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薄氷の美人に会うの早すぎではないかな!?


 その日わたくしは奇跡にあうこととなりました。

 おお、何と、何と光栄なことか。栄誉なことか。

 他の何処でもなく、この教会へ降り立たれるとは…神よ…世界を支える聖女様を、必ずやお守りすることをここにお誓い申し上げます。





 あー落ちたなぁ。と、思う。

 すんごい尊い麗しい存在に会っていたのに、すごくかるーく送り出されて、何かこう、いと高き場所から落とされたって感じがすごい。

 あふー

 このまま永眠してぇ。

 あぁ、でも、ここすごい地面固い。だめだ。却下しよう。永眠し添い遂げるならおふとぅん様がいい。あの包容力と共に世知辛い現実から隔絶されていたい。

 悲惨な現実を覚悟しながら、私は固い場所からもそりと上半身を起こした。

 寝そべってたのは固いまっ平らな石床で、私は猫のように丸くなって寝ていた。両腕を突っ張れば簡単に上半身を起こせたのでホッとした。死んだ反動とか無いようだ。

 何で死んだか覚えがないが、やっぱりなぁという気持ちがあるので、たぶん過労死かなって思うんだー。社畜だった意識はあるのだよ。

 うーん と、両手は床につけたまま背中をそらせて上に顔を向け背骨を伸ばす。

 やたらと美しいステンドグラスを通して降り注ぐ光が眩しい…いや、ほんと、やたら眩しいな!?

 日光か。日光がそちら側にあるのか。

 今は朝なのか夕なのか。ねぇどっち。角度的に昼ってこたぁないでしょう?

 のびの姿勢をゆっくりと戻しながら眩しさを避けるように床を見つつ、確かめるように周囲を見渡していく。

 まるで教会…いや、ガチの教会かな?

 あーパイプオルガンだ。

 厨二心くすぐるアイテムだよねぇ。パイプオルガン。どんな音がするんだろう。

 正面のステンドグラスの柄はわからないけど、左側にパイプオルガン、それからなるほど私は階段三段分高くなってるとこに転がってたのか。

 そして振り返ると、たくさんの長椅子…私の真後ろにはまっすぐ通路があってね、何と、驚愕に目を見開いた男性が、入り口を観音開きに開けた状態で凍りついていた。

 いやーまいった。

 なんにもわからないのに既に村人Aに出会ってしまったんですけど。いや、訂正です。村人Aとかそんなレベルじゃない。攻略対象キャラですねわかります。だってすんごい美形ですもんね。氷を思わせる淡灰色の長い髪を緩めに編んで肩にかけるなんて、マジ美形の特権ですよ。お兄さん。

 それにしたってめっちゃ驚かれてるんですけど。あーもっかい寝たらダメかな?

 だめだな。

 でもここ教会で、私は聖女として送り出されたわけだし、私はあの麗しの女神様を信じるしかない。大切にするって…いって…くれたし?やだ凄い照れるー!

 女神様美しいよ尊いよ。

 その女神様が私を大切にするって言ってくれたって事実だけでご飯何杯でも行けます。あれ?はっきりそう言ってたっけか?うーん…記憶がふんわりしてるけどなんかそんなこと言ってくれたしお声は美しかったので大変ハッピーです。


 神へ感謝しかない。


 私は麗しい姿へ想いを馳せながら男性に体を向けつつどっこいしょと立ち上がった。初対面で背を向けるのはさすがに心証も悪かろうて。

 男性と目が合うと、既に大きく見開かれている目が更に開き、口なんて筋肉ゆるっゆるになってしまったの?かっぱーって開いてますよ。目と口の限界に挑戦中です?無茶苦茶美形なのに勿体ないことになってますよー。大丈夫ですかー?

 そんな風に思うも、なんて声をかけたらいいかわからなくて少し男性の爪先の床に視線を落としてしまった。うっ目をそらしてしまった。違うんです。決してやましいわけではないんです。信じてください。お願いします。お願いします。

 ゆっくりと視線をもう一度上げると、男性もおろおろとしているのがわかった。

 たのむ、美形のお兄さん、できれば声をかけてくれ。

 言葉が通じなかったらと思うと大変怖いのだ。

 このままでは話も進まない。

 私は一歩、二歩、と、ゆっくり階段を降りてみる。すると男性も、恐々と私に歩み寄り、通路のちょうど真ん中ら辺でお話しするのにちょうどいい距離までたどり着いた。


「聖女様、尊き御身、わたくしが必ずお守りいたします。」


 男性がおもむろに両ひざをつき、祈るように頭を下げてきた。

 私はただひたすらぽかぁんとしてそれを見てるしかできなかった。


 女神様の世界、女神様に似て急展開では!?

 



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