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残念!運命じゃありませんでした!!


 今目の前には、第四大隊の隊長さん。

 近くで見るとずいぶんと大きい。


「た…隊長…さ…」


 混乱の中、捕まれた腕を何とか離してもらえないかと、口を開きかけたら、突然、目の前のその人が、がっくりとうなだれた。


「あの時の、早朝の女性…貴女だったんですね…」


 なぜか悲壮感で一杯な声が絞り出される。


「えぇと…はあ…」


 曖昧な返事を返した後、あまりにもこの年下の騎士が落ち込んでいるものだから、捕まれた腕もそのままに、じっと復活を待った。


 暫し経って、彼は悄然とした体で顔を上げ、私を見上げた。


「落ち着きましたか?」

「えぇ、はい。ご無礼をお許しください。」


 と言う割りには、私の腕は捕まれたままなんですけどね。できれば離してくれまいか。

 そう思っても口にするには、彼の様子があまりにも弱々しいので、何となく憚れてしまう。


「…私に…なにか?」


 迷った末に、自分から水を傾けてしまう。傾けてから、あ、不味かったかな。とか思ったけど後の祭りだ。


「はぁ…」


 ため息と共に下がる眉。

 人の顔を見て一体なんだそのリアクション。と、一瞬頭をはたきたくなったけど、それより早く、相手が口を開き始める。


「運命だと…思ったんです。」

「はい?」


 聞き違いか?幻聴か?

 それともこの男の頭がおかしいのか?

 私は眉を寄せて冷ややかに相手を見てしまう。


「以前、この林でお会いした時に、運命の人だと、思ったんです。」

「夢を見すぎでは」


 ゲロ甘ロマンチストな言葉に、思わずツッコミをすかさずいれてしまった。自分でも止める間もない位、思ったものがそのまま出た。

 仕方ない。

 だって、そんな夢見がちな言葉言われましても。


「厳しいなぁ。」


 苦笑する彼は、少しだけなにかを受け入れた様な様子で目を眇た。


「仕方ないじゃないですか。今まで何人もの女性を見てきましたが、どんな人もピンと来なかったんですよ。それが、この林でお見かけしたどこの誰ともわからぬ方は、弱々しくも愛らしい声で小さな肩を震わせたのに、次の瞬間驚くほどの足の速さで駆け去って行かれた。」

「今のどこで運命を感じた?」

「その全てに、驚き、心揺さぶられたんです。」

「だから、トキメキポイントどこだよ。」

「それが…」


 はぁ、と、またため息。

 私をじっと見てからつかれるため息って、めっちゃ失礼だと思うんだ。


「聖女候補様が、あの時の女性とは思いませんでした。」

「私を見てまたうなだれるなよ。失礼な」

「あれからずっと屋敷内の誰かだと思い、一人一人に仕事の一環として接触しながら確認して回ったと言うのに…既にお会いしていたなんて。」

「言葉も交わしていたのに。」

「そう!そうなんですよ!」


 くわっと私に数歩近づき叫ぶ彼。私、今心の声全部出てた?という事にやっと気がついた。

 やっべ。

 こっちに来てから私の口ゆるっゆるでは?

 女神様にも全部ぺろりと出てたし…。

 黙って聞いてあげてたつもりでいた私、大丈夫か。


「間近でお会いし、言葉も交わしていたというのに…不覚でした。なぜ、貴女なのか。絶対好きになれないタイプの方だと思ったのに。」

「え、マジで失礼では?」


 驚きのカミングアウトー!

 またついつい言葉が飛び出て突っ込んでしまった。でも、マジ失礼だと思うわ。なんなん?こいつ、なんなん??

