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私は議長私は議長私は議長…(自己暗示)


 楚々と朝食を楽しみ、食後の紅茶を優雅に飲み干しながら、そろそろこの無言空間に耐え切れなくなってきました。

 

 右を見れば無機質な赤。

 左を見れば凍てついた青。

 そして正面には、大人しく粛々と場に合わせていますよという顔をした騎士様。


 無言、しんど。


 そっとティーカップを傾ければ、芳醇な香りが立ち上る。こんなに美味しいのに。美味しいのに。楽しく食事を味わえない食卓に意味などあるだろうか。いや、ない。断じてない。

 私はカップとソーサーを少し自分から離れた位置にそっと置くと、ゆるりと顔を上げた。


「さて、何となくですが昨日のカーライルさんと騎士様のやり取りに関しては察しがつきました。」


 私が切り出すとは思ってなかったのか、騎士様の反応が少し遅れる。


「中央教会より頂戴しましたお手紙の内容が急な事もあり、わたくしどももすぐには出発する事が叶わないという点は、それほどまでにご考慮頂けない事なのでしょうか?」


 小首を傾げ、琥珀色にも見える透明度の高い瞳を見つめれば、少し困ったような笑顔が返される。女の子にはきつい返しはしづらいのだろう。ごめんね。見た目こんなだけどおばちゃん女の子ってわけでもないんだわ。


「カーライルさんも、無為に日々を浪費しているわけではありませんし、出来る限り急ぎ出発できるようにと鋭意努力してくださっております。わたくしが、旅にも馬車にも慣れていない為に、大変苦心され、準備してくださっています。そういう事を、エレイフ様にも考慮頂き、お時間を頂きたいと申し出ている由、ご理解は頂けないのでしょうか?」


 ここぞとばかりに名前をお呼びする私。ごめんね。おばちゃんこれでも社会で揉まれてきた社畜なの。

 こちらの言ってることはおかしいですかねと、じっと見つめる騎士様の顔。笑みを引っ込めたまじめな瞳が私を見返して来る。


 見れば見る程、正統派のかっこいい方だ。

 ただし、若い。


 うぅ…年々乙女ゲーの若すぎる年齢設定に心を痛めるようになっていった私の気持ちを慮って欲しいよ!って心底思う若さ。

 いっそ若さが憎い。


「聖女様のお言葉は最もでございます。しかし、準備に2か月はいささか長すぎではないでしょうか?」

「なるほど。カーライルさん、現在の進捗をお伺いしても?」


 交渉の基本、はじめは無茶な要求を突きつける。を、手順通り踏んだだけの我々に死角はないので恐れることはなにもない。

 右をちらりと盗み見れば凪いだ横顔。左を見れば氷解した瞳。


「はい。先日より聖女様のお召し物からお靴、夜着、香油など、身の回りで必要となる品をそろえさせている次第です。どの商会も予定よりも早くそれらを準備下さっています。全ては聖女様にご不便をおかけしたくないがためと、皆申しておりました。」

「それは、皆様に無理を強いているようで申し訳ないですね…」

「とんでもない。皆、したくてしている事でございます。」

「あとどれくらいで準備は終わりそうですか?」

「早ければ半月、場合によっては更に1週間程お時間頂くかもしれませんが、急ぐことのできない分野がある事も、できればご承知頂ければと…」

「急げば質が落ちるのは道理。もちろん騎士様もご存じでいらっしゃいましょう。」


 左隣の話をうんうんと聞き、正面へと、また視線を戻す。


「ご連絡差し上げた日数よりは早く出発できそうであることはご理解頂けたかと存じます。この日数でも、ご納得いただけませんでしょうか?」


 色んな人がすごい勢いで私の身の回りのものを準備しているのは事実。調べればすぐわかるほど派手な散財をしているはずだ。

 ドレスだ靴だと送られて来ているのは、向こうに持っていくからだし。…一部、明らか前々から作ってあっただろうものまで送り込まれてはいるけど。

 そうしたもの以外にも、パジャマとか下着とかは新品のものを箱の中に詰め込んでいた。

 今朝ずらりと並んでいた香油なんて、全部新品ぴかぴかだった。あれも持っていくために用意させたんだろうなと思うし、このお屋敷で、いらないです。って断って来た淑女として必要な品々を、これ幸いと用意されていて…くっ…過剰にはいらないってば。お高いんでしょ!?って内心思うくらい色んなものを、しかも、質のいい品々をそろえているこの事実につけるいちゃもんなどありはしない…はずだ。

 それに、時間稼ぎしてるのは、私のお勉強の都合だなんて、誰も気づきはしないだろう。


「ディオールジュ殿が聖女候補様のため、身の回りのものを急ぎ準備されているのはわかりますが、物によっては王都で揃えられても良いはずです。」


 おっと、敵もうまいとこをついてくる。

 だが、カーライルさんという分厚い壁を突破することなど不可能だ。


「聖女様にお使いいただく物に、安全でないものは混ぜられませんね。」

「王都で揃えるものが安全ではないと?」


 目を眇る騎士様に、胡乱な気配を感じ、ヒヤリとする。左に座るその人は、挑発するように笑うだけだ。

 なんつーけんか腰対けんか腰か。


「信用の問題でございましょう?」


 むりくり言葉を割り込ませ、二人の火花散る視線をぶったぎる。けんかしてどうする。けんかして。


「この土地を任されて長いからこそ、カーライルさんは安心して皆さんに仕事を頼まれているのです。無為に憤る所ではないかと。」


 そろそろお嬢さん喋りがゲシュタルト崩壊。


「わたくしは、常に聖女様の安心と安全を第一に考えている次第でございますれば。」


 ほらね。この分厚い私への傾倒ぶりを見たか。こんなカーライルさんが、品質以上に安全を考えれば、自分の管理下で一番安全なものを揃えるに決まっているのだよ。


「何も、中央教会へ行かないと言っているわけではないのですから、そこまで意見をぶつけ合う必要性はないと思うのですが…あなた方にはそうせねばならない理由があるのですか?中央教会騎士団第4大隊の大隊長様」


 じっと見つめる先で無言を貫いたのは数秒。騎士様は降参というようにへにゃりと弱った笑顔で諸手を上げた。



「まさかこんな年下の美しいお嬢さんに言いくるめられるとは思いませんでした。」


 楽しげにくつくつ笑いそう言った彼は、少し悪い顔をしていた。






40話…!

最初こんなに書くことになると思っていなかったので、自分自身続けられていることにビックリです。

お読みいただきありがとうございます。


長くなってきて書きたかったことが置き去りになってたりする箇所があるため、整理のために次の更新まで少しばかりお時間いただきます。

数日お待ちくださいませ。



また、もしよろしければ評価、ランキングなどポチっといた抱ければ幸いでございます。

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