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貴族の事はよくわからんので心臓に悪い


「そういえば、アオ様は乗馬はなさらないので?」

「へ?」


 乗馬?

 いきなりなぜ?と首をかしげると、アレクシスさんも少しだけ首を傾げた。


「土地の分析等や王都の配置について調べようとされているということは、状況によってはご自身の足で逃げ出すことも考えている…と、思ったのですが、違いましたか?」


 私のリアクションにアレクシスさんは眉間にうっすら皺を寄せた。そうでないなら解せぬということだと思われる。


「場合によってはそうする必要はあるかなと思っていますが…それと乗馬…?」


 関連が掴めず私も眉間に力を入れてしまう。

 何かあれば、自力脱出もやむ無しと思うが、それが上手く行くかは自信がない。


「…アオ様、まさかご自身の足だけで逃げられるとお思いですか?」


 眉間の皺がまた少し深くなる。

 んんん?わからない。


「女性の足で出せる早さも行ける距離もたかが知れています。自力で馬に乗れる様になっておいて損はないかと。知っていれば厩舎から馬を奪って逃げる事も選択肢の一つとなりましょう。」

「あぁ、なるほど。」


 私の常識では馬何てそんなにいるもんじゃないけど、こちらでは馬が通常の移動手段。奪って逃走する事を考えるのは自然な事か。

 土地勘あっても自力じゃ何日歩き続けることになるか…というか、そんな長距離を自力踏破できるかも謎だ。

 さすがアレクシスさんである。


「ありがとうございますアレクシスさん。どうも馬の存在が身近になかったもので、意識が及びませんでした。」

「馬がお嫌というわけではないようで安心いたしました。」

「嫌かどうか…は、触れあってから考えます。そもそも私、馬を直接見た事が無いので。」


 私は苦笑した。

 そういえば、私はこれまでの人生、動物とはさほど触れあってきていない。

 実家にペットはいなかったし、自分がペットを飼う様を想像したこともない。飼いたいと思ったことも…なかったなぁ。

 まぁ、今後の私の人生がかかっているのだ。好きか嫌いかではない。乗る。そう、嫌いでなければ何でも良い。だから嫌わない努力をしよう。

 私はまた一つ心に留め置く。


 それから他にもメモの内容について検討し、馬の事もだけどこの世界の感覚と照らし合わせて足りない部分を補ったりなんなりしながらやっぱり出発までの時間を引き延ばした方が良いという結論に至った。

 地理を覚えるとか、もう少しマナーの基礎を身に着けるとか、そういう事の前に一番の問題は…馬に、乗れるかどうかだった。


 昔の私だったら、たぶんかなり時間が必要だったと思う。

 けど、この体はどうなんだろう?

 女神様のおかげなのか、それとも単に堕肉が無いからなのか、この体は運動するのに私が記憶している程苦労しない。もしかしたら…とも思うけど、自分がどれくらいこの体を動かせるのか、自分でもわかっていないから不安だ。


 そういう話も、既に私が死んでいるとかそういう事を伝えてあったおかげで不安だという気持ちを話すことができた。それに対し、最もであるとアレクシスさんは納得してくれ頷いてくれる。

 あぁ、過去に決断した私、マジグッジョブ!


 なにはともあれ、やってみないとわからない。けど、長くは引き延ばせないだろうと一緒に考えてくれるその横顔にちょっとだけ頬が緩みそうになる。今はシリアスな場面だから、不謹慎不謹慎。と、心で唱えるけど、やっぱり嬉しい。カーライルさんだと申し訳なさが先に立つのに不思議なものだ。


 と…そういえば、メモの他に、聞いておかねばならないことがあったんだった。


「アレクシスさん」

「何でしょう?」

「聖女の後見人の話なんですが…」


 切り出してみたが…はて、何て言おう?


 見切り発車で思い出した単語を口に出してしまったものだから若干テンパる。

 言い方間違えると、私カーライルさんにおもわれてるの~的なイタイ感じになりかねなくない?いや、でも、カーライルさんのあの感じをよく知ってるアレクシスさんなら別段…うーんだけど…と、続けるべき言葉に悩み始めたのも束の間。普段から特段柔らかさもなにもないアレクシスさんの目が冷え冷えとしたものになっていくのがわかった。


 え、なになに。

 何でそんな冷えきったなにかになるの???

 若干…いや、大分…いや、心底ものすごく怖いんだけど!!


「…あ…アレクシスさん?」

「何でしょう?」

「何か気に障ること、言いましたかね?私…」


 どこら辺が触れてしまったのか、全くもってわからないけど、どどどどうしよう!?


「いえ、どうぞ続けてください。」


 平坦な声はいつも通り。

 けど、何か…何か…違うよね!?

 若干涙目になりながらも、話題の元になった人に意識を集中することにする。


「あ、あの、カーライルさんがっ」


 しどろもどろに説明を試みる。

 まままままずは状況説明をばっ。


「その、後見人になってくれるというようなことを言ってくれたんですが保留にしてまして。」


 てんぱる私。

 まだるっこしい言い方になっている!なっている!!けど!普通に説明する方法がわからない!!


「保留?」

「と言いますのも、この国の政治的な部分だとか、貴族のパワーバランスだとか、教会関係者の中の発言力だとか、そういう事は全くわかってないので、そのままお願いするのはいかがなものだろうかと愚考致しまして。」

「カーライルよりも地位ある方について欲しいとお思いですか?」

「いや、地位とかそういうのは何でもいいんですけど、私の事だけ考えたら、よくしてくれるカーライルさんにお願いするのが一番安心だと私も思うんですが、いかんせん…面倒事とセットな事は明々白々で。これ以上はどうなのかなと思って…」


 一生懸命口早に話したが、だんだんと語尾が小さくしぼんでしまう。


「後見人なんてなって、カーライルさんに大きな迷惑がかからないかが、心配なんです。」


 一般人がそんな心配を口にするなどおこがましいとも思うのだけれど、これ以上は…とも、思うのだ。

 既に十分よくしてもらっている。

 お屋敷の中もとても居心地が良い。

 でも、後見人になってもらって本当に良いのか?何かあった時の逃げ場所をこの屋敷にと考えて良いものなのか?それは、とても勝手なことではないのだろうか?

 カーライルさんに何かあれば、このお屋敷の人たちひいては周辺住民にも影響が出るのではないだろうか。

 私にそこまで背負う事など到底不可能だし、その可能性がある人を巻き込んでいい物なのだろうか。

 とかなんとか色々な可能性と言葉が頭をぐるぐる回る。


「だから、アレクシスさんに、カーライルさんの公的立場がどのようなものかを、教えていただきたいんです。」


 そこまで口にしてやっと、私は顔をあげた。

 冷たい視線を思うと、動きはぎこちなくなるけど、お願い事をしているのだから、しっかりと顔をあげなければ。


 見上げた赤い目は…良かった…いつもの凪いだ色をしていて、私は心底安心したのだった。


 良かった…





予告より話が延びてて新キャラいまだ出ず。

今しばらくお待ちください。



よろしければ、ランキングよろしくお願いします。

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