互い違いの片鱗
「な、な、顔を上げてください。謝らないでください。お願いですから。」
カーライルさんが頭を下げるのにびっくりして、私はわたわたと腰を上げた。
「あの、私、混乱していて、どうやってこの部屋に移動したのかとかがさっぱりで。その辺りからちゃんと、情報整理、しませんか?」
何とかこの場の目標値を設定し直させて、謝罪をやめて頂かねば。と、必死の提案はうまくカーライルさんのもとに届いた様で、カーライルさんは顔を上げてくれた。
「えっと、私が女神様とお会いしたあと、どういう状況だったんでしょう?」
問いかける私の前で、カーライルさんとアレクシスさんが互いに一度、目くばせしあった。
「順を追って互いに確認していった方がよろしい様ですね。聖女様も、わたくし共も」
だからそう言ってるではないか。
「まずは、アオ様からお話を伺わせてもらうとしましょう。」
なぜ私…?
「教会にいらして、アオ様は奇跡をおこされました。と言っても、普段からアオ様は神を呼ぶのを自然と行われておりますので、あまりそれを特別視されていない様ですが。」
「一応ご説明しますが、神へ届く祈りというのは、何万人に一人の特別な者が人生で一度起こせるかどうか。そういうものなのですよ。」
んんんん!?
え、うそ…やん…?
そんな頻度低いの?????
「で、でも、カーライルさんは神様にご指名を受けて、この教会をお任せされたのでしょう?」
他の教会も神様のご指名で管理者が決まっていると聞いた。
「お呼びして応えて頂ける事と、神の意思が我らに降ろされるのでは、大きな隔たりがあるのですよ。現に、わたくしは日々神々への祈りを怠ったことはございませんが、祈りが届いたことはございません。」
断言されて、思わず、顔を両手で覆って膝に突っ伏してしまった。
なんやて。そんな。嘘やろ。まってーな。
似非関西弁で突っ込んでしまうくらいには、自分の異質さに怯えが止まらなくなっている。
「あの…私…呼ぼうとして呼んでるわけじゃ、ないんですよ…?」
そろりと顔を上げて二人を伺うと
「知っている。」
「存じております。」
と、同時に頷かれた。
ご、ごぞんじでしたかー…あははははははは…
ご存知だったところで、奇跡は奇跡。
「それで最初の頃お屋敷や近隣の方が私を拝みにいらしてたんですね。」
肩を落として、半分確認、半分確信の気持ちで口にした。
「しかし、まさかいと高き至高の御方にまで祈りを届けられるとは、思ってもみませんでした。」
「歴史書によれば、一番最近で彼のお方にまで祈りを届けたのは68年前の神子アラセナ様の命を賭した舞であったはずだ。」
「神子さま?聖女様とは違うんですか?」
「それについては後日授業で詳しく話しますが、神子と聖女は別物です。」
わからない…わからないけど、とりあえずそこは一旦置いておこうというアレクシスさんの言葉に頷いて、私は話しを続ける事にした。
「しょっちゅうしょっちゅう神様とお会いしてるのがおかしい事はよくわかりました。」
「そのような言い方をしないでください。聖女様。それは素晴らしい事なのですから。」
カーライルさん、フォローをありがとう。。。
しかし、おかしい事はおかしいのだ。まぁ、聖女としてお呼ばれして転移してきてる時点で、もう常人ではないんだけども。
「まぁ、アオ様の場合、神をお呼びしている事よりも、神と会話ができる事の方が、私としては驚嘆に値する事ですが。」
赤い目が、私を探るように見据える。
「おかしいですかね?神様達結構おしゃべりがお好きみたいですが。」
会話したらいけなかっただろうか?と、疑問に思った。
光の貴公子なんかは、接待してもらう方が好きそうだけどな?
