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聖女の鼻の粘膜の強さに感謝!


 胸というか、もう、いろんなものがいっぱい過ぎて、その輝くお姿が見えなくなっても私はしばらくぼーっとステンドグラスを見上げてることしかできなかった。

 頭が働かない。

 次第に喜びでぽわぽわっとなっていく頭の中。


 ゆるゆると視線を降ろすと、手の中にはころりと紫の宝石が5粒。


 願い事がある時に呼ぶようにと言ってくれた。

 また会いたいと願っていいと。

 ふわふわの手で、また撫でてくれるだろうか。


 私は喜びをかみしめるように、ぎゅっと手の中の物を抱きしめた。


「…アオ様…」

「…聖女様…」


 そこへ、私の様子を伺うような響きの声が聞こえた。


 はっと数回瞬きをしてから顔を上げると、右からアレクシスさんが、左からカーライルさんが、私の顔を覗き込んでいてびっくりした。


「えっあっきゃぁっ」


 驚きすぎて、反射的に半歩後ずさったら、オーノー!ここにきてドレスの罠っ!

 裾を踏んずけて後ろへ重心が倒れていく私。

 でも、手の中には女神様からもらったすごくすごく大事な物。こんな小さな宝石、落としたら見つからない。絶対隅っことかに転がってしまう!消しゴムも、落とすとびっくりするくらい遠くに落ちてたりするもんね!?

 それくらいなら、後頭部の一つくらい、犠牲になったところで…と、手をぎゅっと握りしめた。

 視界の端に、黒と銀の糸が翻る。

 左腕と背中にしっかりとした手の感触。

 パサリと、額に自分の前髪がかかり、倒れる前に体が止まった事に気が付いた。


 視界に映るのは綺麗に輝く赤と青。


 驚きと混乱と焦りと恥ずかしさとなんだか色んなものがごっちゃ混ぜになって、頭から煙が出そうな位だ。

 周りのざわめきが耳に戻ってきたけど言葉としての意味は全くわからない音の羅列でしかない。

 あわあわと自分が何かを言葉にしてたように思うけど、それすらよくわからない。

 周囲の情報が把握できないまま、なんだかすごくもみくちゃにされた気がする。

 もみくちゃにされながらも、黒いさらさらの髪と柔らかい銀の髪が、私の凄く近くにあったような気がする。



 そんなこんなでてんぱってる間に、私は、知らない部屋にいた…。



「ここ…どこ…」


 呆然と呟く。

 私は三人くらい座れそうなソファーの上で両手を握って座っている。

 目の前のテーブルにはお茶とお菓子が用意され、テーブルを挟んだ反対側にもソファーがある。

 左側を見ると、少し先に大きなどっしりとした机があって、よく物語で出てくるような執務室の机のような体であった。

 私の後ろには窓があるみたいだけど、カーテンがピッチリ閉められていて外は見えない。

 木の茶色と、深い青を基調としてまとめられた部屋は、冷静さを呼び起こして落ち着かせてくれた。


 それにしても、ほんとにどこ…


 お茶とお菓子は食べていいのかな。

 その前に、手の中にあるものの安全を図りたい。

 小さいものだしなくしたりしたら大変だ。


 再度キョロキョロと部屋を見渡していると、カシャンと、音がして、それから扉が開いた。やって来たのは、カーライルさんと、アレクシスさんだ。


「聖女様、良かった。落ち着かれましたか。」


 ほっとした顔を見せてくれるカーライルさん。その後ろでアレクシスさんが扉を手早く閉めると、即座にカーライルさんが鍵を閉めた。

 さっきのカシャンは、扉の鍵の音だったみたいだ。


「あ、はい。なんかすごく混乱してしまったみたいで、すみません。」


 ペコリと頭を下げ、上げると、カーライルさんが困ったように微笑んでいた。


「いいえ、それはわたくしの落ち度でございます。大変混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。民たちには、後日触を出すと帰らせましたが…聖女様にはご負担をかけてしまいました。」

「ふれ…?」


 とりあえず、ふれ についてもわからないけど、ここまでの流れがさっぱりと私にはわかっていないわけで…首をかしげるしかない。

 そして、手汗をかいてきた気がするから、手の中のものをめっちゃなんとかしたい!


「えぇと、ごめんなさい。混乱してて何が起きたかよくわかっていないんです。まずは整理をしたいんですが…」

「それもそうですね。」

「あと、何か小さなものを入れられるものはありませんか?」


 安全かつ、即座に、この手の中の物を移動したい。手汗が気になる。ほんとに気になる。

 お二人が私の方へ歩いてきながら、私の手に視線を注ぐ。

 不自然な位両手でぎゅっと握っているのだから、まぁ、気になりますよね。


「そういえば、ずっと手を握られていらっしゃいましたね。」

「何を握られておられるのですか?」

「女神様から、小さな宝石?みたいなものを頂きまして…あ、女神様というのは、私がそうお呼びしているだけで、えーっと確か、主神様だと神様が言ってた方で、さっきその、色々とあってですね。」


 わたわたと話す私の言葉に、二人がぎょっとした顔をする。

 私はなんやかんやと二人を驚かせてばかりな気がする。そういえば…

 えぇと、なんて話したらスムーズなんだろうとうんうんと考えるけれども、そもそも私も大分混乱しているわけで。まずはお互い落ち着かねばならぬのでは。と、思い至った所で、意識を二人に向けると、驚きから解放されたアレクシスさんがため息をつきながら歩み寄ってきた。

 テーブルをぐるっと回って私の横へ来ると、胸のポケットにあったハンカチをしゅっと抜き取り、広げ、私のつま先辺りに片膝をついたと思ったら、私の膝の上へハンカチを綺麗に広げた。


 一つ一つの動きがきっちりしているアレクシスさんの全てがかっこよすぎて、ハンカチよりもその美貌にくぎ付けになる。


 う…うわぁ…

 死ぬかもしれない。

 心臓が止まるか口から出るか吐血するか。

 相変わらず鼻血を出さないでいられているので、女神さまから頂いたこの体、鼻の粘膜の強さにめっちゃ感謝だな!

 女神様の前でも鼻血を出さなかったことを思うと、本当に本当に、強靭な私の鼻よありがとう!!




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