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誤解と初めて話す事



 お勉強が始まりました。

 アレクシスさんとのお勉強です。


 この美丈夫から、あの美声で教えをこうなんて、ヤバイのではと思っていたが、案の定、声が、ヤバイ。

 ほんとにヤバイ。

 しかし、一般常識や、神様のこと、貴族社会、王権等々、興味深い話のオンパレードで、声ににやにやしつつも勉強ははかどった。やっぱり興味持つってのは大事な要素だなぁ。しみじみと思う。

 問題は、爵位がいまいち覚えられない事かな。ややこしや。

 爵位どころか、部長課長なんたら長とかすらよく覚えてなかった私です。キリッ

 いやだって、関係ない部署の人の顔とか名前とかほぼ記憶してないし、関係各所は覚えた人同士の関係性で覚えてて、もう役職を覚えるの放棄してたんだよ。仕方ないんだよ。苦手な物は苦手なんだし。


 アレクシスさんに服をもらった日から、私の日課は朝食前の軽い運動、お勉強の時間は朝食の後の午前中のみ、午後は自由時間という感じで、アレクシスさんは午後は研究のために引きこもる…と、予想していた通りになった。驚いたのは、毎朝私の運動にアレクシスさんが付き合ってくれること。

 毎回ストレッチをして走ったり、私が何かを思い出しながらいつもと違う事をしてても特に口は挟まれなかった。

 それはどういうものですか?って質問はされたけど。

 そんな感じで、アレクシスさんは午後は部屋に行ったきりだったので、私はこれ幸いと勉強部屋に何冊も本を持ち込んでひたすら好きに本を読んでいた。


 背表紙からじゃ本の詳細がわからないから中身が難しいものもあって、もっと基礎の本はないかと書庫と勉強部屋とを日に2回ほど行き来したりはあったけど、基本、勉強部屋にいた。

 知りたいのは魔法。

 私でもわかる本を読み漁った結果、魔法でどんなことができるのかといえば、文字を刻んだ石に魔力を込めて一定の役割を果たさせるというのがこの国の魔法の形態らしいとわかった。

 呪文唱えて炎ごーっとだすとかじゃないのかー。ちぇー

 って思ったんだけど、でも、技術って言うのは日々進むものだし、調べればかっこいい魔法の使い方がわかるかも知れないと、諦めずに本を漁っていった。

 どうせなら、私も使えるようになりたい。

 思ってたのとちょっと違ったけど、魔法は魔法だ。わくわくする事に変わりはない。


 そうして魔法に関する調べものをしたり、間に一休みとして神話の本とか、伝記小説みたいなのとか挟んだりして数日たった頃、いつもなら誰も入ってこない午後の勉強部屋にアレクシスさんがやって来た。

 ノックもなく、ドアを開けて固まってしまったアレクシスさん。私が居るとは思ってなかったんだろう。

 私も、アレクシスさんが来るなんて思ってなかった。


 というか…

 ねぇ、凄い油断していた私を叩きたいんだけど!


 勉強部屋には、勉強のための木製の机と椅子がある他に、窓際にお茶ができるソファーとテーブルがある。

 私は二人掛けソファーの方で、座面に足も乗っけて体操座りに近い姿勢で膝に分厚い本をのせて読んでいたのだ。背中を預けているのは肘掛である。お行儀悪すぎる姿勢。

 その上、靴を脱いでいるんだなぁ!

 前に予想した通り、この国は足をだね、特別な間柄でしか見せたりはしない文化なのですよ。

 あー詰んだ。

 アレクシスさんとの関係詰んだ。

 ド性癖様との楽しいお勉強ライフよ、さようなら。

 はぁ…

 深いため息が聞こえ、沈み込んでた悲しみから意識を浮上させる。しかし、緊張で体はかっちこっちに固まったままだ。


「アオ様、できれば靴をお履きください。」

「あっはっはいっっ!」


 アレクシスさんは、扉を閉めながら然り気無い動きで私に背を向ける。足を見ないようにとの気遣いが私にもわかった。

 なんて紳士…。

 私は、相も変わらず声を上ずらせながら返事をしてわたわたと靴を履いて、一度立ちあがり、スカートの裾を直し、座り直した。開いてた本は、しおりを挟むのも忘れて閉じて抱きしめるような形で握りしめた。

 今日は固めの生地の紺色のワンピースを着ている。裾の白いレースは慎ましやかで、ウエストに幅広のリボンをぐるっとまわして背中で結んでいる。

 この聖女ボディじゃなかったら絶対着れないウェストへの挑戦だなっていつも思う。


「お、お待たせ…しました…」


 つい小さくなる声。

 俯いちゃう目を何とか上げて、アレクシスさんを見ると、ゆっくりと振り返り、こちらへ近付いてきた。

 視線が私と、私の手元と、机に平積みした本の山に移動し、また私を見た。


「アオ様、そちらに積み重なっているものは…お一人で読まれていたのですか?」


 微かに傾いだ頭の動きに合わせてサラリと髪が揺れる。美しすぎか。


「えっと…はい。この部屋は、人の出入りが無いので、ずっと気になっていた書庫から持ち込んで読ませていただいてます。」

「アオ様は、学ばれるのがお好き…なのですか?運動についての説明の際も、私にわかる様説明の仕方を考えてくださっていた様に感じておりました。」


 赤い綺麗な目にじっと見つめられる。

 そういうのは、得意じゃない。正直やめてほしい。じっと見ないでぇぇ。

 しかし、疑問を投げ掛けられているのだ、そういうわけには行かない。

 手に持っていた本を更にぎゅっと握り、質問の意図を探る。


「もといた場所でそれなりの教育を受けられていたご様子だと、この数日間で感じておりました。お年に比べ、勉強の際の質問は実生活や経済観念を確認した上でそれに即したものばかりでした。」


