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薄氷の美人にドン引いた話を聞いてくれ


 無意識に呼んでしまう光の貴公子の事はさておき、少し私の身に起きてることを話そうと思う。


 話は少し巻き戻るけど、私の苦悩を聞いて欲しい!


 親切な…いや、怖いくらい私を崇めようとするカーライルさんに出会って、お部屋まで頂いてしまった私は、この世界にお風呂が存在していることに喜んだ。

 基本シャワー社会らしいが…

 聖女がいて、奇跡が起こせるものと認識されているここは、魔法もあるというわけで、ファンタジー好きにはたまらないですな。

 ある程度お金のある家ならば、魔法でシャワーの機能を充足させられるというありがたい世界だった。シャワー無いのは精神的にきついもんな。

 湯船にお湯をはる文化は浸透してなくとも、たまには一人でお湯をはらせていただこうとそっと心に決めた。

 そんなこんなで初めての魔法製シャワーを堪能し、ご用意いただいた下着と寝間着に着替えようとしたところで、私は、私の姿に驚愕した。


 ちょっまっ!

 嘘だろ!!??


 私の理想の清楚系聖女様キター!

 着替えるスペースと思われるところに設置された姿見に気がついて、私はかじりつくようにそれに駆け寄った。

 なんてこったい理想の容姿に、髪色は落ち着いた灰色混じりの薄水色で、瞳なんてすみれ色だぞ!?

 まってまってマジかよ。奇跡か??

 いや、奇跡以外の何者でもない。私をこちらに落とした女神様の事をよく思い出すんだ私。

 そう、女神様は私に細くて小さくてかわいい以下略の聖女としていってらっしゃーい的ななんかあれな感じでぽいちょしてくれたわけですよ。つまり、私が並べた私の夢と希望と萌えの詰まった聖女様のガワを、私という残念喪女が被ってるわけだよ。やめてくれそうじゃない。中身が喪女の美少女なんて望んでなかった。

 うんこ座りで頭を抱える。

 嘘だろ女神様!残酷すぎる!!

 私はおそるおそるもっかい鏡と向き合う。うんこ座りしてても堕肉が無いと見苦しさも感じないんだね。すげーや。

 ちょー適当にそんなことを考えて何とかもやもやを横にずらそうと頑張りながら、私はもそもそと着替えを遂行した。すとーんと足首まである寝間着は手触りが柔らかくてなかなか良きでした。

 でもどうせ起きたらめくれ上がってるだろうなぁこの裾。美少女なのになぁ。残念。

 ベッドにのそのそ上ってみると、こちらもなかやか良きでした。

 ふっくらとしたお布団の感触に、幸せを噛み締めているところへノックの音が響いてきた。


「うぇっ、あ、はいぃっ!」


 ひっくり返った声が恥ずかしいよ。コミュ障のお返事なんてこんなもんさ。残念だろ。私も残念だよ。

 私の返事でガチャリと扉が開く。だ、誰だろう。心臓が緊張でいつもより速度を上げてくる。


「失礼いたします。」


 むっちゃ丁寧にお部屋に入ってきたのは薄氷のような髪と、切れ長のアイスブルーの瞳をしたカーライルさんであった。

 初対面の時、驚愕で見開かれてたおめめは、普段であればキリッと切れ長で涼しげであることが判明しました。凄い意思の強そうな人だなぁ。きっと信仰心もお強いんだろう。だから私みたいな喪女にもこんな扱いをされていらっしゃって…申し訳なさで穴に埋まりたくなる。私は今美少女のガワを被っていますが三十路過ぎた行き遅れなんです。

 さすがに実年齢はカーライルさんにお伝えしていないんだけど。

 カーライルさんは少し下げていた頭を上げ、目が合うと固まってしまった。

 因みにコミュ障の私は返事をしたところから既にカッチンカッチンに固まってるので、ベッドの上でペッタリと座ってる状態で扉へ上体だけ振り返ってる姿勢である。

 数秒間沈黙が続き、心の底から気まずさが溢れる。しかし会話の糸口が思い付かない!思い付かないんだ!!思い付くなら三十路までコミュ障引きずらないわ!

 助けて神様ーっ!


「…その…就寝前に申し訳ありません…」


 私が言葉を探しあぐねていると、不意に、顔を赤くしてカーライルさんが顔を背けた。美形が過ぎる。


「い、いえいえいえいえ、全然大丈夫です!」


 慌ててベッドから降りて、手をブンブンと振る私に、カーライルさんがそっと近づき羽織っていた上着を肩にかけてくれた。

 動き、スマート過ぎかよ。

 美形が致死量に達したのでこの乙女ゲーもどきな環境ゲームオーバーにして欲しい。


「女性が薄着で人に会われるのは…あまり…なんと言いますか…」


 口ごもりながら言葉を探し探し伝えてくれるカーライルさんに、私ははっとした。

 そういえば寝間着一枚だな。私。内心真顔で状況判断。

 正直、Tシャツハーパンで平気でゴミ出しに行っちゃうからさぁ、全然意識に無かったけど、これはもしや、若い女性としてはアウトなやつ。


「あぁぁぁすみません。文化が違うんでした。ほんとにすみません。次からは気を付けます。」


 一気に真っ白になる頭ん中。ひたすらすみませんと床を見つめて連ねていると、肩に優しく手が乗せられた。


「聖女様がこの地に不馴れでいらっしゃるのはわかっております。むしろわたくしの伝え方が悪く、本当に申し訳ありません。」


 あぁぁぁぁもぉぉぉぉぉっ

 気にやんじゃってるよぉぉぉぉっ

 眉間にシワ寄せて、自分の至らなさに罰を科そうとしそうな顔してるよぉ。

 そういうのいいです。ほんと私が悪いから。だからお願いですから早まらないで。

 何とか気持ちをそらせなきゃと、肩に乗せられた手をひっつかんでカーライルさんを見上げる。

 私がちびなのもあって、カーライルさんの肩くらいまでしか私の身長はない。いえ嘘です。嘘言いました。サバ読みました。せいぜい鎖骨の高さです。

 なので、ほぼ真上を見上げる高さでめっちゃ首しんどいんだけどその顔を見上げ、視線を合わせる。アイスブルーの瞳がほんとにきれいだな。


「あの、良ければこの国の文化を、私に教えてくれませんか!この世界の常識を、知りたいんです。」


 必死になりすぎてめっちゃ早口になってしまったー!キモオタ乙!!!最後なんて言い訳っぽくて口ごもってしまったぜ。もごもご。

 そんな反省会を瞬時にし始めていた私に、カーライルさんはゆるゆると笑顔になり、それはもうとてもとても美しい笑顔で口を開きました。


「聖女様の望みが、わたくしの望みでございます。」


 何でこの人…こんなに私に心酔してるの…本日お会いしたばかりですよ。目を覚ましてくれ。

 心の底からドン引きました。



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