ユーアーザ プリーンス オブ 〇〇〇ー
副題のネタがわからない人はすみません。
朝の散歩を終え、アレクシスさんが、エレイフの立場についてはカーライルさんへ話を通して検討してくれると約束をしてくれて、私はそっと胸をなでおろした。
あの、説明になってない説明を、もう一回今度はカーライルさんにしないといけないのは正直きつい。
そもそも打ち解ける発端は、エレイフの運命の女性という大爆笑案件なわけで。
話すに話せないし。
まぁ、大隊全体を積極採用はしなくても、一個人として立てた誓いは疑いようのない物だから。うまく扱って頂きたい。
何せ…
「部屋までついてこなくていいですよ。これから着替えますので。」
「では、警護のため、部屋の前に待機しております。何かございましたらお声がけください。」
「待機しなくていいですから。」
「護衛とは、そういう物でございますので。」
と、なぜかべったり侍ってる気満々だし。
私は決して侍らせたくはない。
しかも、他に人の居るお屋敷の廊下では、この口調だ。
あ、また鳥肌が…
「…エレイフ、貴方にも仕事があるでしょう。隊長としての仕事が。」
私はじろりとその顔をにらみ上げるが、いまいち効果はない。
エレイフはどこ吹く風で精悍で爽やかな笑みを浮かべるのみだ。
私はそっとため息をつき、頭を働かせる。
ただ去れと言われても、この番犬は去りはしないだろう。
初対面の時をちょっと思い出すなぁ。
「この後は朝食をとってから勉強の時間です。その間エレイフは自分の仕事をしていてください。お昼の後はマナーの時間ですが、日によって内容は変わります。昼食後に顔を出して、内容によってはお茶の時間までは仕事をしててください。それで、いいですか?」
「はい。委細承知いたしました。」
ちょっとだけ、わかって来た…気がする。たぶん。
エレイフはこう見えてきちんと順序立てて話されるのが好きなのだ。
最初に理詰めでぶったたいたのは間違いではなかったらしい。
「…面倒な人…」
「簡単な男よりはお役に立てるしいいことずくめですよ。」
「自己評価高くない?」
「これでも若くして出世した騎士ですので。」
「それもそうだわ。」
胡乱な顔で見てしまったが、言われてみればそうだった。
この人、出世街道まっしぐら、今を時めく若き大隊長様だった。
若いって素晴らしいね。
うんうんと頷いていると、エレイフがびっくりした顔で私を見てくる。
「なに?」
「アオ様が認めてくださってるとは思っていなかったので…」
おや、そうだったかな?と思ったけど、そもそも出会いが悪かったんだった。
「…嬉しいです。」
そう言って笑うエレイフに、私はひどく動揺した。
だって、その顔が、驚くほど甘やかにほころぶものだから。
思わず立ち止まり、しばしその顔を見上げてから顔を伏せ、ぐっと親指と人差し指で眉間を抑えた。
「え、今度はアオ様がどうしたんです?」
「ちょっと黙ってて、今無我の境地に辿り着こうとしてるから。」
「は?むがの…なんですって?」
ほんとちょっと黙ってて欲しい。
そして誰かテニスラケット持ってこい。
大型犬って甘やかしても良いものだったっけ。
ペットを飼った記憶がないからわからない。
逃げる思考は迷宮に入り込み、現実逃避を経てカオスへと突入する。
「アオ様?」
「…はぁ…」
「お疲れですか?」
「うん、まぁ、そうね。」
カオスから戻ってこない頭を引き上げ、エレイフを見上げてから、私はまた部屋へと続く廊下を歩き始めた。
勉強もマナーも頑張ってるのに、まためんどくせぇのが増えましたけど。
神様、私頑張ってるのでもうちょっとお手柔らかに願えませんか。
少女漫画パターンも、性癖ドストライク様の心臓負荷も、騎士の忠誠も、これ以上はもうキャパオーバーです。
できる事なら全部一度白紙に戻して、もう少し全体塩増量でお願いします。
喪女拗らせた人間が、この環境に耐えられると思うなよ?
心の底から真顔で空笑う私であった。