 いや、それは、私の年齢が三十路を越えているせい…。見た目ハイティーンの子供と比べれば、倍は違うんだ。

 騙しているようで居心地が悪い。

 こっちに来た経緯は話してあるけど、私は、個人的なことを話したことはない。カーライルさんからその内容を恐らく聞いてるだろうアレクシスさんだけど、それを知る由もないだろう。


「アオ様は…」


 何を聞かれるのか、怖くてぎゅっと眉間に力が入ってしまう。何とかアレクシスさんを見上げているが、鼻先や頬、口、肩と…視線が揺らめく。


「もとの世界へ帰りたいと、お考えですか?」

「へ?」


 ぽかんと赤を見上げた。

 もとの世界へ…?


「それは…考えたこともありませんでした…」


 呆然と声を出した。


「ではなぜ?」

「?」


 聞かれる言葉の意図がやっぱりわからない。

 コミュ障ってほんとにキツい。


「帰る事をお考えでないなら、なぜ魔法や神話、過去の聖女様の記録をお読みなのですか?」


 言われて、積み上げた本を見る。


 神話は気晴らしに。ヲタク趣味の範疇だ。悪魔だの天使だの巨人族だのなんのかんのとヲタクとして昔から大好きだ。

 過去の聖女様の記録って…これ、伝記物とか国の成り立ちの物語じゃなかったのか。それは驚きだ。気づきもしなかった。神より恩寵を賜りうんぬんってあったなぁ。話のメインそこじゃなかったけど。

 魔法も興味本位である。だって、憧れの魔法だよ。


 でもそうか…人の居ないとこで神を知り、聖女を調べ、魔法で世界を渡ろうとしてるように見えるチョイスになってしまったと。

 うおぉっ偶然が!怖い!!


「あぁぁぁのっ待ってください。」


 一気に焦りが駆け巡る。

 私は慌てて手の中の本をタワーの上に積み重ね、アレクシスさんに近付く。


「ほんとに、帰りたいとかは思ってなくてですね。」


 誤解をなんとか解かねばと目の前へ歩み寄り、頑張って言葉を重ねているというのにだ、アレクシスさんの方は全然信じてない顔で言うのだ。


「高い教育を受けられる環境にいらっしゃり、そのお歳で世界を越えられて、ご家族にも会えない状況でなのです。致し方ありませ…」

「だから!思ってないって言ってるでしょ!!」


 思わず、大きな声で遮ってしまった。

 声を荒げた自分に、恥ずかしさが沸く。

 でも、じゃないと、このまま話を信じてもらえそうに無かったから。仕方ない仕方ないじゃない。行き場のない手をぎゅう…と握りしめて、スカートの裾を握る。


 アレクシスさんは私の大声に、意外だという顔をしている。

 それからしばし、じっとお互い見つめ合うような形で固まり続けた。


「私…私は…」


 言おうとして、言葉に、迷う。

 言って良いのかもわからないし、深く考えてもなかった事だけど、人に話すことに対する忌避感が何となくある。

 しかし、これを言わずに相手を納得させる言葉を作れる気がしない。

 コミュ障口下手には難しすぎる。


「私は、死んで、それから女神様にお願いされて、それでここに来たんです。帰る事を考えたことはない。」

「死…」


 どうも拙くなってしまう説明。その内容に、痛ましそうにアレクシスさんの眉間が寄せられる。

 別の誤解が生まれてるのがわかる!胃が痛い!

 若い身空で亡くなったと思わないでくれ。たのむ。たのみます。

 30代でも十分まだ若いと言えるけど、ハイティーンで死ぬのとは全く感じ方が変わる。


「だから、変に誤解しないでください!」


 真意が伝わらないとわかっていても、思わずもう一度叫んでしまう。

 若い身空では死んでない!

 強く見つめていると、アレクシスさんの顔が徐々に見たことのない表情に変わっていく。

 眉尻が下がって、どこか心もとない様な顔になって、いつもならまっすぐ射抜く目が一度だけ反らされ、戻された。


「申し訳ありませんでした。あまり…話したくない事までその口にさせてしまいました。」


 言葉を最後まで聞き届けたことで、その顔が、申し訳なさで浮かんだものだとわかった。

 少しでもわかってもらえたことに安堵して、少し肩から力が抜ける。


 ああ、そういえば…


「初めて、自分が死んだことを人に話しました。」

「申し訳ありません。」

「何故か…わからないですが、すごく、気持ちが楽になりました。」


 私は、死んだ。


 当たり前の事のはずだったんだけど、自分でそれが当たり前になっていなかった。見た目も私のじゃないし、これはあんまり私だと思えなかった。

 でも、この世界の人に言葉で伝えて、私は…



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― 新着の感想 ―
[一言]  あお(アオ)と言えば、記憶の中で、牛の名前だな。。。 と  なので、毎回、主人公の名前アオが出るたび、牛だな。。。 と、余計なことを思い浮かべてしまいます。  
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