「アレクシス、またその様な物言いをする…」
珍しくもカーライルさんが言葉を崩している。普段の生活だと二人の距離感が全然わからないけど、お茶の時の呼吸のあいかたと言い、この口調といい、以前から仲の良い相手か、気心の知れた相手なのかもしれない。本当に、普段の様子じゃわからないけど。
ええ、決して私が鈍いわけじゃないよ。
「普通の人々では、神々のお姿までは見ることが叶いません。そして、お言葉も、はっきりとした形を聞き、覚えている事は困難なのです。」
「なるほど…」
私が女神様の形がよくわからないといつも思っているのと同じ事かな。でも、言葉は交わせるし、触れてももらってるけど。
記憶できないというのも、確かに、時間の経過によって、女神様と交わした言葉や存在の外郭が溶けてあやふやになっていってたので経験済みだ。
あれ、でも…
「先日一緒に食事をしましたよね?」
「お恥ずかしながら、我々にははっきりとしたお姿は見えておりませんでした。光をまとったとても美しい存在であったとは記憶に残っておりますが。」
「じゃ、じゃあ、声は?」
「御言葉も、我々にははっきりととらえられませんでした。お言葉を賜られている事だけはわかりましたが。」
「一つ、何かをお約束されて帰って行かれた事だけはわかった様に思いましたね。」
「約束…あ、その日は…確か…『料理長の料理への想い、祝福してやろう』って帰って行ったような気がします。」
息を飲む音がした。
それとは別に、赤い赤い目が、鋭い眼光を向けてきた。
「アオ様、それは、祝福は、確かになされたということですか?」
「えっあの、えっ??」
強い威圧感と、驚くほど怖い顔でこちらを見るアレクシスさんに、私はきゅぅ…と、体を縮めて手を握りしめた。怖い。と、初めて思った。
「アレクシス、アレクシス落ち着きなさい。」
胃が死ぬほど縮む私を前に、カーライルさんは結構ぞんざいにアレクシスさんの肩をパンパンと叩く。
「聖女様申し訳ありません。アレクシスは、魔法の研究の他に、神の恩寵や祝福に関する研究を行っているもので、この通り、研究バカなのです。」
「…」
研究バカ…なかなかの罵倒をさらりと笑顔で吐きました。
カーライルさんが…?カーライルさんが…??
ギャップが過ぎて、頭痛くなっていた。アレクシスさんも頭痛の原因です。
何という事でしょう。
そんな変化はいらなかった。
「えーと、はい。とりあえず、よくわからない事だけわかりました。話を進めましょう。」
「それがよろしいかと。」
私の社畜スキル発動。
不穏な空気を出されても説明責任だけを果たし去る。
言語をご理解いただけないのは、相手が悪い。
私は手順に則りきちんとやりましたよーと、しらっと周りにアピールして心を無にして帰るのみ。
たとえ上司が気分によって人の言葉を解せる人類か、解せない猿のどっちかに変わってしまう理不尽極わまりない日替りガチャを毎日実施していても関係ないのだ。話を覚えてないのは人類になれなかった上司が悪い。
いや、今目の前にいるのは頭も良ければ顔もいい男性なんですがね。
そして、ここまで会話を進めてやっと、私でも理解した。
こと、神に関するあらゆる物が、私と彼らで共有されていなかったという事実。
「ようやく少しわかりましたが、もっとちゃんと、お話ししないといけなかったみたいですね。」
ぬるくなったお茶で喉を潤す。
どこから話そうか。
そう思った時に、神様の言葉を思い出した。
『安心して小さき者たちに助力を乞うが良い』
神のお墨付きなら、何も不安に思う必要はきっとないだろう。
だから、私は、私の話を始める事にした。
私の事を、ちゃんと知るために。
「長くなりますが、聞いていただけますか?ただの人間が死んだ話を」
段々一話一話が伸びすぎて来たのでいくつかに話を切り分けてあげているのですが、読みやすい長さってどのくらいですかね?
あまりバラバラでもよくないのかなと、なるべく最初の頃と大きく変わらない様に2千~3千位で切って、4千の時はたまにそのまま上げていたり。。。
良ければご意見頂ければ幸いです。
むやみやたらと話数が多いのもクリックが面倒なのかなとも考えてしまう優柔不断さ…