 腹立つわー。


「女神様から頂いたこの美しく麗しく愛らしいボディのどこに不満があると!?」


 私は胸を張り、捕まれてない方の手の指先を、芝居がかった動作で自らの胸にそっと置く。

 巨乳ではないので、胸を張ってもそこまで大きく主張しないけど、美しい形の胸。柔らかく優しい曲線を描くウェストとヒップ。足はすらっとのび、小さな足は柔らかい靴がよく似合う。

 極めつけに美しいまっすぐに延びた髪と輝く菫の瞳。愛らしい唇、ツンと上を向く通った鼻梁に小さな小鼻。黒目がちの大きな目と、扇のようなふぁっさりまつげ。

 どこからどう見ても美しい。

 女神様特製のこの私だぞ!


「我、女神様御自ら手掛けてくださった美の集大成ぞ!!」


 机があったらバンバンやってたわ。

 許せぬ。まじ、許せぬ。

 女神様の作った体に不満なんて。


「お、落ち着いてください。聖女候補様」

「その呼び名もまだるっこしい。とりあえず、仮の名前はアオって事にしてるから今はそれで呼んで。それで?女神様の作品のどこにケチつけるものがあると?」

「え?あの、名前」

「質問に答える!」

「は、はい!アオ様!」

「様はいらん。女神様が、あの最高で至上で美しく麗しく優しく素敵な方に作ってもらったこの体。理想の聖女でしょうが。」

「見た目はそれは美しいですし、愛らしいと思いますけど…」

「思うけど?」

「アオ…は、年下の女性に初対面から負ける男の気持ちがわかっていませんよ。」


 私は首をかしげた。

 初対面から負けた?何に?私?

 覚えがないな?


「俺も半分は仕事で命令があってこちらへ赴いているんです。上層部はなぜか一刻も早い教会への移動を望んでいました。さすがに裏の理由は知りませんが、その方針のもと、こちらも多少強引でも、理不尽でも、アオを引っ張っていくつもりでいたんです。」


 それが…と、またため息だ。


「幸せが逃げるよ?」

「急に何ですか。」

「いや、あんまりため息つくから。」

「…ため息ついてそう言われたのは初めてだよ。」

「そう?」


 なるほど、こちらではため息つくと幸せが逃げるとは言わないのか。そうか。

 私は内心なるほどなと頷きつつも小首をかしげた。


「それはさておき。強引でもなんでも、17歳位の少女だと聞いていたのでね、丸め込める自信があったんですよ。それが、蓋を開いてみればとんでもない。17歳の少女だなんて、誰が言ったんだと思ったよ。」


 言葉を区切り、私を見据える青年。

 私も静かにその目を見返す。


「こうしてまっすぐ見つめても、恥じらいもしない。アオが少女だなんて、嘘八百もいいとこですよ。話し口も、言葉選びも、最初に送られた手紙の内容からして、全てがその手のひらの上だと気づいた時には負けていたなんて。」


 くしゃくしゃと前髪をかき混ぜて、心底悔しそうに顔をしかめている様子は、何ともかわいそうに思えてしまうから困ったなーと、苦笑が出る。


「それ、その顔ですよ。」

「?」


 突然突きつけられる指先。

 こらこら、人を指差すんじゃない。


「なんでこっちが年下の子供みたいな目で見られないといけないんですか。顔合わせをした瞬間からあなたの目には、俺という異性への関心も、年上の男性への憧れも、ちょっとのときめきすらも見えなかった。好みから外れていたとしても、少女であれば特有の揺らぎというのが見えるものなのに。」


 途中から憤慨しているような口調になっていく。

 いやすまん。

 かわいいな?


「どんまい」


 肩…には手が届かないので、二の腕辺りを力強くポンポンと、叩いてあげたら、今度は地団駄を踏み始める青年。


「くぅ~~~どんまい?の意味は知りませんが、すごく、年下扱いなのはわかりましたよ。ほんとにあなた、なんなんですか。」


 相当悔しいらしい。

 私を年下だと思って来たのになにかが違うと察している様子はちょっとばかり見てて面白い。


「それに、金遣いの荒い人はタイプではないので。」




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― 新着の感想 ―
[一言] 年下扱いに不満なエイレフと、アオの、会話や表情のやりとりが好きです。エイレフ頑張れ〜。
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