんな事どうでもいい。それよりも大事なことがあるというか、正直それどころではないので、淑女を保って話してられない。


「私の好みってどういう事?」


 じりじりとエレイフへ寄っていくと、チラリと視線だけでエレイフは私を見た。


「お屋敷のお嬢さん方が熱心に噂されていましたよ。」

「うわさ?」

「聖女様は、ずいぶんと年上がお好みだとか。」


 なんだその噂は。

 どこから出たんだ。

 痛みを訴え始める頭を軽くおさえ、目をつぶってからふと、不機嫌なエレイフの顔の理由が朧気ながら浮かび、目を見開いた。

 見上げると、やはり、不服そうな顔。


「え、もしかして、拗ねてるのって」

「そりゃぁ、私はアオ様の恋愛対象ではありませんから。」


 そんなところで拗ねられても…。

 しかも、私の関知しないところで膨らんだ噂で。

 まぁでも、恋愛対象の範疇にいないのは確かだけど。


「うーん。フォローできる言葉が浮かばない。」

「相変わらず容赦がない。」

「とりあえず、その噂、何?っていうか、ほんと、何?」

「私では若すぎると言っていたのでしょう?」


 …いま、なんと?


 あっけにとられてぱかーっと口を開けてしまう。

 言った覚え、めっちゃある。


「なる…ほど…」


 肩を落としそうになるが、さすがに体裁としてなんとかそれはとどまった。ぎりぎりのところでだけど。

 既に驚きで変な顔をさらしてしまった後だけれど。


「アオ様、言われたんですね。」

「言った覚えはある…。でも、別におじさま専門とかそういうことじゃないからね。」

「いや、そこまで言ってないですし、そんな言葉よく出てきますね。そこに驚きますよ。淑女が言っていい言葉じゃないですよ?」


 折り重ねられる突っ込みをことごとくスルーし、私は小さく吐息をはいてから、涼しい顔を作り直し、また室内を見渡した。

 騎士団の制服を着るのは全員30代と思われる男性ばかり。

 若々しいタイプから渋いタイプ。爽やかに整えているタイプから髭面の粗削りなタイプまで、よくもまぁ整えたものだと感心する。

 屋敷内でカーライルさんに常駐を許された人数である9名を、最終的にこの面子にしたエレイフの行動には驚かされる。

 しかし、そのうちの誰かと恋に落ちる予感などは一切無い。

 こちとら一度人生終えるまで喪女だったのだ。

 簡単に三次元に恋できる体質ならもっと世間様に混じれたさ。


「男性のエレイフが、騎士団員を年齢と顔で選別して、各種取り揃えて連れてきたと言う現実がなかなかに心をえぐるなぁ。」

「我ながら、涙ぐましい努力だと思いますよ。褒めてくださってもいいですよ。」

「エレイフは、あの中の誰かと私が心を交わすかも知れなくても良いと思ってるわけだ。」

「全然よくないですよ。好みの男性でもいたんですか?」


 自分で取り揃えておいて責めるようなニュアンスでしゃべる。

 矛盾だらけの行動だが、わざわざ好みの男性を揃えようとする尽くし方には、そういう環境が形成される素地が教会にあるのだと私へ示している。

 好みの男性で釣って、護衛騎士を置き、特別なお姫様にでもしようというのだろう。教会の上層部は。

 しかし、そうは問屋がおろさないのだよ。

 私は筋肉フェチでもなければ、騎士様系によろめくタイプではない。

 エレイフは圏外ですし。おすし。


「そう言えば、エレイフは最初、私の護衛騎士になりたいとか言ってたんだっけ。」

「言ってましたね。」

「今もなりたい?」

「それは…アオ様にお任せします。」


 複雑な顔で笑うエレイフ。

 ちょっとわかってきたけど、たぶんエレイフはエレイフなりに、教会の思惑と、私への忠誠で揺らめいてる部分があるのだろう。

 教会について話せないことが私に対してあるからこそ、煮えきらない返事をする事があるのだと思う。


「別に、あの年齢が好きという話ではないんだけども、この話は説明するのが難しいから、終わりじゃだめかな?」

「…違うんです?」

「全く違うとは言い切れないけど、ニュアンスが違うって感じかな。」

「はぁ…、またその辺り、聞かせてくださいね。」

「話す機会があればね。」


 小さく、酷い…という呟きが落ちてくるが無視をして、自分の分のお茶をこくりと飲み干した。

 この会話の途中で、お茶を吹き出すような無様を見せなかった事は行幸である。

 それにしてもすさまじい噂が広まっているものだ。

 それなりに好意的に屋敷の皆様に受け入れてもらえていると思っていたというのに、こんな落とし穴があるとは…思っても見なかった。


「ところで、お菓子の感想を聞きたいんだけど?」

「そうですね。どれも食べたことがないものばかりですが…これなんて、きついお酒がしっかりきいてていいですね。」

「エレイフ、そんなにお酒好きだったの?」

「度数の高い辛い物の方が好きですね。」


 ふむふむと話を聞きながら、まぁ、その感想はわかる。と、頷き、気に入ってもらえたのを喜んだ。


「是非他の隊員のみなさんからも、感想もらっておいてくださいね。」

「急に元にもどりましたね。じゃあ、そろそろあいつらを回収して行きますよ。」


 私はにこやかに、淑女として慎ましやかに手を振ってエレイフを見送った。

 エレイフ自身、甘いものも好きだから食べれないものは無いだろうとは思っていたが、好みのものがあって良かったとこれでも心底思っている。

 彼の主であるという意識は無いし、その感覚はあまり覚えたくないなとは思っているけれど、多少身の内に入れてはいるのだ。


「せっかくだから、お茶会が終わった後で少し差し入れてあげようかな。」


 隊員を引き連れて帰っていく姿を見送りながら、私は一人ごちたのだった。


 因みに、カーライルさんとアレクシスさんはといえば、他のみなさんがくつろげないのでは意味がないからと、このお茶会には顔を出さないと、事前の話し合いで決まってしまっていた。

 ほんとはカーライルさんへの恩返しという意図があったので来て欲しかったんだけど…従業員さんたちを優先するなら、そういうことになる。

 私は一人、また一人と帰っていくみなさんの姿を最後の一人までにこやかに見送って、サロンの扉を閉じると、お手伝いをしてくれた面々を呼び集めた。


「本日は、最後まで手を貸してくださってありがとうございました。皆様のお陰でつつがなくお茶会を開くことができました。」


 一人一人の顔を見てからにこりと笑う。

 お屋敷で習得した私なりの心からの笑顔だ。


「これにて、本日のお茶会は終了でございます。皆様も、このあとはゆっくりと休息をとってくださいね。」


 私の笑顔に全員が笑顔を返し、頭を下げてから退室していく。

 彼らの姿も、最後の一人まで笑顔で見送り、扉がしまるまで手を振り続ける。

 ぱたり、両開きの扉がしっかりと閉じきってやっと、少しばかり話が斜め上に進んでしまったお茶会は無事一区切りとなった。



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